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2021年、21回目の、ハッピーバースデー

作者: 刻露清秀

 ピピピピピピピ。ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピピピピピピー。


 二千二十一年、三月二十四日。午前八時。


 俺はアラームを止めてベッドを出る。一人ぼっちのアパートの一室で、聞いている人もいないのに


「ふぁぁぁ〜」


なんて大袈裟にあくびをする。


 二十一年前の今日、俺は生まれた。つまり、今日は俺の二十一回目の誕生日。


 学生向けのワンルームのアパートに一人暮らし。普段は休み期間は実家にいるが、ご時世柄、今回は一人。実家はそれほど遠くない。新幹線で一時間くらい。お袋に本当に帰ってこないのか聞かれたが、ゼミの顔合わせもあるのでこちらに残ることにした。


 一年浪人したので、あと一週間ほどで大学三年生になる。一人暮らしにも慣れてきたが、誕生日を一人で迎えるのは初めてだ。


 冷蔵庫の中にはひき肉とキャベツ。あと牛乳。とりあえず牛乳を飲んでいると、お袋から電話がかかってきた。


「お誕生日おめでとう」


「ありがとう」


「元気にしてる?ちゃんとご飯食べてる? 」


「元気だし食べてる。昨日も話したよね」


「そうだけど〜」


お袋は話が長い。たまに鬱陶しいこともあるが、無口な俺とは相性がいいのかもしれない。お袋は去年、パート先が廃業し、久しぶりに専業主婦になっている。それなのによく話題が尽きないな。俺なんて学校とバイト先のこと以外、ろくに話題がない。


 昔からぼーっとした子どもだった。法律的に大人になってから一年経ったが、それは変わらないのかもしれない。周りのことも自分のこともぼーっと見てるから、話題にもできない。


「あんた、さっきからぼーっとしてるけど、話聞いてるの? 」


なんでお袋はこういうことに鋭いんだろう。母親というのは、そういう生き物なんだろうか。


「はいはい。聞いてる聞いてる」


「じゃあ今ある食材教えなさい」


「なんで⁈ 」


「ほぅら、聞いてない。あんたがどんな料理してるのかって話をしてたんじゃない」


やべぇ。聞いてなかった。


「ひき肉とキャベツ……とか」


「あら、餃子にでもするの?案外ちゃんとしたもの作ってるじゃない」


「ま、まあね」


「ちょっと安心したわ」


罪悪感がチクチクと胸を刺す。


「そう言えばね〜」


お袋の話題はご近所の噂話へと変わった。なんでも俺の中学の時の同級生が、そいつの実家に交際相手、彼女を連れてきたらしい。


 俺は心の中でため息を吐いた。彼女、ね。


 小学生の頃、中学生になったら彼女ができて、並んで下校できると思ってた。中学生の頃、高校生になったら彼女ができて、エロいことができると思ってた。高校生の頃、大学生になったら合コンでもなんでもして彼女を作ろうと決意した。


 大学生の今、合コンなんてものは都市伝説ではないかと疑いはじめている。当然、彼女はいない。


「あんたもいい人いないの? 」


とお袋は尋ねる。


「いない」


即答である。


「そう。ならまだ少し安心ね。あんまり早く大人になられても、親としては寂しいから」


お袋……。


「食生活はちゃんとしなさいよ。じゃあね」


なんだかしんみりしてしまった。うまくいかない親子も珍しくない中で、俺は親には恵まれている。ありがとうお母さん。


「じゃあ、お父さんに代わるわね」


「へ? 」


長電話が終わる頃には、すっかり腹が減っていた。


 カップ麺を買ってこようとした時、冷蔵庫に目が止まった。中からキャベツを取り出し、一心不乱にみじん切りにする。肉と調味料と混ぜ、ボウルへ。


 買うのは餃子の皮にしよう。

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