70 騎士たちとディオ
お読みくださりありがとうございます!
グレイ伯爵に向かったトリスを見送り、ディオは一眠りをする。
城内でもディオが長く起きていられないことを知るのは一握りであり、王族専用フロア以外に出ようとしたディオをシドが止めたためだ。
突然倒れられでもしたら病気かと疑われてしまう可能性もある。
ディオは興味を持たれない程度がちょうどいいのだ。
「……ド、シド。終わったけど」
珍しくぼーっとしているシドは、アルドがシドに出された問題を解き終わり声をかけるまで今日は気がつかなかった。
「ああ、終わったか。すぐ確認する」
「トリスが心配?」
アルドがシドに問いかけた。
トリスはディオから必要とあればカトリーヌの護衛をするように頼まれて先ほど城を出て行ったばかりだ。
シドのその様子にアルドが思う心当たりはトリスのことだけだ。家族ならその心配もおかしくはないのだろうとアルドは思う。
「いや、トリスなら問題ないと思うぞ」
アルドに出した問題を答え合わせをしながらシドが答える。
家族としての心配は持っているが、シドはあまり心配していないようだった。シドは自分よりも妹の方が冷静な対処が出来ると分かっているから。
「俺が悩んでたのはトリスの抜けた穴をどうするかだ」
「人がいないんだっけ」
「いや、城内にいるなら人手についてはなんとかなるが、出掛けるとなるとちょっとな」
城内にいればトリスの抜けた穴を狙って誰かしらが手伝いに来てくれることは分かっているが、出かけるとなると護衛がシド一人と言うのは心許ない。
トリスの代わりになる騎士がなかなかいないと言うことにアルドは疑問を持っていると、フランがそれはねと解説をしてくれる。
「トリスも実力者だからね。あとはディオ様の事情を知ってる人って少ないから」
「その両方を兼ね備えてる人となると予定がな」
「そうなんだ」
そのため、護衛についての問題があるらしい。
ぞろぞろと護衛を連れての移動はディオの都合上あまり得策ではないこともあり少数精鋭が基本らしい。
「――ふぁ。おはよう」
昼寝から目覚めたディオがあくびをしながらベッドから降りてくると、首をプルプルと振って眠気を飛ばす。
「おはよう、ディオ様。お茶淹れるね」
「水でいい。騎士団のとこに顔出すから」
「すぐ用意するね」
フランがコップに水を入れた持ってくると、ディオは一気に飲み干し部屋を出ようとするので一度シドはそれを止めた。
「ちょっと待て。簡単にでも整えるぞ」
「はーい」
やる気のなさそうに返事をしたディオは近くの椅子に座るとシドが身なりを整えてくれるのを待った。
その間にディオは行商の途中に買ったものをいくつかアルドに用意してもらい、それを持って騎士団の元に向かった。
「ディオ王子! 」
「殿下、しばらく来ないから心配してたんですよ」
「おい、集まれ。クラウディオ様がいらっしゃったぞ」
ディオが騎士団の訓練所に足を運ぶと、ディオに気づいた騎士たちがわらわらと集まってくる。
その誰もが好意的で、あっという間にディオたちは囲まれてしまう。
「なかなか顔出さなくてごめんね。その代わりといっちゃなんだけど、これみんなで食べて」
アルドに用意してもらっていたものを騎士の一人に手渡し、中を見た騎士たちが喜びの歓声をあげる。
「ありがとうございます、クラウディオ様」
「ここで故郷のもんが食えるとは」
ディオが用意したのは、ディオが商人として訪れた地域の食品で都合上ほぼ乾物で日持ちのするものばかりだ。
それでも、故郷を離れている騎士たちにとっては嬉しいものである。
「ディオ様、お茶をお持ちいたしました。先にシドか」
「いや、フランだ」
「おっと、そうだったな」
一つだけ色のカップが置かれた盆で差し出されたお茶をフランが一番に受け取って口をつける。
それからディオが待ってましたと色の違うカップを受け取った。
「ありがと。美味しいよ」
「お世辞でもありがたき幸せです」
「ディオ様は薬のお茶とか結構飲んでるから飲み慣れてるんだよね」
城で出されるような味も値段も逸品なものと違い安物のお茶ではあるようだがディオの舌には合うらしい。
