75 妖精の童話
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シドとの勉強を終えたアルドは手持ち無沙汰になりデイジーが持ってきた短編集を手に取った。
普段の旅とも、城の中とも違いやることがないのだ。
フランは自宅ということもあり薬作りや在庫整理などで忙しく動いていて、ディオは眠ったり久しぶりの健康診断でアレックスにちょこちょこと呼ばれて部屋にいないことも多かった。
シドはディオに付き添ったりアルドに勉強を教えたり、他にもやることが多いらしく忙しくしていた。
「退屈。今まではこんなこと思うヒマもなかったんだけどな」
1人しかいない部屋でアルドが言った。
ディオに拾われる前も、拾われた後もやることが多すぎて退屈だと思えることがなかった。
特にこの家では完全なる客人扱いで、手が空いているからとディオのところに来てついでとばかりにアルドに対して仕事の手ほどきをしてくれる使用人たちもいない。
だからアルドは退屈しのぎにと本を開いた。
本はどれも妖精にまつわる物語で、フランが言うには家にある本は妖精についてか薬草についてばかりらしい。
そのため、子供向けとなると妖精の関連の本しかないと言う。
「昔々、あるところに――」
以前と違いスラスラと読めるようになったためつっかえることはない。なので読むのはそう難しくない。
物語はよくある英雄譚のようで、大抵は悪しきものを妖精の力を借りた人間が倒し英雄となるものだった。
アルドは差異はあれど同じような結末を迎える物語に嫌気がさしたと言わんばかりに息を吐いて本を閉じた。
それからフランが淹れてくれていたお茶を飲んで、別の本に手を伸ばしたところでディオが戻ってきた。
「ただいま〜って、どうしたのその顔は? 」
どうやら感情が思い切り顔に出ていたらしく、しかめっ面のアルドにディオが不思議そうに声をかけた。
「別にどうもしないけど、強いて言うなら本を読んで気分が悪くなったってところ」
「あー、そうかもね」
机に置かれた読まれたであろう本を見たディオは納得したように笑った。
「ラストは必ず妖精の力に耐えきれなくて終わるから」
英雄となった人間のその後は決していいものではない。
妖精の力は諸刃の剣だ。一時的に力を得られるが人間はそれに耐え切れるだけの器じゃない。
やるせないとでも言うような表情を浮かべたディオはアルドが読んでいた本を手に取るとタイトルを指でなぞった。
「まぁ妖精にまつわる話ってこう言うのが多いからね。でもちゃんと幸せになる話もあるよ」
そう言って笑ってディオはデイジーが持ってきた本の背表紙を一つずつ見てから一冊の本を手に取った。
それは可愛らしい絵が描かれた絵本だった。
「これとかはそう」
「どんなの?」
さっきまでと似た話はもう嫌だと、アルドはディオに内容を尋ね、ディオは少し悩んで内容を口にする。
「んー、カトリーに妖精がしたことと似てるかな。状況はちょっとちがうけどね」
「手を貸したってこと?」
そうと頷いたディオはティーポットの蓋を開けると乾いた茶葉があるのを見て、そばにあった保温ポットからお湯をティーポットに淹れて自分のカップに注いだ。
「うーん、イマイチ。アルドもどう?」
「……もらう。おれは違いとかよく分かんないし」
空になったカップを見てアルドが言う。
あとでシドに怒られそうだと思いながらも、もうすでにディオがお茶を淹れた後だと開き直ることにしたアルドはディオに空になったカップを差し出した。
不味いのならディオもさっさと減らしたいだろうからと。もっとも、普段味の違いが分からないのはシドたちに一定水準の技術があるからだ。
「安心していいよ、アルド。オレのは一口ですぐ美味しくないってわかるから」
自信たっぷりに言ってのけるディオはなぜか自慢げだ。
アルドもディオが淹れたお茶の入ったカップに口をつけて一言。
「不味い」
「でしょ」
言った通りでしょとディオが笑い、アルドは呆れた顔をする。
「自分でやれたら良いと思うんだけどね」
不満そうな顔をしてディオは一気にお茶を飲み干すと、さっきまでアルドが読んでいた本をベッドの上読み始め、アルドも手にしていた本を読み始める。
アルドが絵本を読み終えディオを見ると、ディオは眠ってしまっていて、アルドはいつもシドたちがしているようにディオに毛布をかけるために立ち上がった。
ちなみにディオはシドに怒られませんでした。
シドも自分が用意していかなかったことを反省。




