6 願いを込めて
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目を覚ませば、周囲は驚くほどに静かでアルドは首を回して周りを確認した。
心地よいが慣れないベッド、左に並ぶベッドにはフラン、トリスが寝ていて、シドは出入り口近くのソファで何か棒のようなものを持って寝ている。
また寝るには少々目が冴えてしまっていて寝れそうもないが、まだまだカーテン越しに見える外の様子は薄暗い。
カーテンが揺れて、窓は閉まっているはずだとアルドはゆっくりと音を出さないようにベッドから出るとカーテンを開ける。
すると、窓は小さく開いていて誰かがベランダに立っていた。
「アルド?」
空を見上げていたそいつはすぐにアルドの気配に気がついて、小声で名前を呼んだ。
考えればすぐにでもわかったはずなのに名前を呼んだのが誰だったか分からなかったが、アルドを呼んだのはディオだった。
「眠れないの?」
「そんなとこ」
「そっか」
窓を大きく開けて、アルドを手招きするディオは星が綺麗だとまた空を見上げてた。
つられるようにアルドも空を見上げると、夜空いっぱいに星は散らばり輝きを放っている。
「寝てなくていいわけ?」
日中も大抵寝ているのにとアルドは目線でディオに尋ねるとディオはにこやかな笑みを浮かべた。
「いいのいいの。どーせ、何やっても寝ちゃうし。こうやってぼーっと星空見上げるのも好きだからね。あ、でもシドたちには内緒ね」
口元に人差し指を立てて、シドたちには言わないでねとジェスチャーをする。
「バレたらゲンコツじゃ済まないんだ。うん、そう、確実にツノでも生えてるんじゃないかってくらい怒られるから」
想像だけで身震いするディオに、アルドはコクリと頷く。
事情を知らなかったからと見逃してもらえそうな雰囲気ではない気がした。おそらく、ディオが内緒にというのも折り込み済み自分まで怒られそうだ。
しかし、ベランダに出てるくらいで大げさなとアルドは思う。
顔に出ていたのかディオはアルドをみてクスクスと笑った。
「オレにもしもがあったらシドたちは困るからね」
「貴族なのに?」
ディオは誰も歩いていない真っ暗な町を見下ろして、ほんのりと灯る街灯を見つめる。
「うん、貴族なのに。連れ出したのはオレでも、こんなボンクラでもね」
そう言ってディオはおかしな話だよねと笑ってから、アルドをみたディオは不思議そうに独り言をいう。
「うーんでも、こういう時にアルドがくるなんて、やっぱり名付けのせいなのかな」
「は、名前のせい?」
怪訝な顔をするアルドに大きく頷いたディオは無邪気な笑みを浮かべる。
「アルドって名前はオレが信頼してる人が由来でさ、あの人には何やっても必ず見つかるんだよ。なんでか分かんないけど」
どうしてかと聞いても、いつもはぐらかされるばかりで理由は分からないが、誰も気がついていない時ほど気がついてそばにいる人だとディオは言う。
「誰にも見つからないと思ったけど、アルドが来たからね。そんなものなのかなって」
「なにそれ」
そっけなく返すアルドだが、少し声が上ずっている。
短いやり取りでも、ディオがその人のことをどれだけ信頼信用しているか伝わってくる。
適当につけられた名前じゃないこと、そこにある重みにわずかな緊張が走った。
勝手にそんな名前をつけるなと言いたくもなるが、同時に相手が誰であってもそこまでの信頼信用を得る人の名前というのはどこか誇りにも重荷にもなる。
「オレにとって自慢の人だからさ、それにあやかってつけたんだ。オレの名前もそうだし。でも、嫌なら別の名前にするけど」
アルドがそこまで気に入っている名前じゃないことは知っていたので、この機会に要望があればとディオは言ったが、少しの間があってアルドは首を横に振った。
「いい、アルドで」
「そう?それならいいけど」
ちょっとだけ安心したようにニッとディオは笑い、大きなあくびをする。
「そろそろ戻ろっか」
アルドの背に手を当てたディオは音を立てないように窓を開けて中に入ると、慎重に窓の鍵を閉める。
部屋の中をアルドと一緒に見回して目が合うと、みんなが寝ているのを確認して忍び足で自分のベッドに向かう。
「おやすみ、アルド」
「………………」
ディオが小声で言って、少しだけアルドの視線がさまよい、小さな異変にディオはベッドに腰掛けたままアルドの様子を見守った。
「えっと、その……おやすみ、ディ、オ」
早口な小さな声で言いにくそうにそれだけ言ったアルドはすぐに掛け布団を頭まで被るとディオに背を向けて寝てしまう。
驚きが隠せないように目を丸くするディオは嬉しそうに顔を綻ばせてベッドの中に入るとすぐに寝息を立て始めた。
Q.ディオ様の名前の由来って?
A.なんか、母様の先祖にクラウディアって人がいたんだって。その人の周りはいつも笑顔で溢れてたみたいで、オレもそうなりますようにってことみたい。