96 貴族たちの
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「シド。……あの、さ」
アルドは小声でシドを呼んだ。
理由はディオが眠っているから起こさないように配慮をしたと言うより、他の人に聞かれたくないからといったふうだ。
実際アルドはトリスが部屋を出ていった瞬間にシドを話しかけたのだから間違いではないだろう。
「なんだ?」
「この前の、えっとフランの家から招待状が届いた日なんだけど……」
日が経っているからか気まずそうな口を開くアルドは、シドと目を合わせずに小声で言った。
すぐに伝えられたら良かったのだが、なかなかタイミングが合わず時間だけが流れてしまった。トリスなので重要なことなら伝えるはずというのもそれに拍車をかけた。
「あの日もう1つ手紙があって……」
「初耳だな」
やっぱりシドは知らなかったかとアルドは息を吐いた。
受けとった手紙をすぐに破いて捨ててしまったトリスは、その行動に驚くアルドに気にしないでくださいと淡々とだけ言って、一緒にディオの部屋に戻った。
「渡して来た人は実家からだって言ってて、その」
トリスにいいのかと聞こうにも聞きづらい雰囲気を醸し出していてアルドは躊躇ったし、手紙を拾おうにもトリスが手紙を捨てたのはゴミ箱ではなくゴミ捨て場直行の配管だった。
まあ仕事のことではないようなので必ずしもシドに伝える必要もないとアルドも思ったのだが、シドとトリスは兄妹なので伝えた方がいいとアルドは判断したようだ。
ディオに伝えても良かったのだがまずはシドに。
「そうか。家の方には連絡しておくが、大方父上からの手紙だったんだろう。トリスは父上からの手紙だけは読まずに捨てるからな」
「え?いや、それは大丈夫なの?」
家族というのには疎いが、確か貴族のみならず、一般的には父親は家族の中では1番偉い立場ではなかったかとアルドは思う。
なんとなく貴族社会も分かってきたアルドもトリスの行動に改めて驚きを隠せない。
「大丈夫とは言い難いが大抵トリス宛は縁談についてだからな。少なからず大きな問題にはならない」
「そういえば前に言ってたっけ、小言を言われるとか」
「そろそろ行き遅れと呼ばれる年齢だから余計にな」
貴族の令嬢は10代で結婚することが多く、20歳を過ぎると行き遅れなんて言われてしまう。トリスの歳だと庶民でギリギリなくらいなのである。
なので家族や使用人たちから心配から出る小言を言われるのも無理はない。
「そっか。そういえばシドたちもそうなわけ?」
「女ほどじゃないが妻を娶れとは言われるぞ。まぁ同じようなものか」
ただ1番言われるのは長兄であって、長兄に子がいれば家は安泰とひとまず急かされることは少なくなるらしい。
なのでシドも、ディオも割と自由に出来ているようだ。フランの家は性別関係なく長子が継ぐのでフランが家を継ぐ予定もないため好きにやれている。
シドはそうアルドに説明したあと自分たちの立場について口にする。
「行き遅れはさて置いても俺たちは仕える身だからな、主の許可がなければ結婚は出来ない」
「ふーん」
ざっくりとして言うなら、雇い主の所有物扱いになるため主が許可をしなければ難しい。爵位などの立場も絡んでくるので一概には言えないが、少なくともシドやトリスは国の最高権力者の一家に仕えているので両親よりディオの許可が優先順位が高い。
「ディオは好きにしていいと言ってるがな」
と、そこに強制睡眠から目覚めたらしいディオがあくびをしながらやってくる。
「オレのわがままにずっと付き合わせる必要もないからね。本人の意思に任せることにしてる」
「あ、起きたんだ」
どうやら会話が聞こえていたようだ。
ディオは自分の意思をアルドにも伝える。
結婚についてもそうだが、ディオは自分に仕える仕事自体も好きにしていいと言う。世間の評価や出世の見込みもない仕事なのだからこそ無理に縛り付けたくないと。
「まぁそれを盾にしてる人もいるんだけど。ね、シド」
全くと呆れたように笑ったディオにシドは視線を向けられるとなんの事だととぼけてからディオのためにお茶を淹れ始めた。
Q. 盾にしてる?
A.オレの使用人は少ないから忙しいから時間はないとかね。 by ディオ
手のかかる新人の世話で余裕がないって断ってた時もあったよ。 by フラン




