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ラクエンプロジェクトをもう一度  作者: カラフルジャックは死にました
第一章 赤ずきんは夢を見ない
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至天と獣 3 少女二人

幕間なので短め

 


「全ての道義は壊されました」


 白い。


「遍く尊厳は地に堕ち、抗う全ては残影となり果てた」


 白い世界。


「善悪さえ許さない暴力の化身。敗走の果て、僅か残りしはこの身と、この世界」


 真っ白な世界だった。


「チェックをかけねばなりません」

「……貴女にはもう捨て駒しかないのよぉ?」

「ええ。ですからチェックは……私の首に。キングの悔恨が独り歩きし、クイーンだけが居座る歪な盤面を終わらせるために」


 白い少女だった。

 手を伸ばす。


「空白に座るというのならば、試さなければなりません。彼が正しく私の首を刎ねるに相応しいのか、私達の極限と相対するに足るのか。たとえ……彼が神様だとしても。だから、私は悪魔にさえ手を、伸ばす」

「悪魔、ね。そう言われても仕方のないことだけれど……本当にいいのねぇ?」

「構いません。報復にこの命が散るとしても、私は終わらせなければならないのです。それだけが私達の最期の……矜持たり得るのですから」

「そんな子じゃないわよぉ……もしかしたら私達の中で一番立派かも。うん、じゃあ連絡するわ」

「……そもそも私の許諾など必要ないでしょう。好きにすればよろしいかと」

「貴女の意見を尊重したいのよぉ」



「ふん……ならば、悪魔の如き神の力で、私は、残された責務を全うする。……この壮大な自殺の幕を、開けましょう」



 * * *



 進もうとしないならここで終わり。

 夜の声が脳に反響する。

「……どうしろって、言うんだ」

 向き合わなくちゃいけない。でないと、わたしの中ののんちゃんの全部が風化して消えてしまう。時間がゆっくりと傷を癒して、未来のわたしは、きっと笑うことが出来るようになる。

 それは、嫌だ。

 のんちゃんを思い出の一ページにして、悲しいことがあったけど、でも、だからこそ今のわたしは笑えているんだって、そう誇らしげに語りたくなんてない。

 手を伸ばす。触れた手のひらに革の感覚があった。

「…………」

 革表紙の、小さな本だ。文庫本よりも少し大きいくらいのサイズ。それなりの厚さを持つ本は、けれど大部分を白紙が埋めていた。

 表紙を見るだけで心臓が絞まる感覚が走った。少しずつ動悸が早くなる。

「わたしが……贈った本」

 捲る。

 一ページ目。


『今日は入学式! 周りはみんな頭よさそう……いや、でも私だって十位以内に入ってるからね! これから三年間頑張っていきます。見守っててね、パパ、ママ』


「……のんちゃん」

 それは日記だった。のんちゃんが感じ、思い、動いた感情を記した本だ。


『はい、これ! あげるね』

「……どうして、最後にこれを、わたしに?」


 脳に蘇るのはのんちゃんの笑顔。彼女が飛ぶ直前……本当の最後の、太陽のような微笑み。

 本当はいらなかった? 迷惑だった? なら、どうして……笑っていたの?

 わからない。のんちゃんのことが何一つとしてわからなかった。半年間、親友として歩んできたはずなのに、笑みのすぐ下に隠した感情一つさえわからない。

「なんで」

 どうしてわからないんだろう。半年だけとはいえ、それでも、一緒にいたはずなのに。何が好きで何が嫌いで何が得意で何が苦手で、知っているはずなのに感情だけが手に取れない。

 カノンは、のんちゃんがわたしを憎んでいたと言った。

 なら彼女は笑みの下に、憎しみをの燃え滾らせていたのだろうか。わたしとの日々の毎日で、わたしが幸せを積もらせていたように、のんちゃんは心に憎しみの火種を加え続けて、やがて自分でも制御できない程燃えた火が彼女の身体さえ焼き尽くしてしまったのだろうか。


 わからない。

 わからないから、どうしようもない。


 親友の癖に、友達の癖に。何もわからないわたしは本当に……親友、だった?

「わたしが、のんちゃんを殺した」

 わたしへの憎しみが彼女を宙に飛ばせた。燃えた炎が原動力となり、飛ぶことを選ばせて。でも、人間の身体は高度からの落下に耐えられない。

「…………ほんとうに、どうしろって、言うんだ」

 膝に埋めた視界は黒を描いた。

 光を見ない目は容易く思考を脳の中に潜らせていく。深く、深く……傷つくだけと知りながら、脳は、のんちゃんとの思い出をフラッシュバックする。


 あの笑みも、語った願いも、交わしたたわいもない話も。

 全部…………偽物だったの?


「う、うぅううううっ」

 泣きたくないのに涙が出る。傷つく資格なんてない癖に心が勝手に傷んでる。

 呼吸が荒れ、苦しくなってきた時。

 黒の世界を電子音が切り裂いた。

「……?」

 着信音だ。でも、妙だ。

 お姉さまは家の中、理由がない。夜は……部屋か、アルプロに入っているのか。どちらにせよかけてはこない。用があれば部屋のドアを叩くだろう。電話番号を教えてもいないし。

 だから、この電話を鳴らす人はいないはずだ。

 携帯端末を手に取る。涙で滲む画面に表示されたのは見知らぬ番号。

 間違い電話? 

 切ろうとしたその時、ボタンに触れてもいないのに通話が繋がった。

「え……?」



『……やぁえいる。ふ、ふ。単刀直入に言うけどさ……志島夏音のことを、知りたくないかい?』


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