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45 棚上げしてみる

 長い廊下を歩きながら沈む絨毯は落ち着かないとアルドは居心地悪そうに歩を進める。


 公爵家令息であるダニエルの部屋に向かう途中、アルドはなぜ自分の行かなければならないのかと隣を歩くシドに問いかけた。


「シド、なんでおれも?」

「そうだな」


 自分には全く関係のない相手というのがアルドの考えであって、ディオと一緒に行く理由がない。


 それに、貴族を好きになったわけはないし、未だ嫌いなのだ。出来るなら関わりは避けたいと思ってしまう。

 長く持った考えはすぐに消えるものではなく、シドたちは彼らという個人で見ることが出来ているからマシだってものなだけだ。


「ダニエル様と同じくらいの年だからだろ。確か12歳になったばかりだ」

「そっか」


 公爵たちとディオの会話から、ダニエルは子供なのだろうとは感じていたが想像していたよりもダニエルが子供だったことにアルドは驚く。


「ディ――クラウディオ様なりの気遣い、いや、ダニエル様もご友人と呼べる方がいらっしゃらないから少しでも交友を広げてもらいたいと思っているのでは」

「…………」


 アルドはシドの話し方に眉根を寄せる。

 商人としてのシドでもここまで堅苦しい話し方はしていなかったので違和感がある。

 近くに公爵家の使用人がいるからかもしれないがアルドからすれば妙な感じだ。

 そもそも、ディオ(あるじ)に対して砕けすぎてるシドやフランの方がおかしいのだが。


 そうこうと話しをしている間にディオの迷いない案内でダニエルの部屋の前までたどり着く。


 ディオは迷惑お構いなしにノックもせずにダニエルの部屋の扉をあける。

 中にいるのも分かっているので、居留守を使われるくらいなら問答無用でということらしい。


 まぁ、ディオと分かった時点でダニエルは大人しく扉を開けるだろうが。


「ダニー、入るよ」

「――っ。ぼくは行きませんからね!」


 突然開いた扉に肩を跳ねさせ驚く緑髪の真面目そうな少年は手にしていた本を宙に放り投げ、部屋で警戒するよう隅で固まったが、相手がディオだと分かると安堵したようで軽く力を抜いたが、その場から動こうとはしない。


