53 アルフからの手紙
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朝食を食べ終え、ディオが一眠りから目を覚ましてから外に出た。
この町に来たのは商品の仕入れや、販売ではなく、家からの連絡があるかどうかの確認のためだ。
大きな町のパーチメント商会は、ディオたちと王家の連絡役も担っていて、何か連絡があればここに届くようになっている。
そのため、こういった町のパーチメント商会は一度顔を出す必要がある。
「妖精研究の資料をもらいに来たんだけど」
胸に金のバッチをつけた店員を見つけるとフランはそう言った。
人も多いこんな場所で、仮に冗談でも王子だのと言うわけにいかないので、合言葉として使っている言葉だ。
店員はニコリと笑うと届いてますよと言って奥に手紙を取りに行き、分厚い封筒をフランに渡した。
滅多にあることではない家族からの連絡にディオたちは驚くが、手紙の封を切るのは宿に戻ってからとフランから手紙を受け取ったディオは大事そうに手紙を落ちないようにしまった。
今回の宿は朝食だけはついているが食堂はない宿なので、ディオたちはすぐに宿に戻らず昼食を買ってから宿に戻った。
昼食の時間にはまだ早いとディオが封筒を開けると中にはアルフレッドの名前が書いてあった。
両親からの手紙ではないため、それほど重大な内容ではないことにディオは安堵をして手紙を読んでいく。
手紙の内容はグレイ伯爵家について分かったことについてで、ディオは始めの数枚だけにしっかりと目を通すと、途中から適当に2、3枚だけに目を通すとシドに渡した。
「アル兄から、グレイ伯爵家のこと」
「仕事が早いな」
目を通しておけと言うことだと、手紙をディオから受け取ったシドは素早く手紙を読み込んでいく。
シドもディオと同じように始めの数枚は険しい顔をして読んでいたのだが途中で目を閉じて眉間を押さえると、そのまま手紙をトリスに渡した。
「さすがアルフレッド様ですね。とても簡潔にまとめられています」
丁重に手紙を受け取ったトリスは手紙を読み進めて、やはりディオやシドと同じように始めの数枚だけは真面目な顔をしていたが、途中で読むのを止めるとすぐにフランに渡した。
フランはトリスから受け取った手紙を面倒そうに読んでいく。
「こんな感じなんだ」
本物のカトリーヌを助けてあげたいとは思っていても、妖精が関わっていないのなら特に興味があるわけでもないようだ。
それにシドとトリスがいれば、フランが動くようなことはほぼないので、フランからするとそこまで知っておく必要もないことなのだろう。
ある程度読み進めたフランは途中で目を動かすのを止めると、深呼吸してからアルドに渡した。
アルドは自分もその手紙を読んでいいものかと躊躇いがちにディオに視線を向ける。
「アルドも一員でしょ」
「そう、だった」
ディオの言葉に今は客人ではなく、一員だとアルドは思い出す。
まだスラスラと文字を読めるわけでもなく、つっかえながらではあるがアルドも、アルフレッドがディオに送った手紙を読み進めていく。
几帳面な字で書かれていたのは、グレイ伯爵が今以上に動き出す前にグレイ伯爵を捕まえたいということ、滅多にパーティーに参加してこなかったグレイ伯爵が最近ピンク髪のカトリーヌと名乗る少女を連れてパーティーによく参加していること――。
そして、婚約者選びが活発化してダニエルがますます外に出なくなったことが書かれている。
そんなことが数枚の紙にまとめられていて、追伸としてディオに会えなかった両親が寂しがっていると言う一文が添えられていた。
「え、これだけ?」
「そうみたい」
何十枚のあるはずの手紙がたった数枚だけで話が終わっているのでアルドは驚く、ディオはそれに返事を返して残りは読み飛ばしてもいいと言った。
現にシドたちもまともに読んでいた様子はなく、まるで胃もたれでもしたように次に回していた。
一体何が書かれているのかと、アルドは手紙をめくる。
「なに、これ」
数行だけ目を通したアルドはげんなりした表情になり、それでもなんとか一枚だけは読み進めた。
内容はたった数行でもどれほどディオを溺愛しているかがわかるほどで、なんと言うか見てるだけ疲れる。
シドたちがまともに読まずに次に回した理由も、ディオが読み飛ばしてもいいと言った理由が分かった。
もう読む気がしないとアルドは手紙をディオに返すと大きなため息をこぼし、ディオはそれを見て受け取った手紙を見つめて呆れたように笑った。
「こんなことするのはベル兄しかいないんだけど、誰も止めないあたりがね」
どうしようもないとディオは言う。
まぁ、ジークベルトのこの感じは今に始まったことではないので放置されつつあるのだが。
「ベル兄の手紙には一切大事なことは書かれてないから、とりあえずはアル兄の方だけ頭に入れといてね」
そう言ってディオは手紙の内容をもう一度だけ確認すると、ジークベルトの手紙を読むことなく畳んで封筒に戻した。
ジークベルトの手紙はディオも気持ちは嬉しいけどと、あまり読む気はない様子。




