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42 クローゼットの特別室

お読みくださりありがとうございます!

「急ぎの連絡はもうないよね、シド?」


 ああとシドが頷くとディオは心底嬉しいそうな笑みを浮かべるとアルドに向けて両手を広げた。


「ようこそ、アルド!改めて、これからよろしくね」

「よろしくお願いします、アルドさん」

「よろしく〜」

「今からお前も正式な仲間だ」


 あっけない、実感が湧かない。

 そうして戸惑いが溢れるが、ディオたちの笑顔にアルドはここにいていいのだと、しっかりと感じ取った。


 素直に感情を出すのは得意じゃないし、かしこまるのも今更な感じがしてちょっとどうしていいか分からなくなるけど、それでも――。


「えっと、その……。これから、よろしく、お願いします」


 なんか恥ずかしい。

 一体これはなんの羞恥プレイだとアルドは心の中でディオを責めておく。

 でも、歓迎されるのは嬉しくてアルドは感情のまま、戸惑いの隠しきれない笑みでもありのままにディオたちに見せる。


「ってことは初めての後輩か。もう人数増えないと思ってたから嬉しい」


 フランはニコニコとそんなことを言った。

 ディオの専属としての加入自体は一番遅いようで、後輩ができる日を待っていたらしい。


 喜ぶフランにシドは冷たく言う。


「フラン、喜ぶのはいいが追い抜かれるなよ。お前は及第点かも疑わしい」

「水を差さないでよ。あれは――」

「演技じゃなくて素でやってる、だよね。フラン」


 余計なことは言わないでとフランは目線でシドに訴え、訂正を口にしようとするがディオに阻まれ違うことを言われてしまう。


「そんなことないって」

「うん。期待してる」

「ディオ様、任せて!ってあれ?期待されてなかったの」


 ディオはおかしそうにクスリと笑って首を横に振った。


「信頼はしてるよ。妖精と医学に関しては」

「それだけ?」

「フランさんの役割ですから。私たちでは分かりませんので頼りにしています」


 ティーカップを片付けていたトリスが戻って来て、会話に参加する。


 ディオの体調の変化は妖精絡みであり、お家柄妖精には詳しく、薬師として医学にも精通しているいているため、なんとかディオ専属になれたのだ。

 気が合う友人だからというだけではさすがに陛下たちも許可は出さない。


「そっかぁ。もっともっと頑張らないと」


 フランがやる気をだし、シドはこのままでいいわけでもないが小さく呟いて今後のフランについての考えを巡らせているとトリスが話しかけてくる。


「兄さん、奥の部屋に荷物が増えていました。ベッドの数は変わっていませんが」

「そうか、掃除ついでに持ち込んだんだな」


 シドとトリスが顔を見合わせ、互いに苦笑いをする


「……なんというか」

「無言の圧力です」


 たった少しだけ見知らぬものが増えていただけだというそれは、言葉も感情の発さないのに持ち主の心を代弁していて、シドもトリスも言えない。


 考えるのも重いと、それについての思考を放棄をシドは決めた。


「足りない分は明日用意してもらう。俺がソファで寝るから気にしなくていいぞ」

「それなら、私がソファで」

「休める時にしっかりお前は休んでおけ。ジーク様はいつ来るか分からない」

「はい」


 そこにディオに構い倒されて逃げるようにアルドがやって来る。


「あーもう、ディオは」

「今日だけは大目に見てやってくれ」

「まあ、いいけど。ところでこの部屋から出ないように言うけど、どこで寝るの」


 絨毯(床)が一番寝心地が良さそうだけどとアルドは付け足してシドに尋ねた。


「ちゃんとディオの部屋(ここ)にベッドはあるぞ。専属使用人の部屋もあるが、俺たちは使ってない」

  「説明しますね。こちらです」


 そう言ってトリスに案内されたのはディオの部屋にあるクローゼットの扉の前で、トリスが両開きの戸を開けると妙な空間が広がっていた。


「なにここ?寝室なの」

「はい。私たちは特別室と呼んでいます」


 そこは収納スペース皆無で、一つの小さめな部屋だった。

 ベッド、ソファにパーテーション、書き物用らしき小さな机が一つと、形の違ういくつかのキャビネット、エトセトラ。

 ここだけでも充分に部屋と呼べるだけの機能がある。


 シドも部屋に入って来ると、唖然とするアルドにこの部屋がある理由を教えてくれる。


「元々この部屋はディオが幼い頃、深夜でもディオの体調の変化に気づけるようにと作られたらしい」

「王子だから?」

「いや――それも理由か。とにかく、その名残で俺たちはそのまま使ってるってわけだ。もっとも、ほとんどの家具は俺たち以外が持ち込んだものだけどな」


 ディオに関しての説明をシドは避け、特別室の成り立ちについて教えてくれる。

 この部屋にあるものなら、大抵自由に使ってもいいと言う。


「ふーん。なんか自由だね」

「そうですね。ですが快適過ごさせてもらえるのでありがたいことです」

「母様から聞いた話だと初めはベッドと小さいキャビネットだけしかなかったんだって」


 ディオが言う。

 赤ん坊の頃なのでディオ自身も知らないらしい。


 物心ついた時にはもう部屋として充分に機能出来るほどには物が持ち込まれていたと言う。


「呆れこそしても、誰も止めないからここまでに立派に」

「止めないってディオはそれでいいわけ?」

「うーん、一応使用人の部屋になるから口を出しにくいっていうのはあるんだけど、シドたちも重宝してるから何も言えない」


 何かと便利なこともありディオもそのままにしているらしい。

 この部屋の意味を考えればなくすわけにもいかないとディオは言う。


「あ、でもベッドは増やさないとね。とりあえず今日は、アルドは俺と一緒に寝ればいいかな。大きいから余裕あるし」


 特別室の中を見て回っていたアルドがソファの前で立ち止まって、手を伸ばす。

 少々古いソファは質素なもので、しかしかなり丈夫そうだ。


「ディオ、おれこれで寝たい。硬いし寝やすそう」

「そう?」

「うん」


 フカフカすぎて落ち着かないベッドよりも、よほど気に入ったらしく理想だとソファに転がった。


 そしてディオたちはその日、部屋から一歩出ることなく残りの時間を過ごしていた。

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