60 カトリーヌを連れ出して
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――カトリーヌを乗せた馬車が走り出す。
シドが御者を務める馬車は玄人ほどとはいかないが、新米よりは軽やかに揺れも少なく走っている。
「それで、お手伝いというのは?」
ろくな説明もなく馬車に乗ったこともあり、カトリーヌがディオに詳細を求める。
あくまでカトリーヌがやっていることは使用人の真似事であって、本職には相手が新人だろうと遠く及ばないだろう。
出来る限りやらなければならないことを知って備えなければとカトリーヌは思っている。
「あー、それはね、君を連れ出すための嘘」
「え?」
ディオはもう隠す必要もないと簡単に言う。その口調は軽く、まるでわかりきったことを口にしただけといった風だ。
「私がご説明します。カトリーヌ様」
ディオが何かを言う前にトリスが割って入る。
普段こういったことするのはシドの役割になっているのだが、シドは今馬を走らせているのでトリスが説明を買って出る。
途中でディオが寝てしまって説明が途切れてしまわないようにの配慮でもある。
カトリーヌと呼ばれたことにそう名乗った覚えはないはずなのにとカトリーヌの視線はあちらこちらを彷徨う。
それを放置したトリスは、自分たちが第三王子の名の下に各地の様子を見て回っていると説明を始めた。
手元に届く資料だけでは分からないことも多くあるため、実際の様子を見ることも大事なのだという。
巧妙に隠されたものを見つけ出すにはやはり現地に向かい直接見た方がいいのだという。
つまりは各地の不正を探っているということなのだろうとカトリーヌは判断をした。
「今回の件もそうです。そのため、カトリーヌ様を存じているエルザ様に最終のご確認をして頂くために、こうした手段を取らせていただきました」
トリスたちにとっても望んだ形ではないようだが、その言葉にディオは片方の頬を膨らませていた。
どうやら納得がいかないらしいが、口を出さずに黙っている。
「確認……」
呟いたカトリーヌの言葉にトリスが頷く。
カトリーヌはトリスから出たエルザという人物に心当たりを探してみる。
社交界に滅多に顔を出せなかったカトリーヌを知る人なんてそうそういるとは思えないからだ。
名前くらいは知っていても、きっと容姿まで覚えている人は少数だろう。
そうして記憶を探るとたった1人だけエルザに心当たりが出てきたようで、カトリーヌはおそるおそる確かめるようにトリスに問いかけた。
「エルザ様は王妃様の?」
その静かなカトリーヌの問いかけにトリスはハッキリと頷き、続きを話そうとしたがフランによって止められた。
「ストップ、トリス。情報を整理する時間をあげて」
「はい」
あまり大した情報量ではないように思えたのだが、カトリーヌには情報過多だったらしい。
いまにもパンクしそうな頭で、ゆっくり1つずつ情報を整理しているようだった。
カトリーヌが落ち着いた頃、馬車は宿にたどり着いた。
今回は人数も多いこともあるが、カトリーヌがいるので男女別に部屋を分けることにして部屋を二つ借りる。
トリスはフランには負けてしまうが侍女としての役割も持っていて、護衛が出来るほど腕が立つのでひとまずは安心だ。
部屋は隣同士で、分かれて部屋に入ろうしてカトリーヌの視線がフランに向けられ、目があったフランは納得したように笑った。
「よく間違えられるんだけど男なんだ」
「え、あ、ごめんなさい。フランさん」
「平気だよ。幼い頃はよく女装させられたし」
シドとトリスの冷ややかな視線が突き刺さるがフランはどこ吹く風で、カトリーヌにむしろ間違えない人の方が珍しいと言った。
中性的な服装をしているせいか、容姿を見ても性別が判断がつかないフランは華奢なことも手伝って大抵女性に間違われる。
声も男にしては高めなこともあって余計に。
本人は気にしていないどころか武器にしている節があるが。
「それじゃ、夕食の時に。迎えに行くね」
「はい」
それぞれ男女別に分かれて部屋に入った。
部屋に入るなりシルクの居場所を作るとすぐに寝てしまったディオは放置をして、シドは食堂に向かう準備や風呂に行くために準備に取り掛かる。アルドはシドの指示を聞きながらそれを手伝う。
フランはいうとシルクがいるであろう場所を飽きもせずじっと見つめていて、シルクに額を叩かれたようで痛みが顔をしかめていた。
隣の部屋ではディオたちの迎えが来るまであいだ、カトリーヌの疑問についてトリスが出来る限りで答えていた。




