君の星は何の色
「あれ? 『武芸者』じゃないんですねぇ」
「星か。剣士じゃないのは意外だが悪くはない。星はいいぞ、強いからな。」
「げ、たらし。うわぁまた新しい女連れてるのやべえの」
「リプレイ見たぞ。二桁にとどめ刺されるのは屈辱的じゃないかい?」
顔を見合わせている私達の背後からぞろぞろとヘレン達がやってきては好き勝手に言葉を発した。四人を見据えたテオラが露骨に面倒くさそうな顔をする。
「何言ってんだ相討ちだぜ。ランカー三人相手でそこまでもってけたら上等だろ」
「俺なら返り討ちにするがね。ボスとばっかやって対人戦鈍ったんじゃないか」
「シャオレンと競ってた奴が言える台詞じゃないな」
「あ、貴方たちどうしてここに? 今更転職面談なんてガラじゃないでしょう?」
「どこにいようが私達の勝手なの。そっちこそなんでここに、たらしまで連れて」
「茉莉花の付き添いだよ。こいつ俺の従妹、今日から始めたんだよろしくな」
「いや、いやダメです団長! こんな奴らと関係を持たせては!」
「酷い言われようです、くすん。今度の即売会ではロア君の取り置きは辞めておきましょうかね……?」
「せ、先生! それだけは勘弁してくれ!」
私と、茉莉花と言うらしい私と同じく適正検査を受けていた少女を置いて六人の会話には熱が宿る。
声は止まらず、掛け合いは踊る。仕方ないなと、蚊帳の外に置かれた私は職全書から「星戦士」の頁を開いた。
「星戦士」
クラスⅠ「戦士」の職レベルが上限であること、『星スキルマスタリー・初級』を習得していることを条件に解放される職解放クエスト「戦う星しるべ」をクリアすることで転職が可能となる。
星スキルを専門とする「戦士」系列職。「星の触媒」を使用時に各ステータスに上昇補正。星スキルのリキャストタイムを一割減少する。
「うーむ?」
「どういうことだ?」
いつの間にか同じ頁を覗き込んでいた茉莉花と同時に唸る。
……よくわからないわね。星スキルマスタリー?
「スキルマスタリーはスキルを習得する系統樹……ロードマップみたいなものです。アルプロではスキルは勝手に覚え使用できるわけではなくて、職で得たスキルと装備したマスタリーで得たスキルが使えるスキルになるんです。というか、キャラメイク時に二つ選んだはずですが?」
「私、全部ネットから拾ってコピペしたの」
「私はあれ。スキルランダムにしたんだ。ランダムにしたらなんかレアなスキル貰えるかも―ってあったから、で、全部システムに丸投げしてた」
「……茉莉花さんはともかく、シャオレンさんは知る時間はあったでしょう。教えてないんですか貴方たち?」
「教える暇がなかったの! 色々、事情ってものがあったの!」
嘆息したテオラが額を指で叩く。
「全く、右も左もわからない初心者に取る態度ではありませんよ……マスタリーについて知らないならⅡに上がっても新しく取ってないってことですよね。勿体ないから早く取ったほうがいいです」
「取るってどうやって?」
「システムメニューのスキル欄を開いてください。取得条件を満たしたマスタリーはそこで開放・装備が出来るようになります」
テオラの声に従うまま私達はシステムを弄る。虚空に浮かんだメニュー画面からスキルの項目を選び、ちょんと押すと更なる画面が別窓で開き目に飛び込んだ。
画面上にはシャオレンが取得しているスキルが浮かぶ。今までお世話になったAGI上昇スキル、空駆けやスローアクト、クラスⅠの職のレベル上げをしている最中に取得したスキル。
私が持つ全てのスキルが表示された画面を注意深く見てみればシャオレンには二つのマスタリーが装備されているのを発見する。
