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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、一つの戦いの終わりに
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EMQ?:フロワちゃん尾行作戦

「出てきましたね……」


フロワちゃんがお店を出たのを、物陰に潜みながら確認する。


新しい荷物はない。入っていったはいいけれど、どうやら何も買っていないみたいだ。


「よし、行くぞ」


「はいっ」


私たちは、お店を出てそのまま再び街へと繰り出していくフロワちゃんの後を、人ごみに紛れて追いかけはじめた。


「しかし目立つなあいつ……尾行しやすくて助かるっちゃあ助かるんだが」


イブリスさんの言うとおり、今のフロワちゃんは目立つ。


メイド服に負けず劣らずのフリフリとした服を着た少女が街中を堂々と歩いているんだから、目を惹いて当たり前だ。


フロワちゃんとすれ違う人の中にも、たまにちらちらと彼女のほうを見る人がいる。


……変な人にナンパとかされないか心配だなぁ。まあ、フロワちゃんなら襲われそうになっても簡単に勝っちゃいそうだけど。


「あっ……またお店に!」


「む、ありゃあ……魔石屋か?」


次にフロワちゃんが見に来たお店は、店頭に沢山の魔石がごろごろと積まれたお店だった。


魔力を流しこむことで、封じ込められた魔法を発動できるのが、魔石。


私の杖にもくっついているけれど、実は自由に付け替えが可能なのだ。冒険者は魔石屋で自分の好みの魔石を買って、装備に付け替える。あとは……壊れた時とかにも新しく買い直したりするかな。


「こりゃまた意外だな。あいつ、自分で魔力を操ってるのなんか見たこと無いぞ。どうやって魔石なんか使うんだ?」


「さぁ……単純に、興味があるだけとかじゃないですかね?」


フロワちゃんは店主さんと何か色々と話し合い、魔石を手にとって物色している。


「それにしちゃやけに真剣に選んでるぞ? あいつもそろそろ魔法デビューのつもりかね」


物色はしばらく続いた。色々な種類の魔石を手に取り、店主さんに話を聞いて……突然魔石をひとつ、店主さんに手渡すと、財布を取り出した。


「あっ……買った! 買いましたよ!」


「マジでか……」


私もイブリスさんも唖然としている。今日のフロワちゃんは、どうにもフロワちゃんらしからぬ行動が多い。


「……?」


「! まずい!」


フロワちゃんの視線が突然こちらへ向いた。私たちはすぐに身を隠した……けれど。


……もしかして、もうバレた?


私たち二人を、謎の緊張感が襲う。


まだ尾行を始めて十数分しか経っていないのに、これで終わりなんて……あっけなさ過ぎるよ!


