37今後の方針。
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新聞を捨てに行ったフランとアルドが部屋に戻ると、ディオは起きていた。
寝起きなのだろうが目はしっかりと醒めているようでベッドの上であぐらをかいて何かを考えてこんでいたが、フランたちが戻ってきたのが分かるとすぐに考えるのをやめた。
「寝ちゃってごめんね。もう少し起きてられると思ったんだけど」
「問題ないよ。ディオ様が健康が一番」
「ありがと。うん、それじゃ始めようか」
ディオがベッドに腰掛けるとシドたちはその対面に並んで座ると今日のことについての会議が始まる。
「次回行くためにとして、好みは把握出来たよね」
「ああ。単なる派手好きといったところか」
「貴族と呼ぶにはあまりにも、グレイ家と考えると余計に」
シドとトリスの言葉にディオは同じような思いからか頷いた。
確かに貴族にだって派手好きもいるのだが、ただ派手であればいいというわけでもないのだ。
自分なりのこだわりを持って、一つ一つ細かい趣向が凝らしてあり今日ディオがベアトリーチェに売ったような見た目だけの雑な作りのものは見向きもしない。
どれだけ高価なものでも作りが甘い中途半端なものでは笑いの種にされてしまう。
良くも悪くも貴族は人に見られる場所には気を使う。
なので悪趣味な調度品だろうがそれなりに統一感があるもので、精神的にくるとしてもそこにズレのような違和感は感じさせないものだ。
「そうなんだよね。夫人は確か、もっと……」
うろ覚えの記憶は頼りになるものでもないとディオは首を横に振った。
人は変わるものだし、曖昧な記憶では同一人物かも断定するべきではないと判断をして呟いた言葉を飲み込み、話題を変える。
「商品についてはこんな感じかな。で、あの女の子のことなんだけど」
「妖精に好かれてるってことでいいんだよな、ディオ」
確かめるシドにディオは頭を抱えて仰向けにベッドに倒れこんだ。
「間違いなくね。すごぉぉくやりすぎだけど」
「やりすぎって、あれは妖精にまつわるものだっていってたはずだけど嘘だったの?」
フランがディオに問いかける。
ゆるゆると起き上がったディオはかったるそうに喋る。
「白状すると、あれは妖精入り。精霊に至れそうな妖精がイタズラがすぎて反省のために入れられてるってやつなんだけど……」
「ったく、お前は――」
呆れを通り越して諦めたようなシドを前に、ディオは拳を作ってコツンと自分の頭にぶつけると愛らしく笑ってみせた。
妙に似合っているのが余計に腹立たしい。
「てへ」
「まぁ、妖精のものに関してはお前が適任だと思ってはいるが――」
何か言いたげに立ち上がったシドは、ディオの目の前まで移動すると両手を握り込みディオの頭を無言で挟んだ。
「いたいいたいいたい‼︎ちょ、シドッ、シド⁉︎」
立場としては完全に自分の方が上だと分かっているのが、シドの顔を見るのはどうしてだか怖い。兄と重なるシドを正直止められる気もしない。
そのためディオはフランとトリスに助けを求める視線を送るが、フランとトリスはお互いに目を合わせるとディオの味方をしないと決めたらしく、この会議のメモの内容に整理して目を通し始めた。
にべもない対応であるが、同じことを繰り返さないでもらうためにも味方をするわけにいかないのだ。
アルドはといえば、以前同じことをシドにやられたことがあるので思い出した痛みに顔をしかめている。
シドもトリスも護衛という立場を持っているために想像よりもはるかに力は強いのだ。
「そういうことは面倒くさがるな。適当な管理をしやがって」
妖精にまつわるものに関しては妖精を感じ取れないシドたちが扱うよりもと管理をディオに任せているのだが、時折、杜撰な管理が目についていた。
噂程度の妖精がまつわるものであれば、それでもまだ良かったのだが中に妖精が入っていると知ってしまえば杜撰な管理は目に余る。
通常の商品と一緒にディオは保管しており、間違ってシドたちが売ってしまったらどうするつもりだったのか。
「わかるのは少数だからいいかな〜って、シドたちだってわからないわけだし。シド?」
「お前の考えはよく分かった」
ふっとディオの頭を挟んでいた力がなくなり、シドの暴力から解放されたディオはそれを不審に思い、おそるおそるといった風にシドの顔を見るために顔を上げた。
そこには恐ろしい顔をして仁王立ちするシドの姿があって、ディオは恐怖と反省の意味を込めてベッドの上で正座をする。
正直、それは頭の痛みさえも忘れてしまうほどで、表情が見えず気配だけだというのにアルドは怯えそばにいたトリスの後ろに隠れた。
「兄さん」
「ああ、そうだな」
トリスがシドを呼ぶ。
ディオを庇った訳ではなく、アルドが怯えていることと話が進まなくなることから声をかけただけだ。
「こいつに説教するのは後でいい。話を戻すぞ」
「それであの女の子のことだよね」
軌道修正がされて、会議が続く。
「前回、ジェーンと呼ばれていましたが本人はカトリーと名乗りましたね」
トリスの言葉にフランとシドが同意する。
「ジェーンって名無しの意味もあるよね?」
「ああ。前回を考えると夫人がわざとそう呼んでいてもおかしくはない」
「あの嫌な目」
前回、カトリーにいたぶるような視線をベアトリーチェは向けていた。
ディオたちは悪意を含んだ視線を向けられることも多く、そういったことには敏感であり誰も否定することはしなかった。
「妖精に好かれやすい家、2つの名前、審美眼に立ち居振る舞い、見習いだけを嫌う夫人。あの家は情報が少なすぎる!」
情報が少なすぎるとディオが騒いだ。
可能性を想像したところ確かな証拠になるものでもないのだ。
「当代になってからは情報が入ってこなくなったからな」
「社交にも滅多に出席しないって聞くから、噂すらも聞かないし」
フランが言ったあと、シドが何かを思い出したようで手をパンと叩いた。
「アルフレッド様から聞いたことがある」
「アル兄から?」
「正式にお前につく前の話だ。グレイ伯爵夫人は身体が弱いから会うことは少ないだろうと」
ベアトリーチェは見る限り健康そのもので、使用人が体調を気遣っている様子もなかった。
ディオは一度頷くと立ち上がろうとしたが痺れた足のせいでベッドから盛大に転がり落ちて、うつ伏せのまま顔だけ上げた。
「ここで悩んでも仕方ないし――」
アルフレッドの言葉なら信じられるし、憶測や曖昧でものを言わないシドの言葉なら事実だ。
ディオは立ち上がって自分で服についた埃を払うと4人に向かって言い放った。
「一度、家に帰ろうと思う」




