54 ディオの会を開きたい
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ベゴニアの町を出て数日――。
ディオたちは途中に旅人のために建てられたという宿泊小屋があると聞いて、野営をせずにそこに泊まるために馬車を走らせた。
小屋は少々年季が入っているが、町や村ではないのに雨風がしのげると言うだけでもありがたい。
まぁ、普段から馬車の中で寝ているので雨風云々はしのげているのでいいのだが、寝るには狭い馬車と違って一人ひとり余裕を持ったスペースを確保できるのは嬉しい限りだ。
簡単に中を掃除して、それぞれが空いた時間を休んでいるとディオが唐突に言った。
「ディオの会を開こうと思う」
突然のディオの発言に驚くことも突っ込むこともせず、シドは淡々と参加人数を訊ねた。
ディオの会は、ディオが家族や日頃のお世話になっている人たちに感謝を伝えるもので、長時間起きていられないディオに合わせ二、三時間でお開きとなるとパーティーだ。
幼い頃はそれだけだったが、今は非公式で秘密裏に人を会わせることにも使われている。
「で、参加人数は?」
「えーっと、ダニエルに、カトリーでしょ……
ディオは小声で人の名前をあげながら指を折って人数を数えていく。
ディオはあの子供使用人のカトリーが本物のカトリーヌ・メル・グレイだと、ディオよりも記憶がはっきりしているアルフレッドや確実に分かるであろう母エルザに彼女を合わせたいのだろう。
ついでにダニエルとカトリーの顔合わせも同時進行でやろうとしているようだ。
ここでダニエルたち二人の反応を見て婚約の話を進めてもいいか判断したいらしい。
「十五人くらい?」
「分かった。それで進めるぞ」
「うん、お願い」
今回のディオの会の趣旨を理解したシドとトリスは、参加人数を聞いて頭の中で簡単な計画を組み立てていく。
フランはイマイチ分かっていない顔をしていて、新参者のアルドはそもそもディオの会自体理解出来ていない。
ディオもそれがわかり、アルドに向けた説明をする。フランについてはひとまず放置しておく。
「この前アル兄から手紙きたでしょ」
「ああ、あの暴走手紙」
先日ベゴニアの町で受け取ったグレイ伯爵家についてのアルフレッドから手紙を思い出したアルドが呟く。
グレイ伯爵家についてよりも、その後ろに何十枚と綴られていたジークベルトからディオに宛てた、胸やけしそうな手紙が浮かんでくる。
「あれはジーク様だ。アルフ様はああいったものは書かない」
シドはアルドに軽く訂正を入れる。
完全なる否定をすることはシドには出来ないが、それでもアルフレッドはジークベルトほど理性を失っていないのであのような手紙を書くことはない。
「伯爵が本格的に動く前にやらないとな」
「そうですね。教育係を探しているとなると、身につく前の方がいいですね」
「この前のはひどかったものね。まだ、可愛いけど」
フランはこの前のパーティーにいた偽カトリーヌを思い出して笑いながら言った。
貴族社会ではあるまじき行為であって、あの場でディオやダニエルが偽カトリーヌに対して無礼だと怒ったとして、誰も偽カトリーヌの味方はしなかっただろう。
それが許されるほど偽カトリーヌは幼すぎる子供ではないのだから。
「まあ、一緒にするもんじゃないけどな」
「まだマシというのも、そうですね」
「あれよりひどいやつがいるの?」
シドとトリスは、フランの言うことに同意をして、アルドはあれ以上のやつがいるのかと疑問を口にだす。
あまりいい生活をしていたとは言えないアルドでも、偽カトリーヌの行動が良くないことだったと言うことは分かった。
例え、全く分からないとしてもあの時のグレイ伯爵の様子を見ればどれほど恐ろしいことを偽カトリーヌがしていたかは理解できる。
だからこそ、それ以上に無礼で常識外れの行動を起こせる貴族がいるのかと不思議に思ってしまう。
「いるよ。王族にタメ口だったり、会話の途中に割り込んだり、本当に常識のない家が」
フランが遠い目をして答える。
自分もマナーがなっているわけでもないのだが、それでも彼らよりはマシだと言えてしまうとフランはいう。
「何その家」
貴族についてはまだよく分からないことも多いのだが、ディオやシドから学んで少しは貴族のマナーについてアルドも分かってきた。
今フランが言ったことは、注意事項として一番最初に教えられたことだ。
アルドが絶句しているとシドが言う。
「あの家は学者肌ばかりで結果も出してるから、多めにみられてることろがある」
「多めにみられすぎじゃない」
だからといって、それが許されているどうなのだろうかとアルドが思っているとフランが困ったように笑っていった。
「でも、結婚すると配偶者、相手の人ね、に貴族の振る舞いを叩き込まれるから少しはマシになる、のかな?」
「まぁ元々止めても聞かない人たちだから、正確にはどうにも出来ないって言うのが正解かな」
そういったディオはとにかくと、その家のことは置くことにしてシドたちに再び言う。
「だから、ディオの会を開きたいんだ」
「一応カトリーヌはわかる誰かに確認してもらった方がいいのは確かだしな」
「ダニエル様も参加者が少人数であれば少しは出られるでしょうか」
反対意見は出ないのでディオの会を開催するのは決定だが、少々問題がある。
アルフレッドたち家族は日時さえ伝えておけばスケジュールの調整して参加してくれるので心配はない。
社交嫌いでパーティーには参加したがらないダニエルもほぼ見知った顔しか参加しないものなら、ディオへの陰口を聞くこともないので参加はしてくれるだろう。
「問題はカトリーヌか」
使用人扱いされている人間を連れ出さなければならないのだ。
こっちは一介の商人ということになるので、カトリーを連れ出すための口実やら色々と無理難題だとため息をつくと、ディオがそんなに大変じゃないと笑った。
「グレイ伯爵がいるときに交渉すれば大丈夫。一度、シルクを連れてこないと行けないけど」
「シルク?」
アルドだけが分からず首を傾げて、フランがアルドに教えてくれる。
「ディオ様の相棒の妖精かな。普段は城の中で過ごしてるんだけど」
「先日のパーティーでダニエル様が落ち着かないご様子だったのは……」
おそるおそるといった風なトリスにディオはイタズラが成功した子供みたいに笑って言った。
「連れてきてたんだ。シルクは特殊だから、他の妖精と見間違えることはないと思うし」
「つまり、脅すってことか」
「言い方!」
グレイ伯爵にディオは自分がクラウディオ第三王子だとバラすつもりらしい。
世間でどんな風に言われていたとしても、ディオは王子という肩書きがある。
ひとたびディオが王子というカードを切れば断ることは難しく、この前のパーティーでの偽カトリーヌの無礼を考えれば従う他ないだろう。
「持ってるものは使わなきゃね」
そう言ってディオはニコリと笑う。
利用できるものは利用するのだとディオは言う。今さら増える悪評もなく、いちいち気にしていられるほど少ないわけじゃない。
「ま、それなら問題はないか」
「そうだね。行動させないようにしておけば、大丈夫かな」
ディオの提案にシドたちは了承をして、細かいとことは、城に帰ってからアルフレッドたちと相談することに決まった。




