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21 星渡りと

 グレイ伯爵家での商売を終え、一度宿に行くことにしたディオたちは宿まで馬車を走らせる。


 宿は町の中心から離れた場所にあって、途中にある林はまるで街道を走っているようだった。


「そういや、ディオ。髪飾り(あれ)は渡してよかったのか」


 ディオにシドが馬を走らせながら問いかけると、トリスも頷く。


「あれは売り物ではないとディオ様はおっしゃっていましたが」

「さすがに妖精にまつわるものだし、気軽に売り物ですとは出来ないよ。あの家で見かけたから、渡しただけ」

「へぇ、どこにいたの?」


 フランが妖精の話題になり楽しそうに尋ねる。

 妖精の姿は見えなくても妖精研究はしているのだ。食いつかないわけがない。


「あの親子を叩いてた」


 妖精はペンダントを持ち上げようとするも、持ち上げられず真っ赤な顔をしてたらしく、ベアトリーチェの頭を叩いていた妖精も力がなく、せいぜい髪の毛をわずかに揺らす程度にしかなっていなかったようだ。


 ものを隠すことはあるがあそこまで必死なのも珍しく、ベアトリーチェに対しての行動

は妖精のイタズラにしては少々、直接的な暴力すぎる。


 戸惑うようなディオの説明を聞いたフランは不思議そうな顔をする。


「妙な話だね。そもそも、あの家って妖精に好かれやすいはずなんだけど」

「うん。それにあんな派手な人じゃなかったと思うけど……」


 曖昧な記憶を辿るようにディオが呟くが馬車の走る音にかき消され誰にも届かなかった。


「おかしな家」


 妖精は自由に好きな場所にいくとディオやフランから聞いていたアルドがいう。

 嫌いな人間がいる場所に妖精が留まっているのはどうにもおかしな話のように思えてしまう。


 元々妖精に好かれやすい家だから離れないだけなのかもしれないとディオは結論づける。

 人間にとっての一代は長い時間であっても、妖精にとってみれば一瞬のようなものだ。


「ま、実際はわからないけど。わからないと言えば、伯爵家にいた子供使用人についてどう思う?」

「そうですね。あの子の方がご令嬢らしく思いました」

「勘じゃないとか、おかしいでしょ。貴族でもなきゃ」


 トリスとアルドが率直な意見を言うと、ディオはそれに同意する。


 子供使用人のほうがよっぽど立ち居振る舞いは出来ていた。

 色々と引っかかりはあるが、今の情報だけでは推理することも難しい。


「もしかしたらはあっても、確証があるわけでもないし、仲良くなってみるしかないよね」


 しばらくはこの辺りで商売を続けるとディオが決め、シドは計画の練り直しだと眉間のシワが深くなる。


「ったく、お前は毎度毎度――」

「兄さん、この考えなしは今に始まったことではありません」

「それもそうか。考えなしだもんな」


 シドとトリスの兄妹に貶され、むくれるディオは背中しか見えないシドに声を荒げる。


「ちょっと、二人ともオレに冷たくない⁈」

「こうなったのはお前の自業自得だろうが!」


 自由すぎるディオを止めるには、クソ真面目にやっていては食い止められなかった。

 そのため、だんだんと乱暴な扱いになっていったのだが、その度に周りからは苦労をかけると言われるだけで咎められたことはない。


 ますますむくれたディオはシドへの反撃の手をないかと探す。


「まさかこのプリティチャーミーでモテまくりのオレに嫉妬を?」


 いい閃きだと言わんばかりのディオの発言はすぐさま否定される。


「それはない」

「それはないです」


 兄妹コンビが声を揃えて返すと大きなあくびをしたアルドがディオを冷たい視線を向ける。


「三人ともうるさい。寝られないんだけど」

「騒いでるのはあいつだけだ」

「騒いでるのはディオ様だけです」


