61 侍女フラン
お読みくださりありがとうございます!
夕食をディオが起きてから済ませ、一息ついてから宿の風呂に向かうことにする。
使用人が用意したトランクを開けたカトリーヌの動きが止まって、それを不審に思ったトリスがどうかしたのかと尋ねれば、カトリーヌからは衝撃的すぎてと答えが返ってくる。
カトリーヌの言葉にトリスがトランクの中を覗き込んだ。
それは使用人たちの嫌がらせ行為なのだろう。
中には一着の上着と、ぎゅうぎゅうに押し込まれた下着しか入っていなかった。
おそらく空ではトリスたちが運んだ際にバレてしまうと、ある程度の重さを作るために押し込んだのだろう。
あの短時間でよくここまで詰めたものだと感心してしまう。
「これはまたすごいですね」
「はい」
どうしたものかと思案していると部屋の扉がノックされ、トリスが出るとやってきたのはフランだった。
髪の毛の隙間から見える額は妙に赤い。
「カトリーちゃんは体調崩してない?気が緩む頃がくずれやすいから」
「体調の方は問題なさそうなのですが、頭が痛くなる事案に遭遇しまして」
カトリーヌの体調を心配してきたらしいフランに、トリスは別の意味で頭が痛いと呆れた様子でフランに言う。
「頭が痛くなる事案?」
「はい。中に――」
トリスはフランを部屋の中に入れると、先ほどのことを伝える。
「まだ隠し通すつもりなんだ。認めたくないだけなのかもしれないけど」
「そうですね」
使用人と呼んだというのに否定もしないグレイ伯爵もどうかとも思うが、使用人たちもなんとなく気がついているだろうにまだ芝居を続けるつもりなんだとフランは呆れを通り越して感心をしていた。
「お咎めなしってわけにもいかないだろうけど、罪に問われると思ってないのかな」
「だと思います」
「貴族主導じゃそうもなるか」
グレイ伯爵家についてはディオたち王家の判断となると話題を切ったフランは、とりあえずカトリーヌの服についてと考える。
「服、明日には間に合わせるから、今日は備え付けの寝間着を使ってもらって」
「はい」
サイズが分からないと困るからと、フランはカトリーヌに許可をもらってから上着を借りて、隣の部屋に戻った。
「ただいまー」
男性部屋に戻ったフランは簡単にだけカトリーヌの荷物について説明をすると、この辺りに子供服屋があるかどうかをシドに尋ねた。
「少なくとも看板は見てないな」
「シルクが聞いてくれたけどあるのは西通りの方だって」
「反対側だな」
シルクがこの町にいる妖精に聞いてくれたらしく、ディオが妖精から聞いたことを教えてくれる。
妖精たちの話では現在地から遠い場所のようだ。
「うーん、そうなると作るしかないね」
「フラン、頼める?」
「もっちろん。任せといて!」
なんかあったかなぁと言いながら、フランは部屋に運んできていた全員分の着替えが入ったトランクを開けると中の服を確認し始めた。
「僕らの感じに合わせるとして、ベストなのは……」
独り言を呟きながら、フランは服を一着ずつ服を見てアルドの服の前で指を止めるとフランはアルドに声をかけた。
「アルド君、アルド君の服一着もらってもいいかな」
「おれは別に。着れるものがなくなるわけじゃないし」
「じゃ、遠慮なく」
アルドの返答を聞いて、フランは何のためらいもなくトランクからアルドの服を取り出すと、薄いグリーンのワンピースも取り出した。
ワンピースの方はサイズ的に大人用のサイズだ。
「よし、とりあえずはこの二着かな」
フランは裁縫道具を用意すると選んだ服に手を加え始めた。
それはシドが眠る頃になっても続いていた。
翌日、リメイクした服を持ったフランは朝食前にトリスたちの部屋に足を運んだ。
「おはようございます、フランさん」
「おはよう、トリス。カトリーちゃんの服、持ってきたよ」
そういったフランは両手に一着ずつ持ってトリスに見せる。
薄いグリーンのワンピースとパンツタイプの服で、そのどちらもトリスには見覚えがある気がした。
「見覚えがあるのは、僕とアルド君の服をリメイクしたからね」
「フランさん、そんなことも出来るんですね」
「妹のおかげ、かな」
フランがリメイクといって服にちょっとした付け足しをすることはあるのだが、ここまで手の込んだリメイクまで出来ることをトリスは知らなかったため素直に驚く。
フランは妹たちのおかげかなと困ったように笑って頰をかいた。お願いを叶えるために覚えたらしい。
カトリーはもう起きているからと、トリスはフランを部屋の中に入れる。
裁縫道具を入れている肩がけポーチを持っていることを思えば修正もしたいのだろう。
カトリーヌが喜んでくれたことに安堵をして、フランは一度カトリーヌに来てもらうと細かな調整をする。
「うん。これならいいかな」
「ありがとうございます。フランさん」
「こっちこそお古でごめんね。この辺りは子供服屋がないから」
カトリーヌが首を横に振った。
いつも自分が来ていた服と遜色のない服は、フランが一晩でリメイクとは思えないほどだ。
「お似合いです、カトリーさん」
今日の服としてそのままワンピースに袖を通したカトリーヌにトリスが微笑むと、カトリーヌが動きを止めてポツリと何かを呟くと動かなくなった。
呼びかけても返事のないカトリーにトリスはどうしたのでしょうかと表情を変えずに言って、フランが人差し指をアゴに当て答える。
「んー、氷姫って聞こえたしディオ様に気がついたんじゃないかな」
「大丈夫でしょうか」
「向こうで教えるつもりだったから平気だと思うよ。ただ、カトリーちゃんの精神面が心配だけどね」
道中を常に緊張して過ごされるのはフランたちにとっても本位ではないので、和やかに過ごしてもらいたいとは思うのだがカトリーヌの様子を見るに難しそうだ。
「そのあたりはディオ様にお任せするとしましょう」
「その方が良さそうだね。伝えとく」
本人がどうにかするだろうと丸投げすることにして、フランが荷物を置きに戻ると朝食を取り宿を出る。
カチカチに固まったカトリーヌに、ディオは馬車に乗り込む前に声をかけた。
ディオのそばにはシドたちが並んでいる。
「カトリー、一つだけ約束する。カトリーの家のことはオレたちが責任持って解決する」
ディオは約束だといって、妖精ではなく精霊に誓いをたてる。
「精霊にって大きく出たね、ディオ様」
「また面倒事拾ったんだ」
フラン、アルドがそういって馬車に乗り込む。
精霊への誓いはかなり重いものだとフランは知っていてディオに笑いかけ、アルドは意味は分からないものの今までディオの行動からそう感じたらしい。
「勝手に道連れにするな」
「事前に相談を」
御者席に乗ったシド、ディオとカトリーヌを馬車に乗せたトリスもディオに一言苦言を呈した。
走り出した馬車の中、味方が誰もいないとディオは小さく呻くのだった。
フランは基本的に侍女の立ち位置にいます。
 




