もう一人の神
本日は複数話投稿します。
最低でも4話ほどの予定です。
こちらの世界の神から、今の俺が持っているスキルの異常性が教えられた。
詳しく話を聞いてみると、この世界では基本属性の魔法、〈火〉、〈水〉、〈風〉、〈土〉の四大属性は、一般の人は1つ、稀に2つや3つの属性を扱える者がいるらしいが、全属性となると、今までは賢者と呼ばれた人しか持ってはいなかったらしい。
賢者はおよそ500年程前に生きていたが、その人が亡くなってから今までの間に全属性の適正が現れたことは無いという。
ここまでの話の流れで、俺はどの程度の割合で複数の適正が現れるのかを聞いてみた。
すると、まず魔法の適正で1つでも現れるのは、およそ3分の2程になるという。そして、その中から2つの適正が現れるのは3万人に1人、3つの適正が現れるのは200万人に1人。それなのに、全属性の適正を持っている人は、今までの歴史の中では賢者のただ1人。この世界の人口が7億人いるが、そんな中で全属性の適正を持っている人が出ていないという。
あと、賢者はこの世界で数々の偉業を成し遂げ、世界中で知らない人はいないくらい有名とのことだ。
その賢者と同じ適性を持っており、貴族の出身だという事で、周りに知られればかなりめんどくさい事になる可能性が高い。詳しく言うと、貴族同士の争いに巻き込まれ、政略結婚されられたり、周りの貴族からは邪魔者扱いされ、暗殺などの対象にされることもあるそうだ。それだけでなく、他国まで広まると危険人物扱いされるだろうから、ばれないようにした方が良いとのことだ。
そこまで目の前の神様から説明を受けて、俺は、今更ながら記憶が消えているはずなのに、何故か違和感をいろいろ覚えていたのを思い出した。
「そういえば、俺の記憶って本当に無くなっているんですよね?」
「急にどうしたのじゃ?」
「いや、俺の記憶は無くなってるはずなんだけど、何でか部屋の中を見回したときに違和感を感じたんだよ。」
「!?⋯⋯⋯⋯なんじゃと?お主の記憶は地球の神が消したはずじゃ!それなのに、生まれてばかりのお主が違和感を感じたと言うのか!?それはあり得ぬ!」
「じゃあ、俺の気のせいですかね?今もこうして生まれたばかりの赤ん坊がこうして会話ができているのもおかしいのでは?」
「⋯⋯⋯⋯。」
俺の疑問に目の前の神は黙り込んでしまった。
そして、数分して神は俺の方を向いて、
「今から地球の神を呼んでくる。暫く待っていてほしい。」
と言うなり、振り返って何やらブツブツと呟いている。
少しして、神の目の前の空間が歪み始め、神はその歪みへと入って⋯⋯⋯⋯、
「ぐほぁ!!!」
行こうとしたところで、歪みの中から伸びてきた力強い拳によって、俺の上を放物線を描きながら飛んでいった。
その光景に暫く呆然としていた俺に、後ろから男の声が掛けられた。
「久しぶりだな、誠也!と言っても、お前の記憶は消したから、この場合は初めましてだな。」
その声に後ろを振り返ると、そこにいたのは2メートルに届くんじゃないかというくらいのデカい男だった。その男は赤い髪で、頭の後ろで髪を1つにまとめていて、肩甲骨のあたりまで伸ばしている。着ている服は黒いローブで、髪型が分かったようにフードは被っておらず、ローブを着ていても分かるくらいに筋肉が盛り上がっている。
その男を見たときにも何故か既視感を感じて驚いた。
その反応を見た男は、何か納得がいったようで、ニヤリと笑って話し掛けてくる。
「お前、何か違和感とか感じたんじゃないのか?」
「!?⋯⋯⋯なんでそれを?」
「お前はその理由を知りたいのか?」
「⋯⋯⋯⋯。」
俺に目の前の男はニヤニヤとした、まるで悪戯をした子供のような表情でそう聞いてきた。
俺はどう返せばいいのか言葉に詰まり、その男を見ることしかできなかった。
「んな目でみんなよ。教えてやっから。お前が違和感を感じる理由は⋯⋯⋯⋯俺の気紛れで記憶を適当な箇所だけ抜き取ったからだ!」
「はあ!?」
「だからよ、お前の事を気に入った俺が面白そうだからって理由で、ところどころ記憶を残したって訳だ。別に、異世界に転生させる時に、必ず記憶を消さなきゃいけないって訳じゃねえ。前世で相当な悪さをしてきたような奴らは、全部消してから他の世界へ送り込むんだが、お前は別に悪人じゃねえから、本当なら記憶を消さずに送り込もうと思ったんだが、なんか反応を見てみたいなあって思ったから、あえて記憶をほとんど消して少し残した状態で送り込んだって訳だ。」
と目の前の男は堂々と言い放った。
「ちょっと待て!今の話の内容を聞く感じだと、あんたがまるで地球の神のように聞こえるんだが!?」
「地球の神のようにって、俺が地球の神だからな。」
「⋯⋯⋯⋯。」
今度は完全にその言葉を聞いて、俺の思考は止まった。
「お~~い、大丈夫か~?」
俺が暫く止まっていると、目の前の神を名乗る人物は俺の目の前で手をひらひらさせていた。
それからどのくらいの時間が経過したのだろうか?
先ほどまで話していた男の隣に、いつの間に復活したのか、こっちの世界の神が並んで立っていた。
俺が意識を覚醒させたのを確認して、神を名乗る男は俺の頭に触れながらこう言った。
「なんだったら、お前の記憶を戻してやるよ!」
その言葉の意味を理解するよりも早く、俺の頭を淡い光が包み込む。
そして、俺に前世の記憶が流れ込んで来たのだった。