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41 誰がホントのご令嬢?

お読みくださりありがとうございます!

 お互い話したいことがあると、さっきまでトリスたちの待機していた部屋に移動する。


 円形のテーブルに囲んで座り、そこへフランが指導してアルドが淹れたお茶が運ばれてくる。

 アルフレッドは新人の成長をみるのが好きなのでそこに配慮した形だ。もっともアルドに少しずつ覚えてもらうためというのもあるが。


 フランとアルドも着席すると一番に口を開いたのはディオだ。


「アル兄、グレイ伯爵家についてなんだけど」

「ちょうど良かった。その家のことでお前に相談があるんだ」


 予想もしなかった言葉にディオはキョトンとして首をかしげてアルフレッドを見た。


「相談?」

「ああ」


 アルフレッドは大きく頷くとディオの言葉を肯定した。


「ダニエルの婚約者にカトリーヌ・メル・グレイはどうかと思ってな。母上からの話と実際に会った時の様子からダニエルと上手くやっていける気がしたからな」

「ダニーのね」


 ディオはそれぞれ互いに顔を見合わせる。

 現時点ではカトリーヌ(仮)は到底ダニエルと釣り合うような少女ではない。


 置いてけぼりのアルドにフランは気づき、ダニエルのことを教えてくれる。


「ダニエル様はディオ様たちのいとこで、真面目な子かな」

「ふーん」


 アルフレッドはディオたちの反応が芳しくないことに疑問を抱き、何かあるのかと眉を寄せた。


「なんだ?」

「アル兄、オレたちが見てきたこと話す。本物が分からないと話を進められない」


 商人としてグレイ伯爵家に行った時のことをディオは話すと言い、大まかな流れに関して

 シドは説明を始める。


「依頼も来ていたのでグレイ伯爵家に行商に向かったのですが、その際赤い髪のベアトリーチェと名乗る女性が家を仕切っておりました」

「グレイ伯爵夫人はリサのはずだが。後で調べておく、続きを」


 アルフレッドはシドの報告を聞いて不審がる。

 グレイ伯爵は国において重要な家であり、母である王妃が個人的に親しいので割と情報は入ってくるのだが、第2夫人を娶ったといった話は聞かない。


 そもそも、そんなこと伯爵がしようものなら王妃の逆鱗に触れていてもおかしくはないがそんな記憶はアルフレッドにはないので伯爵が招き入れたか勝手に転がり込んだのだろう。


「はい、続きをご説明します」


 シドはグレイ伯爵家での出来事をアルフレッドに伝えていく。


 令嬢とベアトリーチェが妖精に嫌われているということ、彼女たちにやたらと悪意を向けていてジェーンと呼ばれる少女がカトリーと名乗り妖精が彼女に好かれているということ、目利きについてや立ち居振る舞いなど、出来るだけ客観的で細かく――。


「滅多に人前に出ないことを利用したか」


 アルフレッドは険しい顔をする。

 身体が弱い夫人は滅多に人前に出ることもなく、約束をしていても夫人が体調を崩し面会を断られることも時にある。


 なにより、妖精に好かれるグレイ伯爵家への王家からの信頼は当主が変わっていても疑いもせずに健在で、こちらが油断をしていたということもあるのだろう。


「一度、しっかりと調べる必要があるな。明らかな別人だ」

「実際の彼女たちはどのような方なのですか」


 トリスが尋ねる。

 もしかするとシドやトリスも同じパーティーに参加していたことがあるのかも知れないが記憶になく、しっかりと会ったことがあるらしいディオも記憶はかなり曖昧だ。


「夫人は周りから愛されている人で、使用人も笑顔で世話を焼いていたな。令嬢はおそらく、お前たちの言う子供使用人が本当のカトリーヌ・メル・グレイだろう。容姿も一致している」

「やっぱりそう、か」


 予測が確定しただけなので特別驚きはしないが、それを明るみに――王家として対処しなければならない。


 家族間の問題で終わらせてはならないのだ。これは王家への虚偽である。


 とはいえ、貴族は往生際がわるく勘付かれてしまえば逃げられかねないのでゆっくり確実に情報を集めなければならない。


 すぐに解決出来たらいいのだが、クラウディオ王子の言葉では真実としての力がないのだ。

 それはディオの専属として働くシドたちも同じだ。


 権力を持って急ぎ解決をしてもいいのだが、それは自作自演などと言われかねず、王家にとってもディオにとっても避けるべき事態なのである。


 分かっているからこそディオは唇を噛み俯いた。

 王子としてディオが出来ることはないのだ。


 ――バシンッ。


 シドが思い切りディオの背中を叩き、痛みに顔をしかめたディオはいきなりのことに顔を上げた。


「グレイ伯爵はアルフ様に任せるとしてだ。ディオ、お前に出来ることはなんだ」


 まっすぐな揺らがない強い視線をディオに向けたシドに、ディオは目を合わせることが出来ず瞳が揺れる。


 期待?失望?

