「旅。重なる日々」
ふと思い立ち、連載小説を書くことにしました。見てやってください。
「暑いなあ」
誰ともなしにつぶやいてみる。
隣で太った猫が大きなあくびをした。
僕は今、親戚のおじさんの家へ旅行に来ている。
母親曰く、夏休みの間はずっとこちらで過ごすそうだ。
空は不安になる程どこまでも広がっていて、空気は美味しい。
止めどなく蝉の鳴く声はするし、周りを見れば目に優しそうな緑が広がっている。
まあ平たく言えば、ど田舎だった。
日頃、交通網が整理された、3分おきに電車が迎えに来るような環境で育ってきた僕からすると、退屈で不便きわまりないところだ。なんといっても携帯が使えない。ゲームセンターも無ければコンビニもない。
様々な動物がいて、畑や田んぼが広がっているばかりである。
そんな中、僕にできることといえば、縁側に座って雄大な自然を眺めながらみずみずしいスイカを食べるくらいのものだ。
世の中に住む多くの高校生は「部活動」だったりとか、「彼氏彼女とデート」だったりとか、
そういったものに熱心になるらしいが、僕はそういうところである種、達観していた。
休みの日は何をするでもなく過ごし、月曜になれば学校へ行き、ごく普通の態度で授業を受けて、それから家に帰る。そんなことを1年365日続けていた。
もし変化があるとすれば、それは4年に一度だけ1年が366日になる程度のものだ。
そして僕はそんな生活が気に入っていた。だから家族が夏休みに旅行に行くと言い出した時は猛反対した。
最終的には僕一人で残ろうかとも思ったのだが、母親が、
「ライフラインは停止するから。食費も自分の小遣いから出しなさいね」
と言い始めたのだ。兵糧攻めならまだしも、ライフラインを止められてしまっては生きていけない。
これにより、僕は渋々ついていくこととなったのだ。本当に殺されるかと思った。
今朝、目が覚めた時に母が父と妹を連れて、
「近くの川に魚取りに行ってくる」
とだけ言い、出て行った。
この野生児どもめ、と思ったが、僕を誘わないというのは素直にありがたかった。
そんなわけで、僕は今一人なのだ。
おじさんは畑仕事に出ているし、家族はサバイバル中。
一人だけの空間という、つかの間の尊い時間を謳歌しようとも思っていたのだが、いかんせんやることがない。どうしようか、と縁側に腰掛けて考えていた。すると突然視界が暗くなった。
驚いた僕は急いで顔を上げる。そこにはちょうど僕と同い年くらいの女の子が立っていた。
しかしおかしいのがその距離だ。僕の顔すれすれ、といったところに彼女の腹部がある。
「どちら様ですか?」
と尋ねてみた。失礼かもしれないが、突然のことで気が動転していたのだ。
「・・・忘れたの?」
少し間があってそんな返事が帰ってきた。
あれ?こんな知り合いいたかな?と、一瞬考えては見るが、思い当たる人物はない。
僕は元々知り合いが少ないし、ましてやこんなところにいるとも思えない。
僕は諦めて、正直に聞いてみることにした。
「すみません。どこかでお会いしましたっけ?」
「いいえ。初めましてですよ」
は?なに言ってんだ?この女。
それが僕の正直な気持ちだった。しかし、それを悟られないようにして僕は笑顔で言った。
「どういうことでしょう?いまいち意味がわからないのですが」
すると彼女はどういうわけか、不思議そうな顔をして、
「いえ、とても退屈そうにしていらしたので」
と、これまた不思議そうに言った。
読んでくださり、誠にありがとうございます。
本当のことを言えば、小説が長くなってしまいそうだったので、止むを得ず連載という形にした次第です。
当初の予定通りに終わらせるか、ダラダラと続けるかはこれから考えようと思います。
次話からは短くするつもりです。
ではまた。