『AGIマスタリー・初級』
『ダッシュマスタリー・初級』
「マスタリーもレベルや職レベルと同じく、装備してからの使用回数や経験値によってでしか進みませんから装備枠が空いてる分は積極的に埋めましょうね。おすすめは無難にSTRパッシブマスタリーです。ステータス上昇系は取っていて損しませんし、アクション系と違って外したからと言って立ち回りに大きな影響が出るものは少ないですから」
「テオラ先生、スキル枠が一つしか増えてません!」
「? スキル枠はクラス上昇ごとに二つずつ、クラスⅡの茉莉花さんなら六つあるはずです、が……な、なんですかこれ!」
「ふふんレアスキルマスタリー!」
「レア、っていうか、世界スキルマスタリー!?」
何やら豪運を発揮してテオラを驚愕させた茉莉花を尻目に、開放できるスキルマスタリーを見る。そこにはテオラが薦めたSTRパッシブマスタリーから、各ステータス版、パッシブじゃないステータスマスタリー、武器に関してのあれやそれやに魔法についてもちらほらと。生産職のスキルも一部開放できるようだった。入門用は誰でも開放できるのかしら。
取得してるスキルや職の数はまだまだ少ないはずだけど、それでも多彩を見せるマスタリー開放欄を指でスクロールすると、間もなく星スキルマスタリーを発見する。
「これね……って、結局『星戦士』、ってか星スキルってなんなのよ」
「あ、私も聞きたいな」
「俺としてはそいつの『韋駄天真回』について知りたいんだが……まぁいい。『星戦士』は星スキルの扱いに特化した戦士系列。『戦士』が『剣士』系と違うのは特定の武器に補正を加えるのではなく自己バフ特化って点だね」
「星スキルはちょーっと特別なスキルですよー。魔法もです。使っている人はあんまりいませんね。そこの自爆みたいな一部のモノ好きだけです」
「扱いが面倒すぎるの、そもそも人によって効果が変わるだなんて」
「はい?」
私と茉莉花がまた、同時に首をかしげる。人によって効果が変わる?
「補正切った後の魔法みたいに個性差が出るってこと?」
「いいや、『星』はスキルも魔法も完全に違う効果になる。確認されてるのは六つ、どこかのサイトが統計取った結果では根源の違いが有力だって話だったはずだ」
「根源? って、あー、入れたね、そんなの」
星のスキルに魔法。
それらは使用するプレイヤーの根源によって違った顔を見せる、らしい。いや結局どうなのよそれ。
「じゃあファイ。お前の石星魔法も他の人が使ったら効果が変わるの?」
「『眷属』以外が使えばそうなる。君の根源はなんだ」
「『無形』……じゃなくて、そう、『端末』のはず」
「私『罪過』、だったかなぁ」
「ならシャオレンの『星』は『変容』で茉莉花だったかの『星』は『増殖』だ。良かったな、『眷属』の『色彩』よりはまだとっつきやすい」
「うわぁ自虐なの? それともそんな小難しいスキル使える俺カッケェアピールなの? スキル説明一つでマウント取るなんて大したメンタルなの」
「違う!」
「『変容』ねぇ……具体的には?」
「変身できる」
「は?」
「変身できる、というかは、そうだな……異なるバフを切り替えて戦うスタイルだ。見たことないが『変容』のクラスⅣは姿形を変えることも出来るらしい」
「…………ちょっと待って」
姿形が変わる。浮かんだ印象は劇場の上で蠢く黒色をした無形体。
なんか……うん……とても、非常に…………アドハみたいね、それ。
思えば『端末』は『無形』の管轄下とも言っていたような。もしかして、星スキルが根源ごとに異なるのって情報生命体が関わっているスキルだからってこと?
