きみの物語になりたい【短編】
作品タイトル:きみの物語になりたい
作者: 森陰 五十鈴さん
速記は今ではほとんど需要のない技能だが、なかなか興味深いものである。
点と線で描かれる複雑怪奇なものはもっと奇々怪界なる人々が成した記録である。
当然そのままでは読めない。
そしてそれを文章として整えなくてはならない。
一体何を後世に残せばいいのか悩ましい。
暇だ面倒だと言えるのは平和の証。
好きも嫌いも平和ならでは。
だから、もう。
書きたいことが決まってしまったら迷えない。
涙と血とささやかな希望を込めて、歴史は紡がれ後世へと託される。
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思い出を点と線で彩れば 君たちの声がする
[2024年 02月 14日 23時 32分]
国事記録官。
その速記術は小さな点と線で発言を、事件を、人々の息吹を、その場の状況を記していく観察力と知性が求められる素晴らしい仕事。
だが、閑である。
ヒマというより書いているときはいいが清書になるとめんどうくさい。
国家の記録として一言一句記したところで歴史の教科書に載るわけではないのだ。
全てを紐解くがゆえわからなくなり文字禍に圧されたナブ・アヘ・エリバ老が今際に何を想うたか今やわからぬが、今日も国事記録の点と線は増えていく。
歴史に加えられなかったその点と線を紐解くときにこそ、誰かにとって大切だったものたちの吐息が蘇る。
雨粒の香り、風の冷たさ、人々の笑い声。
涙と思ひでを、そっとつつむため。
今日も筆は執られる。
作品タイトル:きみの物語になりたい
作者: 森陰 五十鈴
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本編で英雄となってしまったカーラル側から描いたお話
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