 またも声が揃うシドとトリス。


「またハモってるぅ。フラン、みんながオレに冷たい……」


 ディオは涙目になりフランに泣きつく。

 フランはよしよしと、子供をあやすような扱いをしてディオを励ます。


「もう、みんなディオ様のことをいじめすぎだよ。こんなでも僕らが仕えるべき主人あるじなんだから」

「ぐす……みんな嫌いだぁ」


 フランの言葉がトドメとなって、ディオは馬車の端っこで小さく縮こまり、完全にいじけてしまう。


「フランのせいだな」

「フランさんのせいですね」

「フランのせい」

「え?僕のせいなの?」


 シド、トリス、アルドに責められたフランは理解が出来ていないようだが、日常茶飯事のことなので狼狽えない。


 ここに来るまで買ったお菓子を荷物の山から探し出し、フランはディオの目の前まで持っていく。


「ディオ様、食べる?」

「……食べる」


 フランがいつ取られたかわからないほど素早くお菓子を取ったディオは縮こまったままそもそもと食べ始める。


「おかわり」


 少し多めにフランがお菓子を渡せば、ディオはアルドに食えと進めていて、お菓子一個で機嫌は直ったようだ。


 ディオの機嫌に気を使いつつ、もう一軒だけ商売に回り、今日の予定を片付けると予約していた宿に向かう。


 アルドを抱き枕に寝てしまったディオを、露骨に迷惑そうな顔したアルドごと放置をして、シド、トリス、フランは細かな雑務を片付けていく。


「ねぇ、これ邪魔なんだけど」


 耐えきれなくなったアルドが力を借りようと仕事中の三人に声をかけるが、返ってきたのは冷たい答えだった。


「アルド、お前の犠牲は無駄にしないから安心しろ」

「この方が仕事が捗るのでアルドさん、よろしくお願いしますね」

「ごめんね、アルド君。一時間以内には終わらせるからそれまで耐えててね」

「…………………………わ、かった」


 不服そうに答えたアルドを救うべく、間違いが出ないようにでも急ぎ彼らは仕事を終わらせると、ディオを叩き起こす。


「ん〜、アルドがいる」

「早くどいて」

「ああ、ごめんごめん」


 アルドから離れたディオは首をプルプルと振ると意識を覚醒させる。


「何かあった?」


 そう問いかければシドは星渡りに見に行くと答え、ディオはすぐさま宿を飛び出し、慌てて追いかけたシドたちはディオと合流すると

 ゆっくりと歩き出し蝶の星渡りのスポットまで向かう。


 海に点在する島から島へ薄ぼんやりと光る蝶の大群が渡っていく光景は、まるで夜空に浮かぶ天の川のような、思わず見とれてしまうような景色だ。


「これが蝶の星渡りか。妖精とも全く違うや」

「鱗粉とか?」

「ともちょっと違うけど、その辺はフランに聞いて」


 ディオ言葉にアルドが問いかければディオは違うといって、妖精の研究者であるフランなら喜んで説明してくれると丸投げした。


「似てるものなの、ディオ様」

「さぁね、自分じゃ見えないもん。俺が鏡なんて見ると思う?」

「確認するわけないよね」


 妖精が見えていればと悔しがるフランをよそに、ディオは蝶を見つめる。


 そろそろ帰るぞとシドがいって来た道を戻る。

 フラン、トリス、アルドが先を進んで、ディオはまだ蝶を眺めていて、その瞳は羨ましいそうな寂しげなものだった。


 軽く深呼吸をしたディオは進もうとして、ディオを待っていたシドに振り返る。


「ありがとね、シド」


 我が儘だと一蹴することも出来たのはずのディオの意見を聞いて、蝶の星渡りを見に行けたことに小さく笑ってディオはシドに礼を言う。


「これも旅の醍醐味だろ。せっかくなら楽しめた方がいい」


 そう言ってシドはディオに笑い返し、先を歩くフランたちに追いつくために急いだ。


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