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66いざ、アピオス領へ

お読みくださりありがとうございます!

 アピオス領へ向かうと決めたその当日には、既にどこにでも出掛けられるように準備がされていた。


 それなら善は急げとばかりに翌日には城を出ることを決め、朝早くから出発するためにシドたちと共に馬車まで向かった。


「あら、ディオ。もう出掛けるの?」


 移動中の廊下で声をかけて来たのはロザリアだった。


「ロザ姉。少しでも早くって思ってさ」

「そう、気をつけて行ってくるのよ。ディオもあなた達も」

「うん」


 ロザリアは優しく微笑んでディオたちを送り出す。

 引き止めたいと思ってしまうけれど、それはおくびにも出さずロザリアは静かに笑う。


「ベル兄たちにはロザ姉から伝えておいて。行ってきます、ロザ姉」

「ええ、わかったわ。いってらっしゃい、ディオ」


 ディオたちの小さくなっていく背中を見送ったロザリアは騒ぎ出すであろうジークベルトに備えるべく気合いを入れると空を見上げて息を吐き出した。

 少しだけ城の中が寂しくなると。


 ☆☆☆


 アピオス領に入るとディオは揺られる馬車の中ですぐさま妖精に声をかけた。割と寝起きなので万全だ。


 目を閉じたディオはゆっくりと目を開けると虚ろな視線で妖精との対話に集中しているようだったが、3分もしないうちに顔色が悪くなった。


 いつもなら騒がしいディオもよほど体調が優れないのか、何かに耐えているようで大人しい。


「うぅー、大丈夫かと思ったけど相変わらずきっつい」


 ディオの隣に座るフランは呻くディオに呆れたように笑って、畳んで膝の上に置いていた上着を丸めると枕代わりにと横になったディオの頭元に置いた。


「気持ちは分かるけど、わざわざ馬車の中(ここ)でやらなくても……」

「ここではしっかり休むことも出来ませんので控えてください」

「そうだった」


 気が急いたと言ってしまえばそれまでなのだが、あまりやりすぎるとフランたちに心配と迷惑をかけてしまう。

 それに、宿に着いた後でシドからお説教が待つことになるのでそれは避けたいため、ディオは大人しくしておくことにする。


「そんなに難しいものなの?」


 ディオの様子を見て疑問に思ったアルドが尋ねる。


 ダニエルは人と会話するように妖精の声が聞こえると言っていたし、この前ディオは集中すれば聞こえると言っていたので顔色を悪くするような事態になるとも思えないのだが。


「んー、難しいことじゃないよ。普通に話すだけならダニーが言うので合ってる。ただ……」


 額に右腕を乗せたディオが深呼吸をしながら答える。喋れるくらいには回復したようだ。


「ただ?」

「一斉にワーって喋られると、こうなる」

「多分なんだけど、ディオ様は会話というよりも記憶の断片を、一気に大量に見せられてるっていったほうが近いかもね」


 ディオの言葉にフランが補足を入れる。

 どうやらダニエルの会話とは違ったものらしい。


 一斉に喋られるとと言うので、この場に妖精が大勢いるのかアルドは思ったがそうではないという。


「目に見える範囲にはいないよ」

「拾える範囲が広すぎるんです、ディオ様は」

「遠くの声が聞こえるってこと?」


 アルドが問えば、トリスが頷いた。


「妖精に限ってならですが」


 幼少期のディオは正確な範囲こそ分からないようだが城にいる妖精であれば声を拾えたらしい。


 やがて小さな町に着き、取った宿の部屋でディオは短い休憩を挟んでもう一度妖精たちの声を聞き始めた。


 椅子に座っていたディオがバランスを崩して椅子から落ちそうになるディオを受け止め、自力で起き上がる気力のないディオの上体を机に置いた。


「ありがと、シド。この領地のいるみたい。湖の近くで静養所というよりはべっ、そう……」


 それだけ言うと、ディオは力尽きたように眠ってしまった。

 妖精の声を聞くと言うのはかなり負担のかかるものようだ。いつもより眠る感覚が短い。


 眠ってしまったディオはシドがベッドまで運び、その間にトリスが地図を広げ湖を探した。


 シドは領地に一つだけある湖を指差すとその辺りを指で囲った。


「この辺りか」


 詳細が載っている地図ではないので細かいところは自分たちの目で確かめてみるしかない。


「通りで見つからないわけだな」


 地図に示された文字は別荘で、おそらくここの領主の所有する別荘なのだろう。


 個人で所有する家に隠してしまえば、病院や診療所よりも目につきにくくなる。

 それに別荘に人を送ってもそれほど疑問に思われないだろうし、詮索するような人間もいないだろうから。


「やっぱり貴族は嫌いだ」


 アルドが呟いた。

 決して貴族が悪人ばかりではないと知っていても、アルドの貴族への印象はあまり変わっていない。用意周到な狡猾さは好きにはなれない。


 アルドのその言葉にシドとトリスが沈んだ顔をする。

 自分たちの責任ではないと分かっていても、貴族の責任として故意に苦しむ民を出しているということも、それで民からの信頼を失っていることも、アルドを見ればより実感するから責任を感じてしまうのだ。


「こればっかりは簡単に解決する問題じゃないもんね。それより、どんな道を通るつもりなの?」


 フランが場の空気を和ませるように言って、どのルートで探しに行くかをシドに聞く。

 ディオのこともあるので、今回はシドに全て任せきりにして行き先も知らないというわけにもいかないのだ。


「そうだな。山を越えるか、時間はかかるが平坦地を進むかだな」

「時間と安全、どっちを取るかですね」


 地図のルートをなぞったシドは素早く決断を下す。

 山のルートは少々悪路ではあるようだが目的地へはかなり時間短縮になるだろう。平坦地は遠回りになるので山のルートと比べて時間はかかる。


「あの状態のディオを連れて行くとなると平坦地だな」


 これからまだディオの力は必要で、おそらくディオは馬車の中でも妖精の声を聞こうとするだろう。

 その場合、できるだけディオに負担をかけない道を通るべきだ。


 おそらくディオは出来るだけ早くと山のルートを通るように指示を出すかも知れないが、ディオの安全はシドたちにとっては譲れない。


 結果、ディオが折れる形で平坦地のルートで目的地を目指すこととなった。

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