88 ディオとリサ
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ヘンリーへの引き継ぎも無事に終わり、ダニエルは自宅へと帰って行った。
帰る前日にリサたちがダニエルに感謝を込めたささやかなパーティーをして、ダニエルとカトリーヌの婚約が結ばれることとなった。
カトリーヌに感謝されたダニエルが婚約者なのだからと言いださなければ、危うく放置されるところだったのはご愛嬌。
赤面してどういう顔で会えばいいか分からないとダニエルを見送りに行けなかったカトリーヌと、それを妖精たちから聞かされたダニエルも赤面しながら帰って行った。
それを妖精から報告されたディオは一人柔らかく笑う。
それなりに上手くいきそうなら良かったと。
まだやることがあるとダニエルと護衛たち家へと帰したディオは、残った使用人たち行き先を考えながらグレイ伯爵家の護衛が戻ってくるのを待った。
現使用人の扱いはリサが握っているのでおそらくゴマをすってくる以外は何事も起こらないだろうが、一応万が一を考えたらしい。
そんなディオは大してやることもなく、日々リサやカトリーヌとお茶をしたり、庭をブラブラと歩いては妖精たちと会話をしていた。
「覚えてないのも無理ないかもしれないわ。クラウディオ様も幼かったですし」
「うーん、でもよく母様の後ろに居たんだよね」
「ええ。いつもエルザ様の服の裾を掴んで」
その時のことを思い出そうとするがディオの記憶にはないようで、思い出せないとディオは小さく唸った。
リサと母が時折会っていたのはなんとなく覚えているようなのだが、それがあまりにもおぼろげでディオは覚えてないことに首を捻っていた。
「あの頃はアルフレッド様の婚約の話があった頃ですし、クラウディオ様も精神的に色々とあったのでは?」
「アル兄とティナ姉の……」
その頃のことを思い返せば、そうかもしれない。いろんなことが重なりすぎて記憶が曖昧なのかも知れない。
いつもジークベルト同様に過剰な愛を注いでくれる兄が取られるとは考えていなかったものの、あの頃はちょっと色々とあってマルティナのことを警戒していたのは確かだ。
そのときディオは両親たちに自分と妖精についてを繰り返し教えられたり、妖精たちからの話で少々人間不信になっていたから。
「うん、そうかも」
はっきり思い出せるわけでもないけれど、おそらくそうなのだろうとディオは結論づけて、今思い出したけどと曖昧な記憶を口にした。
「あ、そうだ。リサさんってよくジャム持ってきてなかった?」
「ええ。クラウディオ様はスプーンで掬ってそのまま召し上がっていましたね」
クスクスと笑ったリサはあれは庭師が作ったもので、おそらくトムにも受け継がれていると言う。
庭で採れた果物などを加工するのはコックではなく庭師の仕事らしい。
「明日の朝、出すようにしてもらいましょう。私も久しぶりに食べたいですし」
「うん、そうしてもらえると嬉しい」
「トムったらクラウディオ様の前に出すものではないですからって出してくれなかったんですもの」
王子や侯爵家が食べるようないいものではないとトムは断っていたらしい。
先代ほどの味ではないと言う思いもあったようだ。
それからディオは自身の幼い頃の話をリサから聞く。
家で聞こう思えば家族や使用人たち、妖精からいつだって聞けるのだが、情報過多になってしまうことも多い。特に妖精は。
なので知り合いから聞ける話は新鮮なのだ。
翌朝、ディオのたっての希望と言われて負けたトムは不安そうにしながらジャムを出した。
ディオたちはそれに舌鼓をうち、フランは作り方に興味があるようでトムから作り方を尋ねていた。




