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16 妖精だって

お読みくださりありがとうございます!

「こんにちは〜」


 昨日に引き続きエニシダの工房にやってきたディオは元気に挨拶をするが、エニシダは迷惑そうにしている。


「まーたきやがったのか坊主ども。商人(てめぇら)に売るもんなんてなにもねぇんだ。帰れ!」


 エニシダは立ち上がるとものすごい勢いで工房の扉を閉じようとするが、ディオの浮かべた笑みにエニシダの動きが止まる。

 何をされたわけでもないがなぜか動くなと言われている気がした。


 なおも笑みを浮かべるディオは、静かに口を開いた。

 その声は底抜けに明るいのに、凛とした響きを持って相手へと届いて、無意識の間に従わなければならないような気にさせる。


「エニシダさんの悲願、手伝いましょうか?オレは妖精が見えるから」

「僕はパーチメントの研究に片足突っ込んでます」


 ディオは簡単に言って、その数歩後ろでフランもついでとばかりに発言をする。

 専門は妖精研究ではないが、勉強はさせられたのでそれなりに妖精についての知識はある。


「はぁ?何を言ってやがる。冗談は寝言でいえってんだ」

「信じてもらうのは難しいなぁ、もう」


 冗談だととられて、ぶすくれるディオは事実なのにと悔しがる。

 妖精を信じている人でも、その存在を目にすることが出来るというのは信じがたいものがあるらしい。


 まあでも、話は聞いてもらえそうだ。


「少なくともオレは妖精の暮らしやすい場所を増やそうとしている人に協力をしたいと思ってるよ。妖精が安定した暮らしが出来るならオレにとっても助かるから」


 そのためなら協力は惜しまないとディオは言う。

 あくまでディオは自然体で、嘘かどうか判断はつかないが騙そうとしている感じはない。


「お前()になんの益がある」

「う〜ん、オレの世話時間を減らせるとか?」


 商会にとっての益を尋ねたエニシダにディオは、悩む時間もなく答えを返す。

 エニシダの予想とは全く違う答えは、その場にいる人間でも予想出来ないものだったが、ディオはその反応を分かっていたかのようにニッと笑った。


「妖精からの要望って結構多くて。ほら、ずっと話を聞いてるのって頭が痛くなるから」

「妖精と人間を一緒にするか」


 ディオはだから少しでも解放されたいと言い、その言葉にエニシダは声を出して笑い始めた。


「騙して持ってこうとした奴はごまんといたが、手前みてぇなのは初めてだ。いいぜ、手を貸してもらおうじゃねぇか」

「もちろん」


 お互い目を合わせて、まるで意気投合するように掲げた手を勢いよくぶつけた大きな音を鳴らした。


「ただし、売るのは俺の作ったもんじゃねぇ。それと条件をつけさせてもらう」

「構いません」


 ディオはエニシダの作品ではないことも、作品を売るにあたって条件をつけるというのも快諾する。

 エニシダなりの考えがあるのだろう。


「条件だが、売るのは妖精がいる庭を仕事場にしてる奴だけだ。それも妖精からみて見込みがあると思われてる奴だ」

「約束します」


 妖精の声が聞こえるなら、それくらい出来るだろうとエニシダが言い、ディオはエニシダが出した条件でしか売らないことを約束する。


「てめえらに託すのはニックのもんだ」

「親方⁉︎」


 驚きと戸惑いに声を上げるニックを無視してエニシダは続ける。


「こいつは実力なら十分にある。年寄り(じじい)がいつまでものさばってるわけにもいかねぇからな」

「技術の継承ですか」

「新時代にゃ若いの同士でちょうどいい」


 ディオは売ってもらえることへのお礼を言って、話をつめるとニックの作ったガーデンバサミを丁寧運んで宿に戻った。


 一息つくためにトリスが淹れてくれたお茶をまだ熱いのでちびちびと飲むディオは、ノートとにらめっこしているシドに声をかけた。


「シド、これからの予定は?」

「エルム、グリヴェールを通ってローダンセに」


 すぐに顔を上げたシドは、予定表を見ることなく答える。

 全ての計画を立てているのはディオではなくシドなので頭に入っているのだろう。


 それを聞いたディオは小さく頷いた。


「グリヴェールか。お呼びはかかってない?」

「トリス」

「はい。グリヴェールですね」


 間違いがあってはいけないとシドはトリスに確認を頼み、トリスはすぐさまリストを確認する。

 最近は噂を耳にした各地の貴族や富豪、または職人から声がかかり、把握しきれないほどで全てを頭に入れることができずにいる。


「あります。グレイ伯爵家のみですが」

「そっか、ならそこは絶対に行こう」

「分かった」


 ディオの言葉でシドはそれを予定に組み込むと、同時に必要そうなものをリストアップしていく。


 その横でフランが好奇心の塊のように目を輝かせてディオに尋ねる。


「ね、ディオ様。あそこの家っていえば妖精に好かれやすいって家だよね」

「そうだね」

「一度家に行ってみたかったんだよね」


 研究が進むとはしゃぐフランは、シドとトリスに釘を刺されうなだれる。


「グリヴェールっていえば、みたいのがあるんだ」

「何がみたいんだ」


 そう言ってディオはアルドが読んでいるパンフレットの表紙を指差した。

 表紙には水面の上に輝く道のようなものが描かれている。


「蝶の星渡り!」

「あれか。確かに有名だな」

「うん。一度、見てみたいんだ」


 机をトンと指で叩くシドはしばらくして、口を開いた。


「調整はしてみる」


 それ以上のことは言わないシドに、ディオはニコニコと笑ってお礼を言う。


 シドは行けるとも、行けないともいってはいないのだが、ディオはシドなら調整して時間を作ってくれると確信しているのだ。

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