 そうじゃない、違う。

 だって、シドは知ってる――これは叱咤だ。


「そ、れは……」

「ディオ?」


 弱々しいディオの声。

 それはアルドが初めて見るディオの姿で、不安になったアルドは不安そうにディオの名を呟く。


 騒がしいのが通常運転のディオはバカなみたいに明るくて、嫌なことなんて寝たら忘れてるみたいなのがディオだ。

 不安に押しつぶされそうなディオをアルドは知らない。

 だから、アルドは怖くなった。このままディオが沈んでいくのではないか不安になった。


 アルドの小さな声が耳にしっかりと届き、ディオは勢いよく顔を上げる。

 視界に映ったのはシド、フラン、トリス、アルドでディオの言葉を待っていた。

 アルフレッドは柔らかく微笑んで見守っている。


「商人として中の様子を探ること。それが今できること。ついてきてくれる?」


 もう目は逸らさない。

 シドたちをまっすぐに見つめたディオは不安を蹴散らすように迷いなく言葉に口にする。

 そして、ディオの専属たちはもちろんだと同時に大きく頷いた。


「ディオ、頼んだぞ。シド、トリス、フラン、アルド。ディオのことを頼む」


 ディオの言葉にアルフレッドは優しく微笑んで、立ち上がるとシドたち四人に頭を下げた。

 王子としてではなくただ兄として、可愛い弟のそばにいてくれる彼らに弟を頼むと。


「もちろんです」

「はい」

「任せてください」

「えっと、頑張ります」


 それが分かっているからこそシドたちは、アルフレッドの行動を止めることはせず各々が返事を返す。

 今会ったばかりのアルドでもアルフレッドがどれほどディオを大切にしているかは分かるほどでだからこそ止められない。

 その様子にアルフレッドは満足そうに頷いた。


「相変わらず頼もしいな」

「ありがとうございます」


 椅子に座り直したアルフレッドはカップのお茶を飲み干して美味かったとアルドに伝えるとそろそろお暇すると席を立った。


「ディオ、時間があればダニエルに顔を見せてやるといい」

「うん。明日行くつもり」

「そうか、きっと喜ぶ。また後でな」


 ディオの頭を撫で部屋を出るアルフレッド。シドは見送るためと言ってアルフレッドと一緒に部屋の外に出た。


「ディオに対してをみる限り、あの子ならジークとも上手くやれると思うが、フォローしてやってくれ」

「はい、もちろんです。それでジーク様は?」

「まだ伝えてない。今日は隣国の公爵を招いた夜会がある。箝口令を解くのはそれが終わってからだ」


 疲れ切った表情を見せるアルフレッドにシドは苦笑をする。


 国王夫婦不在の今、先頭に立ち指示を出さなければならないアルフレッドは、宰相と共にかなり忙しい時間を過ごしていたと容易に想像がつく。

 周囲に説明する間も無く箝口令を敷き、決して相手に気づかれないよう細心の注意をし、違和感を持たれたら誤魔化したりと、苦労の連続だっただろう。


「分かりました。今日は部屋から出ないように努めます」

「そうしてくれ。必要なものは隠密部隊に届けさせる」


 再びディオを頼むと言ったアルフレッドをしっかりと見送った後シドは部屋に戻った。


「後の予定だが、ディオをこの部屋から出さないようにしてくれ」

「分かりました」

「うん。騒ぎになったら困るもんね」


 よくわからないがアルドも頷いて了解の意を示す。


「それと、家族に顔を見せる予定がなければ俺たちもここで待機だ。帰りたい奴は――」

「いないね」

「はい」


 誰も帰るつもりはないらしく、シドのセリフは遮られる。

 フランは自分より研究結果を求められるためにわざわざ顔を見せる必要性を感じないといい、トリスはいつも以上に近寄りがたい雰囲気をだしていて全く帰る気はなさそうだ。


 予想がついていたシドもディオもただ静かに笑うのだった。

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