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36 明らかにするなら

お読みくださりありがとうございます!


ブックマーク、評価ありがとうございます。励みになります。

 グレイ伯爵家での商売を終えて、シドが予約していた宿に向かう。


 宿の部屋に着くなりディオがすぐに寝てしまったため、話し合いをすること出来ずディオが起きるまで自由時間となった。


 宿に向かう途中で買った新聞を取り出したシドは情報収集だと新聞を読みだす。

 町に滞在している時が一番の情報収集のチャンスだと読み込んでいるが、シドの表情はあまりいいものではなく、いつもよりも眉間にシワがよっている。


「兄さん、妖精石のことは伏せておくべきでしょうか」


 手紙を書く手を止めたトリスは、悩んだ末にシドに尋ねる。

 ディオもお飾りではないのだが、度々寝てしまうこともあり大抵の判断はシドに任されている。

 軌道修正が必要でなければディオも口を挟まないために、ディオが殆ど何もしてないように見えてしまう原因になっている。


「そうだな。ディオが伝えるつもりがないなら伏せておく方がいい。ディオと同等だと考えていいはずだ」

「分かりました。では、そのように」


 シドに判断を仰いだ後、トリスの手は動かずシドとともに視線はフランの方に向く。

 フランも普段はあれだが口は堅いので、そうそうカトリーの持っていた石については周囲にいる漏らすことはないとは分かっている。共通の認識として石のことは伏せておくと確認のためだ。


 ちくちくと破れた衣服の補修をしていたフランは視線を感じて顔を上げた。


「妖精石のことなら誰にも話すつもりはないよ。第一そんなことしたら家族が各地に迷惑

 かける姿しか想像できないから」


 シドとトリスの会話はしっかりと聞こえていたようだ。


 フランはディオの指示がなくても妖精石については話す気はないらしい。

 親友であるディオを必要以上の危険に巻き込むつもりはフランにはなく、妖精の、研究のためなら暴走する家族の耳に今回のことを入れたくないのだ。

 あの研究熱を果たして止められる人間がいるかどうか。


「ああ、そうしてくれ」

「そうするつもり。隠せるとも思えないのが困るんだけどね」


 フランは苦笑いをする。

 どこまで黙秘が通じるか不安ということもある。


「ま、あとはカトリー(あの子)を信じるしかないだろう。俺たちから漏れることはないんだ」

「うん。そうだね」


 頷いたフランをみて、シドはアルドにも声をかける。

 自習中をしていたアルドはインクが乾いたのを確認してノートを閉じたところだった。


「アルドもさっきの石のことは喋るなよ」

「ん?うん。そもそも話す相手がいないし」


 ほぼ全ての会話がディオたちとだけのアルドには話す相手はいない。それにあんな話を信じる人間がいるかどうか。


 まぁ、宝石なら金になるのだろうがアルドには価値も分からないし、ディオたちの様子を見るに下手に関わるの危険そうなので口外するつもりもない。


「そうか。フランよりは安心か」


 思わぬところで予期せぬ失敗をする時があるフランと比べればアルドの方が口を滑らすことはないだろうとシドは納得して読んでいた新聞を乱暴に畳むとソファに放り投げた。


 シドが苛立っていることを不思議に思いながら、やることのなくなったアルドは新聞を拾って読むことにする。

 時間はかかるが文字を読めるようになったことが楽しいので内容はどうでもいいのだ。


 アルドが新聞を広げた直後、時計を確認したシドから声が飛んでくる。

 その声はどこかトゲトゲしい。ディオもフランも怒られるようなことをしていないのに珍しい。


ディオ(あいつ)が起きる前に()()捨てといてくれ」


 部屋の中にもゴミ箱はあるのにと思うのだが、シドもよく見ればトリスも苛立っているようなので従った方がいいだろうと、読むことを諦めたアルドは新聞を捨てに行く。


 その間に見出しだけでも歩きながら新聞を読んでいく。


「第三王子、今年も、けんこく、さいに、出席、せず――」

「昨年に引き続き、公的行事に一切顔を見せない第三王子は一体何を考えているのか」


 アルドを追いかけてきたフランが続きを淀みなく読み上げる。


「そんなに怒ることなの?」


 生きることに精一杯だったアルドからすれば、それだけで怒る理由も責める理由も見当たらない。むしろそうすることはバカバカしいだけなのだ。


「自由なんだけど、こういう時にしか陛下、王様たちを見る機会がないからね。毎年、家族で参加してるから余計に」

「義務に近いんだ」

「うん。ただ、第三王子はどっちにしても何かしら書かれただろうけどね」


 悲しみを混ぜたような困った顔を浮かべて、フランは笑った。

 おそらく第三王子に限ってならいいことは書かれないのだろう。


「仕方のないことって言うのも分かってるんだけど……」

「けど?」


 そう呟くフランは悔しさを滲ませている。


 そこまで肩入りするフランをアルドは疑問に思ったが、もしかするとシドやトリスを通じてフランも何か第三王子と繋がりがあるのかもしれない。


 受付近くまで行くと柱時計の音が聞こえて来て、フランは慌てて時間を確認するとそろそろディオが起きる頃だと話を切り上げると急いで新聞を捨てて部屋に戻った。



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