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シャーロット様、美男子に挟まれる



 特にこのような状況を求めていたというわけではないけれど、私はヒレカツ定食を食べる眼鏡の美青年と、天ぷら蕎麦を食べる神秘的な美青年に挟まれて、魚肉ソーセージをもくもくと食べている。

 手づかみで、素材そのままの大きめの物体を食べるという得難い経験をしている私。

 しかもその姿をサリエルと榊先輩に見られている。これは一体何の神罰なのかしら、という感じだ。


「魚肉ソーセージ、おいしー……」


「泣きながら言わなくても」


 ヒレカツ定食を美味しそうに食べているサリエルに言われたくない。

 しかし魚肉ソーセージは美味しい。それと結構お腹に溜まる。ありがたい。


「あの、はじめまして。……果林さん、だよね。蒼依の妹の」


「あぁ、はい。そうです。あのクズメガネ……じゃなかった。蒼依お兄様の妹です」


「果林さんはずいぶん話し方が丁寧なんだね」


「おかしいでしょうか?」


「そんなことはないよ。はじめまして、果林さん。私……ではなくて、俺は榊紅樹。蒼依とは生徒会で一緒で……」


「はじめまして榊先輩。白沢果林と申します」


 シャーロットとは名乗れないので、私はこの体の名前を言った。

 魚肉ソーセージが縁を繋いで、そのうち果林に戻った果林がこの美男子とお付き合いをすることもあるかもしれない。

 果林のためと思って丁寧に対応しておこう。


「紅樹で良いよ」


「紅樹先輩」


「果林さん」


 紅樹先輩は何故か知らないけれど嬉しそうに微笑んだ。

 食堂でサラダと魚肉ソーセージを食べるふくよかな女が好き、とかいう趣味をお持ちなのかしらね。


 それにしても紅樹先輩は天ぷら蕎麦を早く食べた方が良いと思う。麺が伸びる。


 麺が伸びるというのは、麺がスープを吸ってくたくたになって質量が増すこと。

 果林はいっぱい食べるために、わざと麺を伸ばすまで伸ばしていた。すごく悲しい記憶だ。


 質量は増すけれどカロリーは特に変わらない。

 あとカップ麺を食べた後に白米を中に入れるのは絶対にやめたほうが良いと思う。美味しいのは分かるけれど、それは背徳の美味しさだと思う。


「……ところで、果林さん。新任の、沙里先生とはずいぶん親しいようだけれど、知り合い?」


 紅樹先輩が軽く首を傾げて言った。

 そういえば、普通にサリエルと会話をしていたわね、私。『サリー』と呼んでいたものね。

 沙里先生なので、ニックネームとしてサリーはそうおかしくはないけれど。


「あぁ……俺と果林は古くからの知り合いだ」


「古くからということは、蒼依とも知り合いということですか?」


「いや。果林が昔通っていたピアノ教室で、アルバイトで教師をしていたことがあって」


 確かに果林は幼い頃ピアノ教室に通っていた。

 蒼依は通っていないので、蒼依はサリエルのことを知らない理由にはなる。

 当然サリエルはその時教師なんてしていないのだけれど、なんだかサリエルにピアノを教えてもらったような気になってくる。

 これは、記憶の改竄、というやつなのかしら。

 サリエルがさらっと教師の立場におさまっているのも、同じような天使の力を使ったのかしらね。詐欺だわ。


「そうですか。すみません、教師と生徒の間柄にしては、ずいぶん親しいように見えたものですから」


「紅樹先輩、生徒会として心配をして声をかけてくれたんですか? 私がサリーに絡まれているのではないかと?」


「サリー……沙里先生のことだね。それもあるけれど、……どうにも、俺の知り合いに、君が似ている気がして」


「紅樹先輩の知り合いに、魚肉ソーセージをこよなく愛するふくよかな女子高生がいるということですね」


「そういうわけではないけれど」


「魚肉ソーセージはサリーがくれたので食べているだけで、私の好物というわけではありませんのよ。私、ダイエットをしているのです」


 紅樹先輩の誤解を解こうと、私は言った。

 魚肉ソーセージにときめかれても、毎日食べるわけではないので困るからだ。


「ダイエット?」


「ええ。この通り私は豊満な体型をしているので、これでは満員電車がより満員になってしまうというもの。好きな服を着て、好きな髪型にして、青春を謳歌するために、まずはダイエットをしなくてはなりませんの」


「痩せなくても、果林さんは十分魅力的な人だと思うけれど」


「その甘い言葉に騙される私ではありませんのよ。紅樹先輩が女性に優しいということはよく分かりました。けれど、私の決意は揺るぎません」


「そのままでも愛らしいのに?」


「どういうつもりですの?」


 私はぎろりと紅樹先輩を睨んだ。

 初対面の女性に愛を囁く男なんてろくでもない男しかいないのである。

 

 これは私の容姿がシャーロットだろうが、果林だろうが同じだ。


「……いや。……それなら、俺もダイエットに協力しようかな」


「その必要はない。果林の体調管理は、俺の仕事だ」


 紅樹先輩の提案に、すかさずサリエルが口を挟んだ。

 何故か無言で睨み合いをはじめる二人を尻目に、魚肉ソーセージを食べ終えた私は席を立った。


 食事が終わったので、私は忙しい。

 ぼんやり座っている場合でもないし、ヒレカツ定食と天ぷら蕎麦を食べている二人に構っている暇などない。



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