「ん? どうかしたか、嬢ちゃん?」


「……いえ、どうやら気のせいだったようです。良い商品を紹介して下さり、ありがとうございました」


「いやいやこれくらいどってことないさ! またよろしくな、フリフリの嬢ちゃん!」


……どうやら、なんとかやり過ごせたみたいだ。


「はぁぁ……」「ふぅ……」


私たちは、二人同時に大きな溜め息をついた。


「予想以上に鋭いな、あいつ……頼もしいこった」


「し、心臓に悪いですね。これからはもっと気を配って尾行しないと」


そういえば以前、リアスさんに尾行されていた時にも、最初に気づいたのはフロワちゃんだったっけ……すっかり忘れてた。


流石フロワちゃん。生半可な覚悟じゃ尾行は続けられそうにないね。


「見失ってないよな?」


「大丈夫です。あそこに居ます」


それなりの人で賑わっている通りだけれど、フロワちゃんは目立つ服のおかげで多少見失ってもすぐに見つけられる。


どうやら角のほうで、手元のなにかを確認しているようだけれど……


「あれは、時計ですかね?」


目を凝らしてよく見てみると、持っているのはどうやら懐中時計のようだった。


「時間を気にする……誰かと待ち合わせでもしてるんでしょうか?」


「ラディス――じゃねえだろうな。あいつに用があるなら"機関"本部まで行くだろうし。フロワの奴、他に待ち合わせする知り合いなんているのか?」


「イブリスさん。その発言、ちょっと酷いですよ?」


「っとと、悪い悪い」


「あっ、動きましたよ!」


イブリスさんと話している間に、いつの間にかフロワちゃんがまた路地を進みはじめていた。私たちも細心の注意を払いつつ、それに続く。


「喫茶店、か」


待ち合わせ場所なのか、それとも単なる休憩なのか……次にフロワちゃんが入ったのは、とある喫茶店だった。


奥のほうの席へと向かっていくのが、窓の外からでも見える。


「あ、この喫茶店……」


「入るぞ、サラちゃん」


「え、ええ!? 無茶じゃないですか? 流石に同じお店に入ったらバレちゃいますよ!」


「大丈夫だ、あそこまで奥なら入り口はそうそう見えない」


そう言ってイブリスさんも喫茶店に入ってしまった。私も……当然、それに続くしかない。


入店した私たちは、流れるように席へと案内された。席に着くと、イブリスさんが二人分のアイスコーヒーを注文してくれる。


「丁度いい所に座れたな」


「ですね……」


幸いなことにこの席からはフロワちゃんの座っている席が見やすい。こちらに背を向けて座っているから、私たちが居ることもわからないはず。


フロワちゃんは――どうやら紅茶を飲んでいるみたいだ。


私たちのテーブルにもすぐに注文したアイスコーヒーが届けられた。


「喫茶店で時間つぶしか……待ち合わせだとしたら、ここが待ち合わせ場所なのか」


イブリスさんはフロワちゃんの様子を見ながら、コーヒーを一口飲む。私はブラックは飲めないので、砂糖とミルクをたっぷり入れてから口をつけた。


ふと、周りを見渡してみる。


このお店は……私にとっては実はとても思い入れの深い場所だ。来たことは一回しかないけれど、その一回が、とても大きな一回だったから。


まさかこんな形でここに来る事になるなんて。


「ん……どうした? そんなキョロキョロして」


「えっ……あ、そ、そっか」


イブリスさんからの質問に、思わず驚いてしまう。


そういえば、イブリスさんはここのお店の事、覚えてないんだよね……


「このお店、イブリスさんが私の師匠になってくれた所なんです」


「!!」


イブリスさんが覚えていなくても、私は昨日の事のように思い出せる。思えばあの時、セレナさんの前で泣いちゃったのはちょっと恥ずかしかったかなぁ……


「そう……だったのか」


イブリスさんは辺りを見渡し、少し考え込む。


「くそっ、駄目だ……すまないが思い出せん……」


しばらくして、苦悶の表情で額を押さえこんでしまった。


「わわわ、イブリスさん、私、そんなつもりで言ったんじゃないですよ!」


私は慌ててイブリスさんを慰める。ちょっと昔を懐かしんだだけだったのに、イブリスさんにはかなり大きく捉えられてしまった。


でも、それも仕方ないかも。人との大切な思い出も忘れてしまうっていうのは、どれだけ恐ろしいことなんだろう。


「ほらほら、コーヒー飲んで、落ち着きましょう?」


「……そうだな。フロワは?」


イブリスさんと一緒にフロワちゃんの様子を見てみる。


フロワちゃんのテーブルには、いつの間にか新しいお皿が乗っていた。白いクリームのショートケーキだ。お茶だけじゃ物足りなかったのかな?


「お茶菓子か。まだしばらくは留まっていそうだな」


フロワちゃんはクリームで口元や洋服を汚さないよう、丁寧に、ゆっくりとケーキを食べている。合間には紅茶を一口。街の喫茶店には似合わないくらい優雅に過ごしてるなぁ……


「なんだか育ちの良さがわかる振る舞いですね……」


「ラディスがあそこまで優雅な仕草を叩き込んだとは思えんのだが……独学じゃないのか?」


私たちの雑談をよそに、フロワちゃんはケーキを順調に食べ進めている。


「……美味しそう」


思わず、声が漏れていた。


すると、不意にイブリスさんが何も言わずに財布を取り出して中身を確認しはじめる。そして次第にしかめっ面になっていき――


「すまん、一番安い奴で勘弁してくれ」


そう言った。


って、何気ない呟きが変な誤解与えちゃってる!?


