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シャーロット様、母の人生相談を受ける


 私は目の前に置かれたほかほかご飯をそっとよけながら、お茶の入ったコップに手を伸ばした。

 それは緑茶というらしい。紅茶しか飲んだことがなかった私だけれど、緑茶というのもなかなかどうして悪くない。

 口をつけると、少し苦くて、さっぱりする味がする。

 食欲が少し落ち着いた。ような気がした。多分気のせい。残念ながら今もものすごく食べたい。


「果林ちゃん、口が悪いわ! お父さんをそんなふうに言ってはいけないわよ」


 お母様が私を注意してきた。

 本気で怒っているらしい。泣いたり怒ったり、忙しいわね。


「ゴミクズを、ゴミクズと言って何が悪いのかしら? 浮気をする男はゴミクズ。古来からの常識じゃない」


「いつからそんなに口が悪くなったの、果林ちゃん。果林ちゃんは良い子だったのに、まるで別人だわ」


 流石に母というのは、愛する娘の中身が別人に変わったら気づくのかもしれない。

 私はどうしようかと、思案する。


 サリエルからは私がシャーロットであることを言ってはいけないと禁止されているわけではないけれど、これ以上の混乱は避けた方が賢明だろう。きっとこのお母様は心があまり強くない。


 心の強くないこの方を泣かせるのは簡単だけれど、私にとって今一番重要なのは、食事のメニューをどうにかしてもらうことだ。

 毎回これでは、私のダイエット計画に支障が出てしまう。


 果林にたくさんご飯を食べさせることと、お父様、もとい、クズ野郎の行動についての関連性がよくわからないけれど、何かしら深いところで繋がっているのかもしれない。


 つまり、私の食事メニューの改善は、お母様がクズ野郎を克服する必要があるということだ。


「実は、お母様。ダイエットを決意した私は、人間的にもうまれかわろうと思ったの」


「どうして? 果林ちゃんは優しくて良い子だわ」


「……でも、私は弱いのよ。お母様の作ってくれた食事を断りきれずに全て食べて、こんなに大きく育ってしまったの。だから、強くなろうと思って。強くなるためには、ゴミクズ野郎をゴミクズ野郎と呼ぶ勇気を持たなくてはいけないのよ」


 よし。なんだか美談におさまった気がするわよ。

 確かに口が悪いのはいけないわね。淑女として、よくないことだわ。

 けれど、ゴミクズ野郎としか表現できないゴミクズ野郎を、ゴミクズ野郎と呼ぶ勇気も時には必要。

 ゴミクズ野郎、ゴミクズ野郎。もう一つおまけにゴミクズ野郎。

 あぁ、スッキリするわね。このスッキリのために、私は生きている。


「果林ちゃん……でも、お父さんは、果林ちゃんのお父さんで」


「いらないわよ。ゴミクズの父親なら、いない方がマシというものだわ。いつから他の女……よりにもよって、お母様の友人と浮気をしているの、ゴミクズ野郎は」


「果林ちゃんが、お母さんのお腹にいる時から……」


「ゴミクズやろうめぇぇぇ!」


 いけない、思わず大声が出てしまったわ。

 私がこの世の中で一番嫌いなものは、男性の心変わりなのよ。

 婚姻というのは、神様に誓いを立てるということ。

 婚姻関係にありながら浮気をする男は、死んで良い。

 そして、私を(私ではなくて果林なのだけど)お腹に宿したお母様を裏切る男など、万死に値するわよ。


「果林ちゃん、落ち着いて……!」


「お母様、私、気が立っているのよ、なんせご飯を我慢しているのだから!」


「食べる、果林ちゃん、食べる!?」


「食べないわ!」


 私は席を立った。

 この怒りを、どうにかしなければ。例えば、サリエルを殴るなどして。


「お母様、私は強くなるわ。強くなって、必ずダイエットを成功させてみせる。そして、お母様に、素敵な彼氏を紹介するわよ。お父様のような浮気男ではない素敵な彼氏を……! 孫の顔を楽しみにしていて!」


「果林ちゃん……」


 お母様はうるうる涙ぐんだ。

 それは先ほどとは違う、どことなく晴れやかな涙に見えた。




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