そう考えるととても気になってくるが……アドハとは今朝別れてから変なポエムを送られたっきりだ。会っても話になるのかどうか。そもそもこちら側から会う手段がない。
「……まぁ、いいわよ。バフを切り替えるってのがどういうのかわからないけど断る理由もないし。星スキル取ってレベル上げればいいのよね?」
「戦士もだね。なに、すぐ上がるだろ。なんせ40台だし」
「……貴方たち、もしかしてパワーレベリングを?」
「シャオレン公認だからとやかく言われる筋合いはありませんよーっ」
「本当ですか? 無理やり脅されてるんじゃありませんか? あっ、もしかしてこの人たちの悪評をご存じないとか……?」
「一応知ってるわよ。大丈夫、ちゃんと許可してる。まあ今日はいい加減止めたいとこだけど」
時刻は既に午後九時前後。あと一時間で普段の就寝時間に突入する。それに昼の戦闘の連続で使いすぎた脳はどれだけ休ませても休ませ足りないと言いたげに頭の隅を重くしている。七時間は、寝たいわね。
「今から戦士と星スキル上げて、他のスキルも吟味して、魔法も使えるように練習しながらカルドル突破なの。日が変わる前には終わるの、多分」
「スパルタすぎる……」
「ゲーマーなら無問題だろ! なあテオラ!」
「強要するものではないと思います! というかスキルチケットと職チケットがあるでしょうに、どうして使わないんですか?」
「「「「「チケット……?」」」」」
「なんでシャオレンさんだけじゃなくて後ろの四人も首傾げてるんですか?」
呆れというかドン引きした顔を見せたテオラによると、クラスⅡに上がったプレイヤーは任意のクラスⅠ職を転職・レベル上限まで上げる『協会職技術認定書』と、同じくクラスⅠ以上が解放条件になっているスキルマスタリーを上限まで満たす『協会スキル技能認定書』が貰えるらしい。
あくまで一部の基本的な職に限るらしいが、操作一つで職とスキルを一つ会得できてしまうそあまりに便利なそれをどうしてもっと早く言わないのかと背後の四人に問えば今更クラスⅠ対象のアイテムなど眼中になかったという見事な返事が返ってきた。こ、こいつら初心者に教えるのに格別に向いてない……!
「クラスⅡに上がると今まで取得してきた職・スキルだけでは就けない職もありますから、そういったことへの運営からの救済ですね。折角クラスⅡに上がったのに条件が満たせなくて就きたい職に就けない、じゃあレベル上げしなくちゃいけないなではモチベも下がりますから」
「なんにせよありがたいことで。ええと、運営からのメールね……」
シンプルなUIの癖に項目が多くて複雑化しているシステムからメールを開きチケットを二種類受け取り、すぐ使う。瞬く間に、一切の経験を積んでいないのにシャオレンは戦士としての熟練度が上限に、使ったことさえないスキルも十分に使えるようになったとシステムに認められる。
これで条件達成。次いで現れた転職クエスト「戦う星しるべ」の内容は『自分よりもレベルが上のエリアボスを討伐している』だったので、これも即座にクリア。ギルドにいるのでわざわざ職結晶を砕く必要もなく、その場で(ギルドにいる間は転職画面を開くことが出来る)星戦士を選択、転職実行。
「よし、これで晴れてクラスⅡの職持ちね」
「あ、できた。なんか実感湧かないなぁ」
それについては同感。システム上だけだものね。
「そんなのどうでもいいの。じゃ、さっさと攻略戻るの」
「ダメです、そんなのはいけませんよ!」
「そうね、ちょうどいい頃合い……」
「まずは「星」のギルドに顔を出して、それから装備を整えてからです。準備もしないレベリングなんて初心者いじめでしかありませんよ、まったく配慮が足りてない」
「そっち?」
どうやらテオラはレベリングそのものを取りやめてくれる方向で援護してくれないらしい。何だかんだでこいつもゲーマー、それなりにゲームに人生捧げてる連中ってことかしら。
「……はぁ。別にいいわよ、もう。うん、ここまで来たら徹底的にやってやろうじゃない」
「えーと、あの、ちょっといい、君?」
「え? ええ」
「……あの、私、茉莉花。よろしくね?」
「あっ……私、シャオレンよ」
……自己紹介、してなかったわね、そういえば。




