「険冒の先」
中になにがあったとか、中でなにが起こったとか。
そういったことはほとんど覚えていない。
ただ一つ、僕は彼女に会った。
そして長い時間か短い時間お話をした。
そのどれもがまたもや曇りガラスの向こうにある。
こうなってしまっては、自分の記憶がその役割を果たさない。
これは非常によろしくない。この現象か、はたまた疾患がこのまま悪化しないとも限らない。
今は曇りガラスでも、将来的には冷たく高い壁にも成り得るのだ。
そうなってしまえば、忘れていることすら忘れてしまうだろう。
それが、怖い。
一体どういう原理で、このようなことが起きているのかはまったくもって不明だが、原因の方ははっきりしている。
彼女だ。
翌朝目覚めると、僕は布団を畳まずに敷いたままの状態で置いておいた。
朝食後すぐ、僕は布団に寝転がった。
不健康だと言われても仕方のない所業だが、どうか許してほしい。
貴重な夏休みを里帰りに費やすために、わざわざなんにもないど田舎に遠路はるばる来てやったんだ。
たかだか40分の1日の不摂生。バチは当たらないだろう。
それはともかく、なぜ僕がこのようなことをしているのかといえば、理由は一つ。
彼女と全く会わないように、今日を過ごそうという魂胆なのである。
初めて会った日に交わした約束は鮮明に覚えている。
気がつくと門の前に立っていた。記憶がぼんやりとしている。
「あれ、僕どうしてたんだっけ」
どのようにしてここまで来たのかが全く思い出せない。
「彼女に会いに行かないと」
今度は音もなく開いた扉を抜け、石畳の上をまっすぐに歩いていく。
しばらく進むと、これまた大きな鳥居が姿を見せた。
周りには、美しい日本庭園が地平線まで続いている。
とてもこの世のものとは思えないほどに。
至極どうでもいいことだった。
更に奥へと。彼女がいる方へ。
本殿だ。
その扉がゆっくりと開いていく。
目が引きつけられる。早く開かないことがもどかしい。
早く、早く。
気が急いて体の方はもう走り出しそうだ。
僕と扉との間にある空気がもどかしい。空間が腹立たしい。時間が恨めしい。
僕の中では永久とも思われた時間。数字にしてわずか30秒ほどの永久が幕を閉じた。
いや、開いたのだろうか。
扉は開いている。
まるで初めからそうであったかのように。ふてぶてしく、開いていた。
相変わらずな夏のお天道様は、依然として僕を焼く。
ほんの少しだけ溶ける音がした。
どうもこんにちは。お久しぶりです。
すっかり寒くなりました。家に引きこもっていると空模様がわかりません。
雪が降るかもしれないので、最低限今日の天気くらいは自分の目で確認しようと思います。
お話は変わりますが、昨日、新たな短編を投稿いたしました。
よければ見てやってください。
ではまた。