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98 ディオの秘密

お読みくださりありがとうございます!

 大きな不安と罪悪感を持ったアルドは焦点の合わない視点をディオに向けて大人しくしていた。


 そんなアルドをよそにトリスもフランもいつも通りで、まるでディオが怪我したことを忘れているにも見える。それは御者を務めるシドも同じようだった。


「トリス。シドの服に刺繍入れるけど何がいいと思う?」

「兄さんのですか。大抵のものはやりましたし悩みますね」

「そうなんだよね。いっそワンポイントやめようかな」

「却下だ」


 フランが考えを聞いたシドがそれに意見し、フランはえ〜と納得いかないようにこぼした。


 まともにやってくれる時はいいのだが、普段使いのものとなると時折おかしなものを突っ込んでくる。練習だからとハートやディオの横顔なんてものあった。


 刺繍の技術は高いためどこに出しても恥ずかしくない1品なのはいいがそれはそれで困る。トリスの習作でも困るが。


 と、アルド以外は通常運転である。

 気楽すぎると言うべきか、王子(ディオ)が怪我を負っているというのに緩すぎる。

 ディオも自分に何かあったらシドたちが困ると言っておきながら焦った様子も見せていなかったし。


 アルドは気がついていないがシドたちは通常運転に見せているだけ、内心はちゃんとディオのことを心配している。ただディオがシド達にずっと言い聞かせてきたことを有言実行したわけでディオの本気が分かるからこそかける言葉が難しい。


 馬を走らせ数時間、1度休憩を入れることにして馬車を止める。ちょうどディオも目を覚ましたところだった。


「おはよ、アルド」

「大丈夫なの?」

「うん。そこまでひどいわけじゃないし」


 アルドの記憶ではざっくりと腕を切っていたはずだなのだが、ディオはけろっとした様子で大した怪我じゃないと言う。ディオは時に何食わぬ顔で嘘をつくから油断ならない。


「いや、けっこう切れてたし、毒だって塗ってあったって……」

「そうだけど、オレが死ぬような怪我でもないからね」


 そう言ってディオは怪我した腕を反対の手でポンポンと叩いた。痛がる素振りもなくいつも通りのディオだ。

 もしかしたらもうディオたちと一緒にいられなくなるかもしれないとか、人から庇われこととか、大切だと思える人が傷ついたこととか、様々な不安が入り交じるアルドには到底受け入れられないが。


「だからって……」

「あー、もうディオ様!じっとしてて言ったのに〜」


 救急箱を持ったフランが割ってはいる。馬車の中にいるようにディオに声をかけていたらしいのだが、救急箱を取って戻るとディオがいなかったために探していたようだ。


「ごめん。アルドが心配でさ」

「気持ちはわかるけどね」


 フランは馬車の中に入っても面倒だとその場で簡単な診察を始める。こういう時ほど細かくチェックして異変にすぐ気づけるようにしておかないとならない。

 自分の役割だけはしっかりと果たさなければとフランもわかっている。他がポンコツでもここにいれるのはそのおかげだ。


「よし、大丈夫そう。包帯(これも)外しちゃうね、ずっとつけてても衛生的じゃないし」

「あーうん」


 手馴れ動作で包帯がほどかれていく。怪我はそれなりに深かったのか外されたガーゼや包帯は赤く染っていた。

 フランはそれをさっさと袋に入れて片付けるとディオの腕についた血を落としていく。


「え?」


 アルドが驚きに声をあげた。

 あるべきはずの怪我がディオの腕には一切なかった。


「……なんで」

「えーと、 ほら、元気だから?」


 誰よりも元気だからとディオは言って見せるが、さすがにそれが通用するほどアルドも幼くはないし、過酷な世界で生きてきたぶんそういう嘘は通じない。ついた傷がたった数時間で治るなんて信じるわけもない。


 視線が合っていた目がアルドからはずれ、ディオの視線は不安げに揺れる。


「ディオ」


 様子を見ていたシドが短くディオのことを呼んで、ディオは大きく息を吸い込んで小さくうんととだけ零すとアルドと向き合った。


「アルド。これはオレの……いや、国にとって最大の隠し事なんだけど」

「うん」


 聞いたら逃げられなくなるような前置きをしてからディオはアルドの隣にゆっくりと座った。自分のことを伝えるにはちょうどいい機会だと観念するように。


「――オレには妖精の力が入ってる」

「…………………」


 アルドは何も言わずにディオの言葉の続きを待った。余計な口を挟むとわけがわからなくなりそうで。


「だから怪我もすぐ治るし、妖精と連絡とるのも出来る。まあそれが原因で疲れてすぐに寝ちゃうらしいんだけど」

「そう、なんだ」


 フランの家で妖精についての本を読んだからこそわかる。ディオの異常さが、今こうしてディオが生きてる自体が奇跡と呼ぶのにふさわしい。


「うん。生まれて半年くらいにシルクの羽をかじったみたいで、そこからずっとこんな調子。ベル兄が気づかかなかったらどうなってたか」


 ジークベルトはディオが生まれてから時間があればディオのところに行っていたらしく、それで気づくのが早かったようだ。


「あの溺愛も役に立つことあるんだ」

「みたいだね」


 アルドの言葉をおかしそうに笑ったディオは、これがオレの最大の秘密だと言って立ち上がった。なんだかその背中はアルドから距離を取ろうとしているみたいに見える。


 なんとなくアルドはディオの考えてることが分かった。

 ディオは自分の異常さを気持ち悪がるとでも思ってるのだろうが、なめんな。


「けど、ディオはディオでしょ」


 ディオの背中越しにちょっとだけぶっきらぼうに投げかけられたアルドの言葉にディオは振り返る。


 気恥しさから顔を背けたアルドに笑ったディオはうっすらと瞳をうるませて笑った。

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