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今日からはじめるダイエット計画

 

 私は部屋の中央で仁王立ちになって、腕を組んだ。


「果林のメンタルは、蚊よりも弱いわね」


 去る者は追わないのが私の生き方なので、特に果林に用事があるわけではないから話しかけたりはしないけれど。

 用事があるときは別だ。その時は頭の中の果林を叩き起こそうと思っている。

 方法は分からないけれど、私自身だもの。なんとかなるわよ、きっと。


「蚊にメンタルがあるのだろうか」


 サリエルが言う。

 先程から薄々思っていたのだけれど、さては天使というものは、物事の表面しか見ないのではないかしら。


 今のはたとえ話だ。蚊にメンタルがあるかどうか、私だって知らない。

 とはいえ、蚊はどれほど叩かれそうになっても血を吸いにやってくるのだから、メンタルがあるとしたら果林よりも強いだろう。


「あるとしたらの話よ。努力しなさいと一言言っただけだというのに、めそめそ泣くなんて。弱すぎやしないかしら。死のうとする根性と、私を悪女だと謗る根性はあるというのに、努力という言葉がそんなに苦手なのかしらね」


「白沢果林が何も努力をしていないような言い方だ」


「何か努力をしていたの?」


「シャーロット、皆が君のように強く在れるわけではない」


「それはそうでしょう。私ほど優れた存在はいないのだから。皆は私のようにはなれない。そんなことは当たり前よ」


 そんなことは理解している。

 私は別に私のようになることを、他の誰かに求めてはいない。


「体型が嫌なら、痩せる努力をしたら良い。食事が好きでまるまるとした体つきが気に入っているのなら、それはそれで良い。果林は自分が嫌いだと言ったわ。それなら簡単なことじゃない。痩せれば良いのよ」


「シャーロット。それができない人間も、この世には大勢いる」


「だから?」


「君は他者の痛みを理解することをすべきだ。それは優しさという」


「馬鹿じゃないの、天使の癖に」


 自分の体形が嫌いと言っている果林に、それじゃあ痩せる努力をしなさいと言うのは何も間違っていないだろう。

 そうね、よしよし、可哀想にと言って撫でまわしたところで、体型が変わるわけじゃないもの。

 私は別に、子豚みたいで真ん丸な私は可愛い! と言い張っている人間に、痩せろと言っているわけじゃない。

 サリエルはやっぱり馬鹿なのかしらね。


「……撤回を、要求する」


 低い声でサリエルが言った。


「天使なのに怒るのね、サリーちゃん」


「俺は怒っていない。君の無礼を正しているだけだ。俺は君の協力者であり、君の監視人だからな」


「ふぅん。ま、なんでも良いわ。あなたが私の協力者なのなら、協力なさい」


「もう助けを求めるのか、俺に?」


 驚いたように言うサリエルを、私は半眼でじっと見据えた。

 やっぱり馬鹿なのかもしれない。大丈夫かしら、この天使。役に立つのかしらね。


「助けを求める? 違うわよ。あなたはあなたの役割を果たせと言っているの。協力者なのでしょう?」


「……君が何か問題を起こさないか、監視している」


「監視なのか協力なのかはっきりなさい」


「監視者であり、協力者だ。君の体は、白沢果林のものだからな」


「それなら協力なさい」


「協力、とは」


 私は、大きく頷いた。


「この体で生活することは、私にとって苦痛でしかないの」


「取り換えることはできない」


「ダイエットをすると言っているのよ。体重を落とすわよ。そして、シャーロット・ロストワンが生活をするのにふさわしい外見の女に、果林をつくりかえるのよ。まぁ、見てなさい。甘味や揚げ物、菓子の欲求に打ち勝つことなど、私にとっては簡単……簡単だわ……!」


 一瞬、頭の中になにやらおいしそうな楕円形の物体が思い浮んだ。

 なにこれ。果林の好物なのかしら。


『それは、コンビニのコロッケです……』


 またも、頭の中に小さな声が聞こえる。

 なんだ、話ができるじゃないの。

 その調子で頼むわよ、果林。別に私は、あなたをこの体から追い出したいと思ってないもの。

 良く分からないけれど、私はあなたの体を、間借りしている。

 サリエルが言うには、どうやらそれがあなたを救うそうなのよ。

 つまり、ダイエットしろということなのかしらね。メンタルが蚊並みのあなたに変わって。

 ――などと、色々話しかけてみたけれど、果林からの返事はやっぱりなかった。

 果林は時々単語を発する妖精さんのようなものなのかもしれない。まぁ、それも良いわ。


「サリー、あなたは私のために、あらゆるダイエット方法について調べなさい。私はこの国のことを知らないのだから、あなたは情報収集係。つまりは、諜報員よ。頼むわね」


「諜報員か……」


 サリエルが、なんだか少し嬉しそうに瞳を輝かせた。

 諜報員という響きが気に入ったのかもしれない。馬鹿だわ。


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