「い、イブリスさん。今のはそういう意味じゃなくてですね……」


「そ、そうなのか? だがまあ、別にケーキのひとつくらいなら構わないぞ」


「そう……ですか? ならお言葉に甘え……って、フロワちゃんが!」


色々と話している間にケーキを食べ終えていたらしい。フロワちゃんは既に席を立っている。それどころか支払いも済ませて、正に今、お店を出るところだった。


「け、ケーキはまた今度お願いします! 今はフロワちゃんを!」


「わ、わかった。早く行くぞ!」


私たちは残っているコーヒーを飲み干し、ささっと料金を支払う。


やけに忙しなく動いていて目立つのか、他のお客さんは勿論店員さんも私たちに視線を向けている。私たちはそんな視線もお構い無しにお店を出た。


「ど……どこいった!?」


「あそこです、イブリスさん!」


フロワちゃんは私たちから少し離れたところでまた、懐中時計を確認している。


今度はすぐに時計をしまって、迷いのない足取りで、進みはじめた。歩くペースも今までより早い。


「なんだ、いきなり早くなったぞ?」


「きっと約束の時間かなにかなんですよ。見失わないようにしないと!」


フロワちゃんはどんどん歩を進めていく。やはり街をうろついていた今までと違い、明確な目的を持って進んでいるようだ。


では、それがどこかというと……少なくとも、商業区ではないみたいだ。大通りから明らかに離れていっている。


自然と人混みも少なくなる。今まで以上に気を使って移動しないと本当にバレてしまいそうだ。


「どこに向かってるんでしょうか……」


「こっちは確か工業区のはずだ。あいつ、あんなところに何のようだ?」


しばらく進むと、建物の雰囲気が変わってきた。どうやら武器や防具を作っている工房が多く立ち並んでいるみたいだ。


金属を叩くような音が絶えず鳴り響いている。鍛冶屋から聞こえてくるのかな?


ここまで来ると流石に行き交うような人も居ない。私たちは物陰から物陰へと移動しながら、フロワちゃんを尾行していく。


やがて、フロワちゃんは沢山ある工房の中の一つへと入っていった。


「目的地はここ、か」


私たちもその工房の前で足を止める。


「ここは……防具を作っている所ですか?」


「らしいな。あいつがこの工房に入っていったってこたぁ――」


「盾、ですね」


フロワちゃんで防具といえば、勿論あの大盾だ。(本人は武器として認識していそうな気はするけれど)


「もしかしたらあいつ、あの盾のメンテナンスか補強かなんかを頼んでるのかもしれないな」


「あぁー! なるほどですね!」


確かにフロワちゃんの盾の使い方は結構荒っぽい。防御するのは勿論だけれど、それで敵を殴ったりしているんだから。


特についこの間は巨大な兵器を相手にしていたんだから、そろそろ傷が目立ち初めてもおかしくない頃だ。


「それで休暇か。戦闘中に盾が壊れたりしたら大惨事だもんな」


備えあれば憂い無し。大事が起こる前に対処する――フロワちゃんらしい行動だ。


「あっ、出てきますよ!」


工房の中に居たフロワちゃんが再び姿を現した。私とイブリスさんは慌てて近くの物陰に隠れる。


休暇の目的がわかった以上、あまり身を隠す意味はないのだけれど……今まで尾行していたせいで思わず体が動いてしまった。


フロワちゃんは工房に入っていったときとは違い、背中に布で包まれた大きな荷物を背負っている。いつもの大盾だ。


やっぱり、あの盾を工房に預けていたみたい。時間を気にしていたのは、取りに来る時間を見ていたのかな。


「はぁ~、なんだかスッキリしたな。もうこれ以上尾行を続ける必要もないだろう」


「そうですね。やっぱりフロワちゃん、考えがあってお休みしたんだ……」


「そのほうがフロワらしいさ。ショッピングがしたかったからとか言い出したらむしろ心配になるってもんだ」


イブリスさんが思いっきり背伸びをした。思わず私もそれに続く。


慣れないことをしたせいかな。そんなに激しく動いたわけでもないのに、なんだかクエストに行くときよりも疲れた気がする。


でも、たまにはこういうのもいいんじゃないかな。仲間の普段見られない一面が見えるのはとても楽しかった。


特にフロワちゃんが洋服を見に行くなんて。今度ショッピングに誘ってみてもいいかもしれない。


「これからどうしますか? まだまだ時間はありますし、クエストに戻ります?」


「んー、それもいいが……今日はもう休みのテンションだから――ちょっと待て」


これからの話を切り出した時、イブリスさんが突然、また物陰に身を隠してフロワちゃんの様子を伺いはじめた。


「え、え? どうしたんですか?」


「見てみろ」


イブリスさんに言われて、私もフロワちゃんのほうを見てみる。


すると……フロワちゃんの様子は明らかに今までと異なるものだった。あたりを忙しなく、キョロキョロと見回しているのだ。まるで自分を見ている人が居ないか気にしているみたいに。


その表情もどこか焦りを見せているような雰囲気を持っている。少なくとも、私はあんなフロワちゃんを見たことがない。


「え……? フロワちゃん、一体どうしたんだろう……」


「どう見ても普通じゃあないよな? 見られたくないようなもんでもあるのか?」


フロワちゃんはしばらく周りを気にした後、細い路地へと素早く入っていった。これじゃここからだと見えない。


「前言撤回だサラちゃん。フロワを追うぞ」


「尾行、続けるんですね? わかりました。私も放ってはおけません!」


私たちはすぐに、フロワちゃんを追って裏路地の方へと向かっていった。

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