34 建国祭
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「悪いけど後のことは頼むね、ウォルグ」
まだやるべきことは残っているのだが、ディオはそれらをウォルグに任せることにして町を発つことした。
「おう、任せとけ」
「ありがと、ウォルグ。そろそろ人がいる場所から離れないとならないから助かる」
ディオは笑顔でウォルグに礼を言うと、そうこぼした。
「それはいいがディオ、無理はすんじゃねぇぞ」
「うん。気をつける」
返事しながらあくびをするディオは、一時間ほど前に起きたばかりのはずなのだが、眠気がまだ飛んでいないのか、それとも寝足りないのかわずかにうつらうつらしている。
またどこかでと握手をして別れを告げてディオたちは馬車に乗り込むと、浮き足立つ町の中、馬車を走らせた。
フランだけが馬車から身を乗り出して手を振って、トリスとアルドは大人しく座席に座っている。
ディオは馬車が走り出した直後あたりから眠いと言ってすぐに寝てしまった。
まぁ、昨日あたりからディオは体調を崩しているらしいので仕方ないかも知れないが、いつも以上によく寝ている。
それから休憩を挟みながら馬車を走らせること約2日、建国祭の日。
町からできる限り離れた場所が今日の野営地だ。
シドとトリスは素早く食事の準備に取り掛かっていて、馬車の出入り口ではフランが難しい顔をしながらノートとにらめっこをしていた。時折、ディオの方を見るのは忘れない。
手伝うこともなく、体調を崩しているディオに何か出来るわけでもなく退屈なアルドはフランに声をかけた。
「何やってるの、フラン」
シドたちに怒られていた様子はなかったが、どうにもフランが難しい顔をしているとなにか失敗でもしたのかと思ってしまうアルドだ。
「いや、薬の調合がね、新しいのを作るにしてもディオ様には効きにくいからどうしたものかと」
「効かない?」
フランは頷く。
「うん、ほとんどというか全くって言えるほど効かないみたいで。かと言って大風邪をひいてるみたいなものだから少しでも症状を抑えられるならって思うんだけどね」
薬学を勉強し始めてからのフランの知識でも成果は芳しくないようだ。
上手くいかない薬作りにため息が出る。
薬が効かないと知ったアルドは高熱にうなされるディオに不安がよぎる。
本人は大丈夫だと騒いでいるが。
自分がディオたちに助けられた際に薬の効果は嫌という程思い知った。
怪我と病気では違いもあるだろうが、症状を緩和するためのものいうのは同じはずで、薬が効かないとなればかなり辛いものがあるだろう。
「ディオ、大丈夫なの」
「建国祭さえ乗り越えちゃえば割と平気なんだけどね。人にうつるものでもないし」
「そっか」
フランの言葉を聞いてアルドは安堵をする。
もともと風邪をひきそうにない感じのディオは風邪をひいても治るのが早いのだろう。
「フラーン、ちょっと来てくれる?」
馬車の中からフランを呼ぶ声が聞こえる。ディオだ。
「どうしたんだろ。行ってくるね」
寝ていたはずのディオから呼ばれて、フランは慌てて馬車の中に入っていく。
寝台仕様にされている馬車のベッドの上で胡座をかいて壁に寄りかかるディオは、フランにコップを取って欲しいとお願いをする。
フランはコップを取ろうとして、その手を止めた。
亀裂が入ってしまっているコップは触ればすぐにでも割れそうなほどで、フランは一度馬車の外に出て新しいコップを持ってくると、ディオにコップを持たせずに水を飲ませる。
それから亀裂の入ったコップを片付ける。
「うーん、やっぱり力のコントロールの難しそうだね」
「これでも調節が効いてる方なんだけど。割らずに済んだし」
「それは後で聞くとして、ついでだしシドたちにご飯できてるか聞いてくる」
フランは馬車から降りるとシドたちに食事が出来ているか尋ねる。
ディオが今起きているので出来ているなら今のうち食べてもらうためだ。
「一応、ディオのやつなら出来てるぞ。そこの火にかけてあるやつがそうだ」
「これか。世間は豪華な食事なんだろうけど」
「私たちは後日に」
「だね」
冷めないようにと小さな火にかけられていた料理をフランは取る。
普通の病人と同じような扱いでいいのかは未だ疑問に感じることはあるのだが、一応、妖精学の権威であるフランの父に言わせるとベースは人間なのでその方がいいとのことだ。
「ディオ様、ご飯持ってきたよ」
「ありがと。フラン、アルド」
フランの後ろにはちょこんとアルドがいて、ディオのことが心配でついてきたらしい。
人に移るものでもないので尋ねられたフランも特に止めることはなく、むしろ誰かといた方が気が紛れるだろうと連れてきた。
「美味しいけど味気な〜い。毎年この日だけはどうしようもないや」
「病人食だもんね」
ディオがまた食器を壊しても困るのでフランがディオに食べさせているのだが、ディオら味気ない食事に渋々と言ったふうである。
「ちなみに今日のご飯は?」
「コートレットと白パン」
「あと、プリンだって言ってた」
食べられないと分かっていても、今日のメニューが気になるようでディオはフランに聞く。
「コートレット?」
「うん、アルド君のリクエスト。揚げ物だからディオ様はまた今度ね」
「う〜。けど毎年オレに合わせて質素にしてたから、むしろいいことだね。食べられないのは悔しいけど、けど」
好物が出ると知りうなだれるディオだが、すぐに切り替えると嬉しそうな顔をした。
建国祭の日はどこもいつもより豪華な食事なるというものなのだが、シドたちは体調を崩すディオに付き合い食事は簡単なもので済ましていたのだ。
なので、ディオからすると悔しさもあるが嬉しい限りなのである。
食事を終えたディオは力を抜いて横になると、その上にフランは毛布をかけるとアルドに声をかけて馬車を出る。
ちょうど完成したらしい料理に舌鼓をうち素直に美味しいと喜ぶアルドに、シドたちは顔を見合わせた。
これがディオの理想だったのだろうと。
ディオにとっての建国祭はお祭りの日だというのに、家の外から聞こえる喧騒と軽快な音楽とは裏腹に周囲は誰も笑っていない日で、自分のことよりもそっちの方が嫌いだった。
それを知ったところでシドたちはあまり変えようとは思っていないが、代わりにディオが復帰した後の料理はディオの好きなものを並べようと心に決めるのだった。
建国祭の日はディオにとって喜ばしい日であると同時に辛い日でもあります。




