3仲良くできるかな?
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「だったら、利用くらいしてみろ。アルド」
あくまでシドは冷静に言い放つ。
突き放すような言い方なのは、アルドが貴族を嫌っているからも一割くらいあるかも知れないが、割とシドの通常運転だ。
「アルドって呼ぶな」
利用云々はまあいい。
孤児として生きる上で人を利用することは重要なことだったし、そこに疑問や躊躇いを持つような生活はしてきていない。
貴族だって似たようなものだろうから。
むしろ、ディオが勝手につけた名前がこの商人たちの間で定着していることの方が我慢ならない。
別に忘れた名前にこだわる気は毛頭ないが、勝手につけて、それを当たり前のように呼ぶディオたちには腹が立った。
「なら、なんて呼べばいいんだ?」
「おれに名前なんてない」
「それならアルドでいいだろ」
面倒そうにいうシドは息を吐いて、馬車から荷物を降ろしていく。
これ以上ここで言い争いをするつもりもないらしい。
「まーたケンカしたの? 」
食材を切っていくフランは呆れたように言って、シドが肯定をする。
貴族嫌いのアルドはシドとトリスに対しては特にキツくあたる。
もっともシドとトリスも意に介してはおらず、一方的にアルドが騒いでいるだけになっているのだが。
「なかなか難しそうだね」
逃げ出したら逃げ出したでいいのだが、自分たちといる間に少しでもアルドに知識を教えたいとディオは思っている。
さっきの利用してみろと言ったシドのセリフもディオの発言からのものだ。
ディオの言葉がなければシドは大してアルドに何かしようとは思っていない。
「仲良くなれるといいのですが」
「もしアルド君が心を開くとしたら――」
フラン、シド、トリスは揃ってディオの方に視線を向ける。
「オレ? 」
首をかしげるディオにフランがそうと頷く。
「可能性を考えるとディオ様ですね」
「ああ、ディオだろうな」
トリスが出来たばかりの料理を器に盛り付けディオに渡す。
受け取ったディオは全員分用意されたのを待ってから食べ始める。
フランは自分とアルドの分を持って馬車の中に入っていった。
まだ一人で動き回るには大変で、本人がシドたち兄妹とあまり顔を合わせたがらないのでこういう形になっている。
「ねぇさっきの、アルドが心開くならフランじゃないの?」
フォークを咥えたままディオは不思議だと尋ね、シドが行儀が悪いとフォークをディオの口から抜き取った。
「あいつは良くも悪くもマイペースすぎる」
「フランさんが実家の人間として動かなければあるかも知れませんが、おそらく――」
ないだろうとトリス。
シドも同意見のようで、否定はしない。
フランは表面上、人の良さそうな人物に見えるが、ときおり常識が欠けている時があり、失言も多かったりする。
本人はまるで気づいていないが。
「そういうものなのかなぁ」
「アルドが引かなければ可能性はあるかもしれないが」
「ないでしょうね」
納得できるような、できないようなとディオは頭をかいて自分から振った話題を放置した。
たらればを言っても仕方がないが、いつだって最終的に慕われるのはシドなのだ。
アルドと仲良くなれたとして、そうなるのは目に見えているとディオは残った食事を一気にかきこみ、シドに再び叱られる。
負けないと若干涙目のディオは視線だけをシドに送って、逃げるように馬車に入っていった。
止めることもせずにそれを見送ったシドとトリスは、時計を確認すると何事もなかったように片付けを始めるのだった。
Q.シドが一番慕われると言うのは?
A. シドって頼り甲斐があるし、真面目だしそこらへんが理由なんじゃないかな。
オレとフランは懐かれるって感じが多いよ。