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44 おじのお願い

お読みくださりありがとうございます!

 アルフレッドに捕まったジークベルトを送り出し、ディオはジークベルトが戻ってくる前にとダニエルに会うため馬車に乗り込んだ。


 今日は商会の馬車ではなく、城で使われる王家の家紋が描かれたものを使用している。

 御者を務めるのはシドで、乗っているだけは落ち着かないと断ったのだ。


 約二年間の間に御者の真似事もすっかりと板についてきたとシドは一人苦笑をする。


「シド、どうかしたの」


 公爵邸に着き、馬車を降りてシドの異変に気付いたディオが声をかける。


「連絡もなしに来てしまったと思ってな」


 昨日は無理でも、朝早くでも事前の連絡は出来たはずだとシドは反省をしている。

 久しぶりにディオの従者という立ち位置を前面に押し出しての仕事に疲れ、そこまで手が回らなかったのだ。


 ディオは気にしていないようで、問題はないと笑っている。

 この家に限って当然の来訪も迷惑にならないと知っているからだ。


「シド、大丈夫。おじさんもおばさんも連絡なしでいいって言ってるから」

「そういう問題じゃない」

「公爵様の言葉に甘えさせてもらおうよ、シド。ダニエル様にはその方がいいでしょ」


 シドとわずかだかトリスはマナーの問題もあると気にしているが、マナー、常識皆無なところがあるフランは別にいいんじゃない?とディオに賛成している。


 公爵家令息のディオのいとこに当たるダニエルは基本居留守を使うことが多いからだ。

 使用人も手を焼いているらしいが、ダニエルのことを考えると無理強いも出来ないという。


 ダニエルはディオによく懐いていて、そのため周囲のディオを否定する声に耐えられないと、人との関わりをできるだけ避けるようになったためだ。

 ディオや陛下など、一切それが通用しない相手もいるが。


 公爵邸の中に入ると所作の手本になるような美しい動作の使用人たちに頭を下げられ歓迎される。

 彼らは相手が誰であれプロとして決して手は抜かないのだ。


 そんな彼らの奥には公爵夫妻が立っていて、ディオたちは大いに歓迎をされる。

 先ほどの使用人たちの比ではない。


「ディオ、やっと帰ってきたか。待ちわびたぞ」

「ディオ様、ようこそお越しくださりました」


 久しぶりに見た元気な甥っ子の姿に公爵夫妻は嬉しそうに笑って歓迎をして、すぐに客間に案内された。

 使用人の立場として一歩下がっていたシドたちだが、公爵が客人として扱うためシドたちもディオたちのそばに座り机を囲んだ。


「無事に過ごしているようで何よりだが、こうして元気な顔を見せてくれるのが何よりも嬉しいことだぞ、ディオ」

「もちろん手紙も嬉しいのですが、元気でいてくださるディオ様こそが宝ですから」


 ディオはそっと膝に置いた手を握りしめ、笑みを浮かべた。

 苦しさは胸の底に押し隠して、シドやフランたちにも気づかれないように細心の注意を払ってディオらしく笑った。


「ありがと、おじさん、おばさん。ちょっとはしゃぎ過ぎてさ、帰ったらもう外に出られなくなるんじゃないかって思ったらつい遠のいちゃって」


 明るく話すディオはニコニコといつも通りで、帰れなかったのはまたみんなに止められるんじゃないかと不安になったからだと躊躇いがちに言う。


「そうだったか」

「うん、そう。……だから、ダニーはオレに会えなくて泣く日々を過ごしてない?」


 ディオは話題を変えるようにダニエルのことを訊ねる。


 シルク商会として旅立った日、見送りに来ていたダニエルは引き止めたいのをぐっと堪えて涙ぐんで見送ってくれていた。

 ダニエルは心配よりも、ディオに会えなくなるのが何よりも嫌でたまらなかったとディオは知っている。


「泣いてはないが、ふさぎ込んではいたかな」

「そっか」


 予想はあったためディオは苦笑するだけで、何も言わず、運ばれて来たお茶とお菓子を手にとって頬張っていると公爵が頼みがあるとディオに言う。


「ディオ、一つ頼まれて欲しいんだが」

「なに、おじさん?」


 自分に頼んでくると言うことは大方ダニエル絡みなのだろう。


 公爵はひどく難しい顔をしていて、その隣では公爵夫人も頰に手を当て困ったような表情をしていた。


「明後日スパーク侯爵の令息の誕生パーティーがあるからダニエルも連れて行きたいのだが、あの子はどうにも行きたがらなくてな」

「長年交流のある家ですし、同じ年頃の子だから、仲良くなってもらいたいのだけど」


 ディオはちょっとだけ困ったように笑みを浮かべる。


 ダニエルがこうなった原因の一端が自分にあることもよく分かっているし、何より自分のことを完全に棚に上げておくのはなんというか気が引けた。

 仕方がないという言葉で片付けてしまえばそれまでなのであるが、それでも自分に出来ることがないのは歯痒い。


「ダニーは苦手だからね。話してはみるけど期待しないでよ」

「ああ、わかった」


 わずかに目を伏せたディオはカップに残ったお茶を一気に飲み干すと立ち上がると、公爵にお願いがあると伝えてから、シドとアルドに声をかけた。


「シド、アルド。一緒に来てくれる?」

「分かった」

「え、わかった」


 一人で行ってもいいのだが、アルドのことは紹介も兼ねて連れて行く、これはディオの勘ではあるがダニエルとアルドはきっと仲良くなれるはずだと。


 シドは自分が寝てしまったり万が一騒がしくした時の歯止め役に。

 それに真面目同士のせいなのか気は合うから。


「それじゃあ、ちょっと行ってくる」


 そう言ってディオはシドとアルドを連れてダニエルの部屋に向かった。



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