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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
決戦、ヒュグロンギルド
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少しの休息、そして対峙

「はぁー疲れた!」


怪我人の治療を終えたセルテが伸びをしながら大声で言った。


「凄いな。もう傷が塞がっちまった」


「がははは! そうだろうそうだろう! なにせうちの自慢のプリーストだからな!」


「あれだけ大怪我してたのにそんな元気なあんたもある意味凄いけどな……」


イブリスは本調子に戻った左手で耳を塞ぎながらたじろぐ。レオは相変わらずうるさいが、先ほどまでの様子を見ているからか、この大声を聞くと何となく安心できる。


リアスは頭痛がするのか、レオの隣で頭を抱えていた。流石に病み上がりに至近距離でこの大声はキツイようだ。


しかし、疲労こそあれど全員がそれなりに調子を取り戻している。上階へ向かう準備は万端と言えるだろう。


「皆さん、大丈夫でしょうか? ヴェルキンゲトリクスが"食われた"以上、ここに長居するのは危険です……時間にあまり余裕は持てません。行きましょう」


ラディスの言葉に皆が頷き、階段を上り始めた。


「……ん? 外が騒がしいですね」


3階から4階への階段。その中腹に差し掛かったあたりでリアスが気付き、窓から地上を見下ろす。


地上ではこのヒュグロン本部を取り囲むように、大勢の人が集まっているようだった。建物に近い位置を"機関"の制服を着た人間が行ったり来たりしており、それを野次馬たちが遠巻きに眺めている。


「あのような兵器が街中に出現したのです。"機関"の治安部隊が出動するのも頷けます」


「ありゃ僕が居なくなってることもバレてるだろうなぁ……次の議会で大目玉を食らってしまいますね」


フロワが冷静に言葉を返し、ラディスは楽観的に議会の心配をする。


ヴェルキンゲトリクスは窓の外にゴウルを具現化し、あまつさえ機銃などの兵装を惜しみなく使っていた。外で見ていた人々も異常事態であることはすぐにわかっただろう。


「しかし……助力は期待できないと思っていたほうが良いと思われます」


地上の"機関"の人々は本部の入り口を破ろうと必死になっているが、ハンマーで砕こうとしても、魔法で焼き払おうとしても頑なに開く様子はない。


どうやら悪魔の瘴気による変質の弊害がここにも表れているようだ。あれではここまで来ることはできないだろう。


「問題ない! 増援がなくとも、こちらに数の利があることは変わりないからな!」


「……確かに、レオの言う通り。ヴェルキンゲトリクスが言っていたことを考えると、相手は恐らく一人。数で言えば我々のほうが圧倒的に有利でしょう。もちろん、それだけで安心できるわけではないですが」


レオとリアスは助力がないことに対して特に問題を感じているわけではないようだ。結局は今まで通り行動するだけのこと。こうして気づいてもらえただけラッキーといったところだろう。


「問題は相手の攻撃手段がわからないこと。俺も可能な限り情報を収集しましたが、ヒュグロンのマスターがどのような武器を使うのか、どのような魔法を使うのか、全くわかりませんでした」


「一応、僕が見た"機関"の資料では魔術師クラスのメイジ、属性は赤と記録されていましたが」


メイジ……即ち、魔法を使って戦う魔術師クラスの中でも、比較的攻撃よりの魔力適性を持った冒険者。


このデータを鵜呑みにするのならば、魔法による攻撃を警戒するべきだろう。


だが、機巧士(マシニスト)絡みの人体実験、そしてこの建物の状況。ここまでしておいてそんな単純な戦法がとられるとは思えない。


「何を仕掛けられるかわからん。臨機応変に対応できるよう、覚悟を決めておいたほうが良いだろう。それに」


「第一目標はサラさんの救出です」


「……その通りだ」


イブリスの言葉にフロワが割り込んだ。イブリスは台詞を取られたことに若干戸惑いつつも、フロワに同意する。


一行は、ヒュグロンのマスターを倒すためにここへ来たのではない。優先すべきは、サラの安全確保。それこそサラを連れてここを脱出し、"機関"の手を借りてマスターを打倒するという手段もあるのだ。


「……この部屋かな」


そんな話をしている間に一行は階段を上り切り、マスターの部屋と思われる扉の前へとたどり着いていた。


「いいか、何が何でもサラちゃんを助ける……行くぞ」


イブリスが扉に手をかけた。


皆、すぐに戦えるように体制を整える。イブリスはそれを確認し、自分も銃を構えてすぐに魔法を使える状態にしてから……素早く、扉を開いた。


「……! イブリス! 危ない!」


部屋の中に足を踏み入れた瞬間、イブリスたちへ向けて一つの火球が猛スピードで飛来した。


「うおっ……!?」


「ご心配なく」


フロワがすぐに反応し、動いた。盾を構えてイブリスの前に割り込み、火球を防ぐ。


「入室を"許可"した覚えは……ないのだけれど」


聞こえてくる、抑揚のない声。冷たい目をした女性が、一行を出迎えた。

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