100 まずは家に帰らずに
国境沿いの港町での取り引きも無事に終わり、ディオたちは王都に戻ってきた。
もうすぐブルーノとアルフレッドの誕生日も近いのでプレゼントを渡すためと、療養中のクラークに会うためだ。
送ってもよかったのだが、みんなディオの元気な姿を見れることが何よりのプレゼントであり宝なのだと本心から思っているから帰らないのは良くない。
それに家を出る許可をもらってから約束を破ったこともある。さすがにこれ以上破る気にもなれないので出来るだけ顔を見せるつもりだ。
しかし、今日は城の方で催しがあるためやめておいた方がいいだろう。
特にジークベルトはディオがいると他のことそっちのけになる。するとアルフレッドやバートたちなどに余計な仕事を増やすことになる。
「そうじゃなくても今日は忙しいからね。みんなの邪魔するのもね」
「気持ちはありがたいが気にするなと言いたいところだが、否定が難しいな」
ディオの言葉にシドは頭を抱えた。
ディオの立場を思えばそんなこと気にする必要もないと言ってしまいたいのだが、使用人の仕事が増えるのは確かだ。ディオの世話という意味ではないが通常より忙しくなってしまう。
シドも使用人としてやってきて彼らの苦労も理解できるだけに気持ちだけを受け取っておくという言い方も出来ない。
「じゃあどうするの?」
「時間もあることだし、ダニーのとこにでも行こうかな。寂しがり屋だからね」
みんな忙しいのなら手の空いている人のところへと、ディオは確実に家にいるだろうダニエルの元へ向かうと決める。シドは突然の来訪になることを嫌がっていたが。
公爵家に向かえばダニエルは隠しきれてない喜びを滲ませてながら出迎え、自分よりも王妃に会うべきなのでは零す。
ディオがジークベルトが仕事をしなくなっちゃうからと言えばダニエルは呆れたように笑った。
旅先で買った甘い香りが漂うお茶をトリスに淹れてもらい、ディオはダニエルにせがまれるまま今回の旅の話をしていく。
「プレゼントとは明後日渡しに行くつもり、ベル兄が乱入して壊れたら困るし」
「壊れやすいものなら、ジーク様がいない方がいいですからね」
港町で家族の誕生日プレゼントを探していたとディオが話していると、会話の邪魔にならないようにしていたトリスが口を開いた。
カトリーヌの誕生日はどうするつもりなのかと。
「今思い出しましたがダニエル様、カトリーの誕生日はどうされるおつもりですか?」
「えっと、それはどういう……」
急なトリスの言葉にダニエルが聞き返すと、トリスは淡々とダニエルに伝える。
トリスはしばらくカトリーヌと一緒にいたからその時に知ったのだろう。
「来月の二十日はカトリーの誕生日です」
「そっか。商会としてうちからも贈ろっかな」
それを聞いたディオはお得意さまということでと言い出す。妖精に好かれる家であり、ダニエルのこともあるので仲良くしておきたいと打算もある。
シドは定番なら王都で探した方がいいとアドバイスをする。
家族や自分に近い使用人にくらいしかプレゼントを贈ることはなく、まして機会がない女の子となるとディオも難しいのでシドのアドバイスを素直に聞くことにする。
あとは同性でカトリーヌとしばらく一緒にいたトリスと歳の近いアルドの意見を参考にとに考えを煮詰めていると、ダニエルが声をかけてくる。
「ディオ兄さ――いえ、シドさん。今日の予定は?」
「これから宿探しだ」
「それなら、うちに泊まっていってください。僕もトリスさんの意見を聞きたいので」
知ってしまった以上はプレゼントを贈るつもりのダニエルだが、母や使用人たちに相談するのはちょっと恥ずかしいようだ。なのでこのままディオたちに力になってもらいたい。
ダニエルの提案にシドは断ろうとしたが、やや食い気味にダニエルが引き止める。迷惑にはならないし、させないと――。
ディオはダニエルの気持ちも汲んでシドを止める。
「ダニーがそういってるし、いいんじゃないかな。城にさえ連絡しなければどこにいても同じでしょ。シドたちだって休めるし」
宿に泊まるよりは安全ということもある。急なことさえ除けばその方が色々と都合もいい。
「それはそうだが……」
「そうしてください」
「決まりだね」
完全に押し切られる形になったシドはため息をついて了承をし、アルドはシドの背中を優しく叩いて慰めていた。
 




