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28 商人ウォルグ

お読みくださりありがとうございます!

 一段落ついたところでアルドを連れてディオのところに戻って来たシドは、ウォルグにディオを見ていてくれたこと対しての礼を言う。


「ありがとうございます。ウォルグさん」

「おう。積もる話もあったからな。ディオは寝てから三十分ってとこか。あと、勝手に見させてもらったぞ」


 机の上に置かれたシルク商会の資料を指差してウォルグが言った。

 ディオが眠ってしまいやることもなく置かれていたのが商会の資料だったからつい見てしまったと言う。


 大方フランが片付け忘れたのだろう。

 見られても大して困るものではなければ管理は個人に任せているためだ。


 ウォルグは口が固く、信用に足る人物なのでもし仮に見るべきではない資料が目に入ったとしても見て見ぬ振りをするだろう。


「商会のものなら構いません。専門の方にアドバイスが頂けるなら助かります」

「まだまだ新人(ヒヨコ)だな」


 ニッと口角を釣り上げたウォルグはペンを置くと、書き上げたばかりの紙をシドの前に出して、それを受け取ったシドは出しっ放しだったものと見比べる。

 シドたちの会話にアルドは不思議そうにしていた。


「さすがプロだな」

「まぁな。ちょっとかじっただけの奴にゃ負けられねぇよ」


 他の資料をアルドに持って来てもらうと、資料を持ってきたアルドが不思議そうにしているのに気がつき教えてくれる。


「ウォルグさんの両親は行商人だからな、俺たちよりもずっと専門的な知識を持ってるんだ」

「散々手伝わされたからな、本職っちゃあ本職ってもんではあるか」


 世襲制というほどではないが、子を働き手とみなし仕事を教え、そのまま子供が後を継ぐことは多い。


「何かあれば教えるぞ」

「でしたら――」


 カバンを漁ったシドは一冊のノートを取り出すと開くと、ウォルグにそれを見せる。

 分からないことがまとめて書かれているノートらしく、ウォルグはざっと目を通した後白紙の紙をシドからもらいできる限りのアドバイスを書いていく。


 夜も遅いのでアルドがベッドに入り、時を同じくしてフランとトリスが戻ってくる。


「ただいま戻りました」

「ただいまーってディオ様寝てるんだ」


 入ってすぐディオの姿が見えないことで、ディオが寝ていると判断したフランは声のトーンを落とした。

 最近怒られてばかりのフランも少しは学習したらしい。また時間が経てば忘れるだろうけど。


 水をコップに入れて一口飲んだフランはウォルグに話しかける。


「ねぇ、ウォルグ」

「なんだ?」


 少しだけ躊躇ってからフランは疑問を口にする。


「最近の妖精の様子ってどうなの?」

「妖精の様子ねぇ」

「そう、建国祭近くは信仰心が高まって妖精のエネルギーが大きくなる。特に始まる前ほど楽しみで人は浮かれるから、その頃にはちょっとずつ力は強まってるんじゃないかって」


 ディオに聞いたっていつも通りと言われるだけだが、フランにとって研究のためと、何より親友であるディオがこの時期少しでも快適に過ごせるようにしたいのだ。


「俺はぼんやりしか見えねぇからな、正確なこたぁわからねぇが、俺の感覚でいくならまばらだ」


 シドやフランに伝えなければならないほど重大なことでなく、ディオ本人が教えるつもりがないことをウォルグも教えるつもりがないので完全な嘘ではないが嘘をついた。

 実際はまばらではなく全ての妖精のエネルギーがわずかに高まっているのだ。


「そっかぁ。それだとディオ様の体調もどうなのか分からないや」

「いつも以上に気にかけておかなければなりませんね」


 ウォルグはインクが乾いているのを確認するとノートを閉じてただため息をついた。


「あいつは時折隠すからなぁ」


 ディオは自分一人の問題となれば時に周囲にそれを隠すことがあり、妙に隠すのが上手いせいでシドたちも気がつくのに遅れるのだ。

 気づける人もいるのだが、その人はディオにもシドたちにも何も言わなかった。


「シド、ノートしばらく借りてぇがお前らの予定は?」

「構いません。商品の仕入れと、キビタキ村領主の調査があるのでまたここに来る必要があるので」

「領主の調査?」


 シドの言葉に引っかかりを覚えたウォルグが尋ね、シドはキビタキ村の状況をウォルグに伝えるとウォルグは視察という名の調査にメンバーを行かせると言った。


「田舎の方こそ必要なもんで、どのみち行かせようと思ってたとこだ」


 都会と呼べる場所であれば、何かあった時に騎士もすぐに動き、学がある者も多く違法だと知られて告発や噂という形で違法が暴かれやすいのだ。

 身近に騎士がいるので伝えやすいということもあるかもしれない。


 しかし田舎になればなるほど、騎士たちがトラブルのために向かうことも少なく、またそういった場所の住人たちは問題が起きても領主以外に伝える場所も分かっていない場合が多い。

 学びの場があるところは珍しく、領主の言うことを素直に聞くだけしか出来ない住人が多いもの事実なのだ。


「それなら、よろしくお願いします」

「おう。五日ほどで帰らせる」


 シドは頭の中で今後の予定を素早く組み立てると少しだけ時間に余裕が持てるようにして、実際にかかる時間より長めに答えた。


「今日は帰るわ。ま、ディオが夜中に起きたら叩き起こしてくれて構わねぇぞ。約束したからな」


 そう言ったウォルグは手をひらひら振って隣にある自室に戻っていった。

 結局ディオが起きたのは翌日の朝で、運んでもらった朝食をシドたちが机に並べ終わった時だった。

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