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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、遠出する
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合流、襲撃

サラちゃんは杖を膝に乗せて眠りこけ、フロワは頭をサラちゃんの肩に乗せている。隣にはフロワの盾が折りたたまれた状態で置かれていた。


「……えぇ……」


安心した……のは確かなのだが。目の前のあまりにも微笑ましい光景に、俺はなぜか虚しさを覚えた。


ああ、どうして俺はあんなに焦っていたんだ……


まあ、見たところ二人とも怪我はないらしい。いたって健康的な状態で何事もなかったかのように安らかな寝息をたてている。見ていると自分が置かれている状況を忘れてしまいそうだ。


疲れていたのだろうか。ただでさえ海に投げ出された後に魔物から逃げたのだから仕方ないと言えば仕方ないが。


……兎にも角にも起こしてやらねば始まらない。昼寝を邪魔するのは少し可哀そうだが、そろそろ目を覚ましてもらうことにしよう。


「ほら、起きろサラちゃん」


手始めにサラちゃんの肩をポンポンと叩いてみる。起きる気配はない。すっかり熟睡してしまっているようだ。


「……はぁ。おい、フロワ、目ぇ覚ませ」


軽い溜息をついた後、今度はフロワの方に手を伸ばす。


「っ! 誰っ!」


「ぬわっ……!?」


こちらはサラちゃんとは対照的に、少し手を触れた瞬間に飛び起きた。触れてすらいなかったかもしれない。


寝ていても警戒は怠らず、か。気配だけでここまで敏感に反応できるのは流石と言ったところだ。


飛び起きたフロワはサラちゃんを守るようにすぐに盾を展開し、こちらに向けた後……


「……イブリス様?」


ようやく気配の正体が俺であることに気が付いたようだ。


「たく……のんきにぐっすり寝やがって。俺の心配返せこのゴスロリメイド」


「休んでいる間に二人とも寝てしまっていたのですね……」


警戒を解いたフロワは盾を再び折りたたみ、サラちゃんに目をやった。こちらは相変わらずすーすー寝ている。


「ん?」


と、そこでフロワの表情に何か違和感があることに気が付いた。


表情自体はいつもと同じ感情表現に乏しい無表情だ。だが、決定的に違う何かがある。


無表情なのに、どこか感情を感じさせる何か。


……それは、微かに残っていた涙の跡だった。


「イブリス様、何か?」


「……泣いてたのか?」


「……なぜ示し合わせたように同じことを聞くのですか……」


俺が何気なく聞いてみると、フロワはかすかに顔を赤くして目をそらしてしまった。


……何が何だかわからないが、感情表現が分かりやすくなってきたのは良いことだ。これ以上突っ込むのも酷なので、この話題についての会話はここで終わりにしておこう。


「さて、じゃあもう一人の眠り姫様にも起きてもらうとするかね」


言わずもがな、サラちゃんの事である。


折角見つかったのだから、早めにリアス達と合流したいところだ。そのためにはとにかく起きてもらわなければ。


……しかしいつ魔物が来るのかわからないこの状況でここまで安らかに眠れる度胸。この子はどこまでいってもマイペースな部分を忘れないものだ。


「ほれ、いい加減起きろサラちゃん」


今度は肩を叩くのではなく、軽くゆすってやる。だが、これでも起きない。


「まさか本当の眠り姫みたいにキスでもしてやらなきゃ起きない……なんてないよな」


「イブリス様」


「本気じゃねえから安心しろ」


全く、記憶喪失だっていうのにどうでもいい知識ばかり残っている。そんなことを覚えているくらいなら過去の記憶に容量を使ってほしいもんだが。


「サラちゃん! いい加減目ェ覚ませ!」


「ふぇ!?」


……大きめの声で呼びながら、先ほどよりも激しく揺さぶってようやく目を覚ました。どれだけ深く眠っていたんだ。


「あ、あれ……イブリスさん!?」


寝起きのサラちゃんは状況が良くつかめていないらしい。まあ、はぐれていた俺がいきなり目の前に居るのだから混乱するのもわからないでもないが。


「……イブリスさぁん!」


しばらく見つめあったあと、サラちゃんが思い切り抱き着いてきた。やれやれ、少し締まらないがこれで感動の再会というべきか。


「よかった……よかった、無事だったんですね……」


「そりゃこっちのセリフだ……無事に会えてよかった」


俺の胸に顔をうずめ、わんわん泣きわめくサラちゃんの背中を優しくさすってやる。


抱きしめる力が強くて少々苦しいが、まあ……悪い気はしない。手のかかる弟子だが、やはりこうして慕ってくれていることがわかると、なんとも言えない感覚に襲われる。


「……こほん」


しばらく、そうして抱き合っていた俺たちは、フロワのわざとらしい咳払いで正気に戻った。


「あっ……ととと、ごめんねフロワちゃん」


「いえ、良いんです。再会の喜びはよくわかります。それよりもイブリス様、おひとりなのですか?」


「いや、リアスとレオも一緒だ」


「でしたらすぐに合流しましょう。魔物が近いかもしれませんし、出来れば一か所に固まっていた方がいいでしょう」


フロワがすいすいと話を進めてくれる。


早く合流した方が良いことは分かっていたはずなのだが、思わず感傷に浸ってしまった。時間はあっても余裕は無い状況なのだ、反省しなければ。


「とりあえず遺跡の表に出るぞ、二人にはそっちを探してもらってるからな」


「皆で私たちを探してくれてたんですね……わざわざごめんなさい」


「いや、大丈夫だ。無事でいてくれただけで十分だよ」


寝ていたのは予想外だったが。


さて、問題はこれからの行動だ。早急にどうにかしなければならないのは、やはりこの島の周囲に陣取っている艦隊だろう。


ペンドラゴンの時と違って本体の位置を掴めていない以上、あの兵器を直接相手にしなければならないわけだが……流石にあの規模だ、5人だけじゃ勝ち目はないと言っていい。


あれを操っているのは人間だ。どうにかしてそいつを引っ張り出して、1対5に持ち込むことができればいいのだが。


問題はその本体がこの島に居るのかどうかすらわからないというところだ。


そしてこの島を探索するのにも問題はある。件の魔物である。せめてソイツさえ倒すことができればいいのだが。


「おお!! 二人を見つけたのか!!」


遺跡の表に出ると、リアスを引き連れたレオが大声を出しながらこちらへやってきた。


「レオさん! リアスさん!」


「二人とも元気なようでなによりですね」


まあ、ひと眠りしたから元気はあるだろうな。


「5人集まれたところでこれからの……」


「皆さん、下がってください!」


「っ!?」


これからの行動について相談を持ち掛けようとした瞬間、フロワの叫びがこだました。


フロワは盾を展開して俺たちの前に躍り出る。俺たちはすぐにその盾の後ろに隠れた。


鈍い音が鳴る。フロワの盾が何かを受けた音だ。続いて聞こえてきたのは唸り声と太鼓をたたくような音だった。


「ここで来るかよ……!」


大猿の姿をした魔物の襲撃である。


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