決してお世辞ではないとフランは余計な言葉のようなフォローを入れる。
訂正する必要もないとそれを流したディオは、騎士たちが気になっているであろう存在のアルドを紹介すると、アルドはあっという間に騎士たちに囲まれた。
「へぇ、こんなちっこいのが」
「シドが入った時と同じくらいか?」
「ちびすけ、いつでも来いよ。シドとトリスと同じように鍛えてやっから」
アルドは困惑気味で助けを求めようにディオを見るが、ディオはあまり手を貸すつもりはないらしい。
「騎士との連携は大事だよ、アルド」
そういって、ディオはちょっと団長と話をしてくると奥の部屋に行ってしまい、シドはディオについて行ったため、この場にはアルドとフランだけが残された。
ディオが奥の方に行ったことで騎士たちは残念な様子で、アルドにはそれが不思議でならなかった。
同じ城で働く使用人でさえ、ディオのことをよく思っていないことあるのに騎士たちは皆、ディオに好印象を持っているようだったから。
すると、機微に聡い騎士の一人がそれを察して、アルドの頭に手を置いてアルドに話しかける。
「そりゃあちびすけ、俺たちは実際のクラウディオ様を見てっからな。噂なんか信じねぇよ」
「とか言って、入隊時は鵜呑みにしてたくせに」
「そ、そんなことねぇよ」
そんな会話を繰り広げる騎士たちを驚いたように眺めていると、別の騎士がアルドに声をかける。
「あの方は僕たちみたいな新入りのことまで覚えててくださっているんです」
「初めて呼ばれた時は驚いた」
そう言いながら、ディオが時折持ってくる差し入れでディオを慕っているのも否めないなどと半分冗談が混じる。
休憩は終わりだと号令がかかって騎士が一斉に出て行くが、初老の男とディオと同じ年くらい騎士の二人が部屋に残っていた。
「アルド様、私は副団長のルーファスと申します」
「僕は新米騎士になりますが、ナサニエルと申します」
丁寧な扱いに未だ戸惑うばかりのアルドではあるが、他の騎士と違いわざわざ残って声をかけてきた二人には何かあるのだろう。
「クラウディオ様専属となれば顔を合わせる機会は多くありますゆえ、ご挨拶をと」
「シドたち以外でディオ様のそばに護衛がつくとしたらこの人たち、もう何人かいるけどね」
アルドの返事を待たず、フランが続ける。
「ほら、ディオ様ってそれなりに事情があるから誰にでも任せるわけにいかないでしょ」
「それはわかったけど……」
それにしたって、世間の評価が低いディオに対して騎士から好感度は高すぎやしないかとアルドは思う。
アルドの言いたいことがわかったのかナサニエルが困ったように笑った。
「クラウディオ様が積極的に騎士とコミュニケーションをとってくださる結果です。騎士という役割上、ありがたい話ではあります」
命を賭してお守りするが仕事ですからとナサニエルが続けた。
それがどう繋がるのかアルドが疑問に思えばルーファスが空いた椅子に腰掛けて、一つだけ色の違うカップを手に取った。
「これは単純な心の在り方です。力になりたいと思う方のために剣を振るうのなら、それは大きな力となります」
「好きな人のために動くのと、嫌いの人のために動くのじゃ出せる力にも違うでしょ?」
フランが分かりやすくアルドに伝えるとアルドは納得をする。
「その辺りの理由が大きいけど、あんまり外に出られなかったディオ様の生活圏は城の中だけだったからよく遊びに行ってたみたいだよ」
ルーファスが懐かしそうに目を細める。
「それはぜひ詳しくお聞きしたいことですが今は置くとして、ディオ様がここで好かれているのはそう言った事情です」
とナサニエルが言ったところでディオが戻ってくる。
「なんの話してたの?」
「ディオ様が好かれていることを、です」
「恥ずかしいなぁ、もう」
困ったように笑ったディオの隣で団長がアルドに囁いた。
ディオは騎士の誇りを守るためにも、そうしているのだと。
Q.護衛がそもそも2人はだけって危なくないの?
A.それについてはディオありきだ。byシド
妖精が危ない場所なんかは教えてくれるから基本的には通らないよ。城には連絡しておくけどね。byディオ




