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終章



 ぱちりと目を開くと、明るい日差しが視界いっぱいに広がった。


 心地よい風が髪を揺らし、頬を撫でる。


 どこまでも続くような広い草原には、木々がまばらにはえている。

 その木々の木陰で、私は横たわっているようだった。


 風に揺れる髪は金色で、胸を締め上げているコルセットがとても懐かしい。

 豪奢なドレスの胸の紐が少しだけ緩められている。


 体の下が温かい。

 しっかりした腕が、私を抱きしめているようだった。


「……セルジュ様」


 銀の髪にアメジスト色の瞳をした美丈夫が、私を覗き込んでいる。

 私と目が合うと、セルジュ様は優しく微笑んだ。


「起きたんだね、シャーロット。良かった。今日は日差しが強いから、気分が悪くなってしまったのかな」


「……ここはどこで、今は、いつですの?」


「今日は君の誕生日会。君は途中で気分が悪くなって、倒れてしまって。医師が、涼しい場所で休ませろというから、誕生日パーティーの席から君を連れて、逃げてきた」


「…………セルジュ様と私は」


 覚えている。

 私は死んで、果林となって、ここではないどこかの国でセルジュ様と会った。

 あれは、長い夢だったのだろうか。


「天使がね、君と私の運命は、変わったと言っていた」


「サリーが?」


「天使とずいぶん親しくなったようだね、シャーロット。嫉妬をしても?」


「天使に恋愛感情は存在していないそうですわ。でも、嫉妬は可愛らしいと思うので、していただいて結構ですのよ」


 私はセルジュ様の膝から起き上がる。

 いつもなら、乱れた髪や服をすぐに直しているのだけれど、今の私は、そんなことはまぁいいか、と思ってしまった。

 木陰に座るセルジュ様の横に座って、その肩に体を預ける。


 セルジュ様は私を片腕で引き寄せると、額にそっと口付けた。


「天使の計らいで、私たちは、生きている」


「運命が変わったというのは?」


「ここはね、シャーロット。白沢果林が書き上げた、物語の世界らしいんだ」


「あら、そうですのね」


 私はそんなに驚かなかった。

 果林ははじめて会う私のことを、昔から知っているようだったし、悪女と呼んでいた。

 あの国とこの国は、まるで違う。

 まるで世界が違うみたいに。


 だからそんなこともあるだろうと思う。


「私は、紅樹をモデルに作られた存在で、シャーロットは、果林の理想」


「元の話では、私はセルジュ様に捨てられて、暴漢に襲われて傷つけられて、セルジュ様やセルジュ様の婚約者を恨み悪事を働く悪女だったのでしょう? サリーに聞きましたわ」


「そう。君は強く凛としていて、儚く悲しい、悲劇のヒロインだった。でも、君は物語から逸脱した。馬車は襲われ、君は命を落とした」


「それは私がシャーロット・ロストワンだからですわ。私の手綱は私が握る。私の人生は、私だけのものですから」


 セルジュ様は、そうだね、と言って、明るく笑った。


「果林はどうやら、物語の結末を変えたらしい。婚約破棄は起こらない。君と私は手を取り合って、これから悪に立ち向かっていく」


「良いですわ。その方がずっとわくわくしますわね」


「……シャーロット。私はこれから、君にたくさん迷惑をかけるかもしれない。怖い思いをさせるかもしれない」


「望むところですわ」


 私はセルジュ様をじっと見つめると、その体に手を回して思い切り抱きついた。


「私を誰だと思っていますの? このシャーロット・ロストワンが、どんな悪でもさくっとぶちのめしてやりますわよ!」


 私は向こうの世界で覚えた言葉を、得意気に言った。

 セルジュ様は「良いね、ぶちのめそうか、シャーロット」と言って、私の体を強く抱きしめ返した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 書いていただきありがとうございます。余韻が残る感じで今回のお話もとても素敵でした。水泳部の部長も実は。。。ってところも良いです!
[一言] 優しい世界と、良いお話をありがとうございました。
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