「ディオ兄さん……。帰ってきてたのですね」

「うん。たまには家に帰らないとね。ダニエルにだって会いたいし」


 ニコニコと笑みを浮かべるディオが頷く。


 ディオがこうして会いにいてくれるのは純粋に嬉しいし、何も変わらないようなディオに安心する。

 すぐに帰ってくるといいながらずっと帰ってこなかったから、余計に。


 だけど、なぜだろうか。

 ダニエルの頭の中ではずっと警鐘が鳴り響いている。


 ダニエルの逃げるように視線を彷徨わせると先にはシドと見知らぬ少年がいて、気がついたからには無視するのは失礼だと声をかける。


 少年のことは気にはなるが、さっきからディオの突き刺さるような視線が辛く、逃げられるような気がしない。

 ダニエルは先ほどの自分の失言を隠すようにディオに話題を振ってみる。


「ディオ兄さん、今回はどこに行ってきたのですか。前回は東を中心に回っていましたが」

「ねぇ、ダニー。行かないってどこに?」


 が、どうにもディオには効かないらしい。

 純粋な疑問だとディオはダニエルの問いかけに答えずに、自分の疑問を口にする。


 敵わないと、そうそうに戦うことを諦めたダニエルはボソボソと説明を始める。


「明後日、誕生パーティがあるから……行くようにって」

「おじさんたちが言ってたよ。ダニーに参加してもらいたいんだって」


 ダニエルが勢いよく顔を上げる。

 知っててディオはダニエルに言わせたのだと分かったからだ。


 その反応を窺いながらディオは自分の頰をかく。

 事情はあれど自分のことを棚上げすることには変わりない。手本になれるような大人じゃないのは重々承知だ。


「オレは言える立場じゃないけどさ、今回は出席した方がいいよ」

「なんで、あんな場所に。行くのは最低限で充分です」


 ダニエルは少し、貴族としては優しすぎた。

 何より大好きな人を否定される場所に自ら赴くことは負担でしょうがない。


 言い訳を並べるダニエルは淡々としていて、容姿も相まって大人びた印象を周囲に与えるが、アルドは冷めたようにポツリとこぼした。


「あいつってガキなの」

「言葉を選べ、アルド」


 小声で注意をするシドの声音は鋭く、アルドはすぐに口を閉じるがシドは否定はしていない。


 そしてこの声を耳にいれてディオはニマリと笑顔を作った。イタズラでもするように。


「ガキだってダニー」

「僕はガキじゃない」

「それなら、スパーク侯爵家との繋がりがどれだけ重要なことか分かってるよね」


 諭すような声音のディオはしっかりとダニエルを見据えると静かにダニエルの言葉を待った。


 ダニエルは少し間を空けてから答えを口にする。


「あの家はレグホーン侯爵家と並ぶ名家です。しっかりと連携が取れるよう務めるのは必要です」

「ご名答」


 正解だと拍手をするディオはダニエルのベッドの上に腰掛けると、ディオはダニエルに優しく笑い、ダニエルは小さくため息をついた。


 答えを口にした以上行かないと言えるわけもなく、ディオにしてやられたと言うのもある。

 ディオには敵わない。


 完全に納得出来たわけではないが続けたところで、それならオレも行くとかディオなら言いかねないので止めておく。

 自分でも参加した方がいいことは分かってる。


「シドさんたちも座ってください」


 ダニエルはシドとアルドにソファに勧めると、自分は対面のソファに座る。


 使用人の立場ではあるシドも、ディオに巻き込まれてよく一緒に遊んでいた。

 そのため、ダニエルにとってはかなり親しい間柄だ。


「お久しぶりです、シドさん。そちらの子はシドさんの……」

「いくつの子だよ。新しい仲間のアルドだ」

「冗談です。よろしくお願いします、アルドさん」


 ディオが自分で決めてそばに置いているのなら、どんな相手であれダニエルにとっては信じられる。

 さっきガキ呼ばわれされたことも、ただそれだけで目をつむれるほど。


 シドとダニエルが久しぶりの会話をして途切れたところでディオはシドに、ダニエルへのお土産を取ってくるように頼みシドが部屋を出て行く。


 ディオは何も話す気は無いようで、気まずさにアルドがディオを見ればニコニコと手を振ってくるだけで何もする気はないようだ。

 どうにかしてくれとアルドが思っているとダニエルが口を開いた。


「アルドさんはおいくつなんですか。同じくらいに見えますけど」

「12歳くらいだっけ?」


 疑問形で答えを返すアルドにダニエルは不思議な顔をし、ディオがフォローを入れる。


「正確な歳はわかんないんだよ。アルドは拾ったから」


 本人が自分の年齢を分かっていなかったため、身長などの成長度合いからまあそれくらいだろうという推測である。

 もっとも、フランなどの医学のある人間から言わせれば今までの栄養状態によってはもう少し年齢は上でもおかしくないらしい。


「拾った?人は犬や猫じゃないんですよ」

「シドみたいなことを……」


 シドほど口うるさくはない、が――ディオからすると真面目なダニエルも同じような時はある。

 慕ってくれているだけまだ可愛いが。


「拾われたであってる。おれは孤児だし、怪我して動けないとこ助けられたから」

「そう、でしたか」


 ダニエルはどう声をかけていいか分からず、言葉を詰まらせる。

 そう言った話は耳にしたことはあっても、自分には縁遠い世界で多くの貴族は耳汚しとして敬遠していたため、救うべき存在だと思っていても接しが分からない。

 普通でいいと理解していても、戸惑いからそれも難しい。


 ディオはそんなダニエルの葛藤をよそにマイペースに話し出す。


「出る直前だったから、ついね。けど、その判断は間違ってなかったと思うんだ。二人な、ら……」


 途切れ途切れの言葉になって、ディオはベッドに倒れこんだ。


「ディオ?」

「ディオ兄さん」


 驚き慌ててディオに駆け寄ったアルドに、ダニエルは呆れた顔をして毛布をディオにかけながらアルドに言う。


「寝てるだけです。わりとよくあることだから安心してください」

「――だけど」


 よく気がついたら寝ていることはあるが、突然倒れるというのは今までなかった。

 確かにダニエルの言うようにただ寝ているだけのようではあるがアルドは落ち着かない。


 と、そこにシドが頼まれていたお土産を持って戻ってきて、何やら異様な雰囲気を感じとり何があったかを尋ねる。


「どうした?」

「シドさん、ディオ兄さん寝ちゃいました」

「悪いな、まだ少し余裕があると思ったがジーク様の計算を間違えたか」


 首を横に振るダニエルはジークベルト様なら仕方がないと笑う。

 ジークベルトはディオにだけ過剰に反応し、見ているこっちが疲れるほどだ。よくディオは平気でいられると思ってしまうくらいだ。


 シドはディオからダニエルへのお土産である小箱をダニエルに渡すと、ディオをこのままここで寝かしておくと邪魔になると、ディオを起こさないようにして背負うと部屋を出る。


 アルドはシドについて部屋を出ようとしたが、ダニエルに腕を掴まれ止められる。

 言いたいことがあるなら早く言えといった感じでアルドの声音は冷めている。


「なに?」

「その、ディオ兄さんのこと怖がらないで欲しい」


 そこにどんな意図があるのかは、アルドには分からない。

 だけど、今さら――。


「……そのつもりだけど」


 淡々と返すアルドは真っ直ぐにダニエルに見据える。


 彼らに隠し事が多いのは結構初めから、あの毛布がなければシドとトリスが貴族ということは今も知らないままだったはずで。

 ディオが王子だったことも、初めは伝える必要がないからだったかもしれないけど、今は教えられないからだと知ったから。


 だから、教えてもらえないことが多くても、アルドには今さらディオたちを嫌いになることも、なれるとも思ってない。

 まだしっかりと理解できない感情とともにそう思う。


「アルド、行くぞ」

「今行く」


 シドを追うアルドはぎこちないながらもシドに習ってダニエルに一礼をしてから部屋を出る。


 客間に戻る途中でアルドは独り言のように呟いた。その視線はディオに向いている。


「よく寝るね」

「そうだな。病気というより体質だ。エネルギーが有り余ってる」

「………………」


 意味が理解できないと何も言わないアルドにシドはそうだよなと言って笑う。


「本来なら抱えきれないはずのエネルギーを抱えてるせいで強制的に寝るんだよ、こいつは」


 どういう意味なのかはイマイチよく分からないが、アルドは詳しく聞くことはなくそのままにしておく。


 きっと今尋ねたって教えてくれるとは思えないし、知る必要が出てきたら教えてくれるはずだから。

ダニエルとディオは、アルフレッドとディオより年齢は近いです。

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