7 なんにもしてないように見えるけど
フランにより数日間行われたリハビリも無事に終わり、アルドは約束の怪我が治るまでの期間が終わった。
約一ヶ月が過ぎて晴れて自由の身になったアルドだが、孤児だったアルドには行くあてがあるわけでもなく、なんとなくそのままディオたちに同行したままになっていた。
居心地がいいとか、情が湧いたとか、それらをおいてもディオたちと一緒にいれば食いっぱぐれることはない。
ひとまず、食事と寝る場所の安全は確保されている。
さりとて、怪我人として同行していた時と同じようにはいかないようで――。
一番アルドに対して対応が変わったのはシドだろうか。
良くも悪くも変わらないディオはさておき、シドは軽い荷物の持ち運びなどアルドが出来そうなことを頼むようになった。
なんでおれがという顔をしたアルドにシドは何を言ってるんだと一言。
「働かざる者食うべからずだ」
と言って手伝わされている。
トリスもフランもそれには何も言わず、自分たちもアルドに声をかけて手伝いをしてもらっていた。
トリスなら片付けなど、フランは目当ての材料が入った箱を探すなど。
そして、ディオからは商人見習いという称号を与えられ、実質この商会の一員にされていた。
「万年人手不足だからね」
見習いの称号を与えられ不満そうな表情をするアルドにディオがいった。
いつも寝てばかりで何もやってないのに、なぜディオがトップにいるのかわからないと目を向ければ、ディオはおかしそうに笑った。
「まぁね、基本シドに任せっきりだし、オレがやってることっていったらアルドを構ってるくらいか」
すぐに何かを言ってきそうなシドやトリスは何も言わず今日の事務作業を淡々とやっていて、フランにいたっては大あくびをしている。
「どうしてもオレがやると中途半端になっちゃうからさ」
「ディオ様にしか出来ないこともあるんだよ。アルド君」
フランは書類を書く手をとめて、アルドの方を見る。
放置してもいいのだが、ディオ本人に任せると何もやってないということになり兼ねない。
だからフランは口を挟む。ディオとは友人でもあって、子供相手にとは思うのだがそのままにしておきたくない。
「ふーん」
「目利きはディオ様が一番優れてるし、ディオ様は人と打ち解けるのが早いから」
信じてなさそうなアルドにフランは説明する。
堅物な兄妹やときおり常識のないフランと比べ、ディオは持ち前の明るさからか人と打ち解けるのは異常に早い。
「商人にとって情報は大切なものだから、手に入りやすい環境も結構大事でさ。儲けにもかかわってくるからね」
「会話が弾むということはそれだけ情報を手にできますから」
フランやトリスが言ったことはアルドにも理解は出来る。
滅多にあることではなかったが、いち早く手に入れた情報で飯にありつけたこともある。そういう時はいつもよりもまともな飯を食えるのだ。
「特に子供相手はシドもトリスも警戒されるし、僕は上手くいかないからね」
基本真面目な二人は怖がられることも多く、フランは見た目では警戒されないのだが子供の興味を引くことは出来ず反対に引かれることもある。
「オレは最高責任者と接客ってとこかな。長引くなら離脱するけど」
「結局なにも――」
「そういうことで、おやすみ」
アルドが言いかけて、ディオはそれを遮り眠りにつく。
逃げたようにしか見えないが、シドたちは何も言わずそれぞれに返事を返すだけだった。
何もしてないようなディオがトップのこの商会はアルドの目から見ればおかしく映るが、アルドは自分の知らない世界だと納得することにした。