2名付け親ってことだよね
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「ん〜、オレは貴族じゃないから大丈夫かな? 」
のんきに言ったディオにフランとシドは冷ややかな視線を飛ばして、ディオはそれを蹴散らして明るく笑った。
「貴族じゃないし、商人だからね」
少年に言い聞かせるようにディオは言って、元気そうでよかったと声をかけたが、少年は無言のままでディオは一人喋る。
「オレはディオ。そっちの貴族がシドで、こっちがフラン。あと、外にいるのがトリス。オレの商会の従業員だよ」
「よろしくね」
シドとは対照的にフランは少年に笑いかける。
彼の診察もしたいので、友好的な関係になっておきたいと言う打算もある。
少年は黙ったままで何も言わなかったが、ディオが名前を尋ねたところでやっと口を開いた。
「――忘れた」
ない、ではなく忘れたと答えた少年は生まれた時に捨てられたわけではないのだろうと推測が出来た。
どう声をかけるべきかシドとフランは曇った顔をするが、ディオだけは違っていた。
「そっか。じゃあ、アルド。今日からアルドね」
屈託なく少年に笑いかけてディオは明るくいって、シドが呆れた顔を、フランは楽しそうにする。
「ディオ、犬や猫じゃないんだぞ」
「分かってるよ。むしろ、犬や猫より名前がないと呼ぶ時に困るでしょ」
「ディオ様が名付けるならこれ以上ないってほど名誉な名前じゃない、シド」
少年そっちのけで繰り広げられる会話に、少年は冷めた目をして三人を眺めていた。
「ってことで、よろしくね。アルド」
「は?何を」
「何が?」
勝手に名付けられたことにイラつくように少年が返せば、ディオはそれを疑問に思ったらしく聞き返してきて、話が進まない。
「いやだって、アルドの怪我が治るまでは一緒にいるんだから、名前がなきゃ困るでしょ」
「わけのわからないことを……」
騒ぎすぎたのか傷が疼くようでアルドは痛みに唇を噛んで耐え始めて、フランはシドとディオをこの場から追い出した。
「ごめんね、アルド君。起きたばっかりなのに配慮が足りなかったよね」
フランはアルドに水を飲ませてから、仰向けになるのを手伝い、すぐそばにフランは座った。
「しばらくはアルド君の前で騒がしくしないように言っておくから」
一度、この場所から離れたフランはシドに伝言を伝えてからアルドのそばで本を開いて読み始めた。
誰かしらアルドのそばについていないと困るので対処がすぐ出来るフランが取り敢えずつくことになった。
この場で薬を作ろうとしたフランだが、それはディオ、シド、トリスに止められ、今度はディオ、シド、トリスから大人しくしてろと言われてしまったフランだった。
いつの間にか眠っていたアルドが目を覚ますと、相変わらずフランがそばにいて本を開いている。
読み終えた量を見る限り、時間はそんなに立っていないらしい。
「おはよう、アルド君」
「………………」
仰向けのままアルドは何も言わないが、フランが穏やかに笑ってアルドを壁に寄りかからせるように起こし、そこにトリスがやってくる。
「フランさん、これくらいでしょうか」
トリスが湯気の立つカップを持ってやってきて、フランはスプーンで中身をすくって確認をすると頷いた。
「うん、大丈夫。ありがと、トリス」
トリスはアルドをチラリと見ると、目覚めてよかったですと残し、すぐに出て行った。
アルドの貴族嫌い発言を知らされて気を使ったのだろう。
「アルド君、ご飯だよ」
消化をよくするためにしっかりと煮込まれたスープは食材が原形をとどめていない。さっき、シドに伝言を頼んでトリスが作ったものだ。
それをフランはスプーンですくって、アルドの前まで持っていく、食べる気はないとしていたアルドだが、空腹には勝てなかったらしい。
腹の音が鳴ると同時に恥ずかしげにスプーンをくわえた。
フランはただ微笑んで、スプーンにスープをすくってアルドに口元まで運ぶ。
自分で飲もうとしていたアルドだが、利き腕の右腕が痛むこと、左腕では上手くできなくて、結局フランに食べさせてもらうかたちになった。
用意したスープを全て食べ終えたアルドに、フランは薬と水を運んできた。
薬を差し出された瞬間、アルドはうろたえた。
「そんな、もん」
「別に何も請求はしないよ。アルド君には」
庶民にも普及しているとはいっても、薬はそれなりに高価なので、孤児として暮らしていたアルドには薬の味よりも対価の方が怖いようだ。
「全てはディオ様の御意志ってね。ね、ディオ様」
フランが振り向けばディオの髪の毛が扉から見えていて、覗いていたのが気づかれていたのせいか恥ずかしそうにやってきて、フランに怒ったように呼びかけた。
「フラン、そうやって丸投げして」
「だって、説明向かないの分かってるでしょ」
「まあ、今の状況下なら」
だから頼むねとフランはディオに、アルドへの説明を丸投げして、フランはご飯を食べてくると外に出ていった。
「ちょっと、フラン⁉︎」
全くとため息をついたディオはアルドの方に向き直る。
「オレが勝手にやってることだし、アルドならわかるんじゃない」
「見返りは求めないってこと?」
「そう、正解。だから、アルドが逃げたとしても割り切るしかない。すっごく寂しいけどね」
ディオはしょげた表情をして、すぐに明るさを取り戻すと不敵に笑う。
「でも、怪我がしっかり治るまではいてもらうからね‼︎ 」
「わ、かった……」
ビシッとアルドに指を突きつけたディオは、有無を言わさないような迫力があった。
暴力や脅しでもないというのに、従わざるをえないようなそんなものが――。
アルドが不服そうな顔で返事をすると、ディオは満足そうに頷いてニコニコと笑っていた。
Q. 薬の請求先とは?
A. もちろんディオ様にだけど、シドに伝えて おかないとね。
その後シドに怒られるフランです。