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97 小さな違和感

お読みくださりありがとうございます!

 ――コンコンコン。


 ノックの音がして手の空いていたフランが対応に向かって、手紙を受け取って戻ってくる。どうやら実家(デイジー)からの手紙だったらしい。


「ディオ様、シド。半月後なんだけど休み取ってもいい?ジゼルとヘレンがカトリーちゃんの家に遊びに行くみたいで、デイジー姉さんは予定が合わないからこっちはって」


 デイジーからの手紙を読み終えたフランは、手紙を読み終えるとすぐにディオに確認を取った。


「んー大丈夫だと思うけど。シド」

「ああ、大丈夫だ」


 ディオはすぐ近くで雑務を片付けるシドを呼んだ。

 話は聞こえていたようでスムーズに返答が返ってくる。


 ちょこちょこと予定はあるがそれくらいなら問題はないらしい。というかフランが抜けても城の中でなら大きな問題はない。困ることがあるとすれば――。


「ありがと、シド。そうすると城を出れなく(動けなく)なっちゃうね。オレもついてこっかな、落ち着かないし」


 商人としての旅も行動に制限はあるものの、ある程度自由にディオが動けるのはフランがいてくれることも大きい。

 妖精から周囲の様子を聞けるディオがいて危険回避がかなりできることが前提であるが、かなりの腕利きで護衛が出来るシドとトリスはもちろんのことだが、ディオにはそれだけでは足りない。


 その穴を埋めるのがフランだ。

 ディオに仕えるあたり医者の免許を持つ父親に医学を叩き込まれているのでそこそこ診断や対処も出来る。

 フランは薬学が本職ではあるが、家柄と父親からの教えで妖精にも詳しい。


 ディオが城の外で動くには腕の立つ護衛はもちろんだが、医療知識を持つ者の同行が求められる。妖精についても少なからずの知識も。


「そうだな、その方がお前にはいいか」

「でしょ?」


 しばらく先の予定とはいえディオにとっては嬉しい予定があり、その日を思うと今からでもディオはそわそわして心が落ち着かない。

 それが分かるシドはため息をついて承諾した。


 ディオたちはフランだけをグレイ伯爵家、カトリーヌの家に置いて近場でゆっくりと時間を潰そうとしていたのだが、それを知ったリサとカトリーヌの好意でお邪魔させてもらうことになった。


 それ自体は何事もなく終わりディオたちは次の目的地に向かう。向かう先は国境沿いの港町だ。


 馬車は森の中を走り出し、ディオは妙な違和感を抱いたがそれがなにか分からないまま昼食の時間になる。


「まだ悩んでるの?」

「うん。なんて言うか、静かすぎ……」


 アルドに感じた違和感を説明しようとしたディオは、違和感の理由に気がついてすぐさまシドを呼んだ。

 森には妖精が多くいるのが常なのだが、その妖精の姿が見当たらないとなればおそらく――。


「シド!」

「分かった」


 たったそれだけでシドは、いやシドたちはディオの言いたいことが分かった。自分たちが野盗に狙われていると。


 すぐに警戒態勢をとったシドはディオとアルドに馬車の中に入るように伝え、ディオもそうしようとしたのだが馬車に入る直前矢がアルド目掛け飛んできた。


「――アルド!」


 ディオはアルドを抱きとめて矢をかわす。自分の身を盾にアルドを庇い、ディオの腕に矢が掠って傷を負う。


 トリスは矢の飛んできた方向へ視線を向けて、すぐに矢を放った相手を見つけナイフを投げて無力化しシドとともに臨戦態勢をとった。


 フランはディオまですぐに駆け寄ると自身が周囲から壁になるような位置をとりディオと狼狽えるアルドを馬車に押し込む。


「毒が塗ってある。気をつけて」

「ああ」


 ディオは馬車の扉が閉められる直前、外にいるシドとトリスに野盗の武器に毒が仕込まれていると知らせる。

 矢に塗られていたのなら、きっと他の武器もそのはずだと。


「ディオ様、止血だけはしないと。解毒も」

「オレは要らないけど、シドたちに用意しておいて」

「うん。でも我慢はダメだからね、ディオ様」


 フランの手当てを受けながらディオは自分の受けた毒の症状をフランに伝える。

 おそらくフランなら症状が分かれば解毒薬もすぐに作れるだろう。自生しそうな草も分かるはずだ。


「アルド、怪我は?」

「……ディオ。おれ、その、な、んで……」


 アルドのことは庇ったので怪我はないとは思うがかなりギリギリだったために不安は残る。それにかなり狼狽えているようだから。


 目の焦点が合わず、まともに言葉が紡げていないアルドはうわ言のように言葉にならない言葉をこぼしていた。


 ディオは怪我をしてはいけなくて、させてはいけなくて、そんなディオが自分を庇って怪我をしていることへの罪悪感。そして、アルドにとって大切な誰かが傷つくことが初めてで頭が上手く回らない。

 まわらない頭でも理解したのは自分がやってはならないことをしたというだけだ。例え、ディオが自らの意思で動いたとしても――。


「アルド君。ディオ様のことなら心配いらないよ」

「死ぬような毒じゃないし。オレは人より丈夫だからね」


 そう言ってディオは自分の胸をドンと叩く。しかしアルドの反応は薄い。


 そうこうしているうちにディオは眠気が差したと眠ってしまうが、アルドにはそれがさらに不安の種になってしまったができることが何もなくアルドはディオの近くでただディオが呼吸をしているのを眺めていた。


 しばらくしてシドとトリスが戻ってくる。

 致命傷はないものの小さな怪我はあるので万が一のために解毒剤を飲み、馬車を出発させる。


 2人ともディオの行動に対してため息は吐いたが、ディオが起きてもそれ以上のことは何も言うこともなかった。

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