【全翼機-GAUL】 その3
「な、なんだ!?」
ヴェルキンゲトリクスを取り囲むイブリスたちに向けて撃たれたその柱は、小型のミサイルだった。
イブリスとリアスはすぐにその場を離脱し、床に転げつつもその攻撃をかわす。ミサイルは割れた窓の桟を突き破り、廊下の壁に突き刺さった。
すぐに爆発するような様子はない。瘴気の影響を受けた壁がそれを飲み込み始めたからだ。ミサイルはゆっくりと壁の中へ取り込まれていく。
「くそっ……! あそこまでダメージを与えてもまだ動かせるのかっ!」
ヴェルキンゲトリクスの言うとおり、完全に油断してしまっていた。
満身創痍の身ではあそこまで魔力消費が大きく、強力な兵器を操作することは難しいだろうと、勝手に判断してしまったイブリスの失態だ。
「あまり私を舐めるなっ! 多少傷を負ったところで全く問題にならないっ!」
ずんずんと壁へめり込んでいく小型ミサイルで遮られた視界の向こうから、ヴェルキンゲトリクスが声を荒げて叫ぶ。
「先ほど隙をつかれた時はほんの少し焦りはしたが……! だが! 貴様らがここで終わることは全く揺るがない事実っ! マスターの為にも……これ以上進ませるわけにはいかんっ!」
再びゴウルからの射撃が開始された。
ただし、狙いは三人ではない。ゴウルの弾丸が狙ったのは、壁に突き刺さっているミサイルである。
数多の弾丸がミサイルとぶつかり、金属音を響かせる。
「まずい……! 皆離れろぉぉっ!」
レオの叫び声が廊下にこだまする。ミサイルというものはこの世界において決して一般的なものではないが、自分たちではなくわざわざそちらを撃つ行為。何かが起こるに違いないと、レオは咄嗟にそう判断したのである。
イブリスとリアスの二人はそれに従い、すぐにミサイルから離れようとした。しかし。
「っあ……!」
「リアスっ!」
この切羽詰った状況での焦りからか、リアスがバランスを崩してその場で転んでしまった。
ミサイルはすでに爆発寸前。今からの退避は間に合いそうにない。
「任せろぉぉぉぉ!!」
レオがミサイルに背を向け、リアスとミサイルの間に割って入る。
「レオっ!? お前、何を……!」
「レオ、何してる! お前まで危険に……!」
戸惑うリアスとイブリスの言葉が終わる前に、ミサイルは炎とともに爆ぜた。
廊下は瞬く間に炎に包まれる。イブリスはぼろぼろのマントで熱気を防ぎ、リアスはレオにかばわれているためにこの二人には問題になるほどの損害はない。
だが、リアスを守っているレオはそんなわけにもいかなかった。
「うおおおおおおおおお!!」
リアスへ向かう熱気を背中ですべて受け止めたのだ。そのダメージは計り知れない。
タフガイであるレオでもこれには耐えられないようで、自分を奮い立たせるように叫びつつも、その場に倒れこんでしまった。
「レオ!」
すぐにリアスが駆け寄る。
息はある……が、背中のやけどがあまりにも酷い。これ以上戦うのは無理に近いだろう。しかも倒れた場所は廊下の真ん中。向こうからすれば格好の的だ。
「イブリスさん! レオを安全な場所に! 早く!」
せめて、ゴウルの射撃が届かない場所、窓の死角へレオを避難させなければ。二人はレオの体を引きずって廊下の端へと向かう。
「くっ……流石鍛えてるだけあるな、無駄に重い体しやがって!」
「軽くしてやろうか」
だが、レオという足かせを持つ二人の隙をつくことはいとも容易い。ヴェルキンゲトリクスは二人の進行方向へ現れ、レオの足を切断しようとナイフを振り下ろす。
「や……やめろおお!」
……今度はリアスが、その凶刃からレオをかばった。
「ぁ……!」
「リアスっ!」
ナイフはリアスの背中に深々と突き刺さった。リアスはまだ立ち上がろうとはしているが、とても戦える状態とはいえない。
仲間を一気に二人失った。圧倒的な劣勢である。
「心配するな、お前も一緒に送ってやる」
「ぐあっ!」
そこにヴェルキンゲトリクスの蹴りが追い討ちをかけた。咄嗟に銃を向けるが、リアスに気をとられていた隙もあってそのまま食らってしまう。
イブリスは蹴り飛ばされた勢いで持っていた銃を取り落とし、階段の踊り場まで転げ落ちた。
「全く、苦労を……掛けさせられたな」
ヴェルキンゲトリクスはイブリスの銃から弾を全て取り出し、階段を一歩一歩降りていく。踊り場の窓からはゴウルの照準がイブリスに向けられている。そして階下への道は壁で閉ざされている……
あらゆる手段がつぶされてしまった。イブリスには、相手をにらみつけることしかできない。
「終わりだ、黒の魔術師よ」
ゴウルの機銃が動き始めた、その瞬間。
階下を塞いでいた壁が、崩れた。
「!? なんだ!?」
イブリスにとっても、ヴェルキンゲトリクスにとっても不足の事態。レンガ造りの壁はガラガラと音を立てながら崩れていき、その向こうから2階の廊下が顔を覗かせる。
最初にイブリスの脳裏をよぎったのは、瘴気の影響の可能性。あの壁が自分の手を飲み込んだり、追いかけてきたりしたように、またおかしな動きをしたという可能性だ。
だが、その可能性はすぐに否定されることとなる。
「やっと……開通、ですね……」
壁の向こうに、3つの人影があったからである。
「……! ゴウル!」
踊り場の窓から階下の人影に向かって機銃が発射される。狙いは正確だ。だが、その攻撃は人影の持つ大きな盾によって阻まれた。
二人は確信した。その人影の正体を。
「失礼いたしました。お取り込み中だったようですね、邪魔をしてしまったようで申し訳ありません」
盾を持った人影が階段を上り始める。
「それとも……このまま邪魔をしたほうがよろしいでしょうか?」
そう言って、大盾を構えたメイド……フロワが、イブリスを守るように立ちはだかった。





