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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
少女、フリーターと出会う
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って言うか世の中金だろ?

「あー、サラちゃんだっけか?」


「はい!」


白髪の少女が元気な返事を返す。


俺たちは先ほどの”街中師弟申込騒動”(と、俺が勝手にそう名付けた)の場所から移動し、喫茶店でお茶をしつつ話をすることにした。


今回のクエストで入った大金の最初の使い道がまさか他人に珈琲を奢ることだとは思わなかったのだが……まあ珈琲の一杯や二杯はした金だ。問題はない。


「正直、さっき君が言った言葉、未だに耳を疑ってるんだが……俺を師匠にしたいってか?」


「私、イブリスさんのさっきの戦闘を見てて、ぜひ師事したいと思ったんです。イブリスさんとっても強くてカッコよかったですから」


苦いものが苦手なのだろう。砂糖とミルクをたっぷり入れた珈琲を一口飲み、サラちゃんがそう話す。


とても強くてカッコイイ……正直悪い気はしないのだが。


「あー……その気持ちは嬉しいんだが……すまねぇが師匠にはなれねぇな」


残念ながら、俺は弟子を持つ気はないのだ。


「え……」


流石にこんなにもきっぱりと断られるのは予想外だったのか、サラちゃんはマグカップを片手に持ったまま硬直した。


「俺の話は聞いてるんだろ?ギルドには所属せず、冒険者からは軒並み異端者扱い。こんな俺に師事なんかしてもいいことないぜ?」


「それは……」


サラちゃんが目を伏せる。俺とは関わらないほうがいいとか、そういうことを言われた覚えがあると見た。


実際それは間違っちゃいない。こんな少女が俺と行動を共にしたって辛い思いをするだけだ。


……と、それらしい理由をつけておいて。


「あと本音を言うと弟子を持つほどの経済的余裕はねぇ。これでも生きるのに精いっぱいなもんでな」


弟子入りを断った理由の9割をここでぶちこんだ。


弟子を持つということはその分弟子に費用をかけるということだ。


ギルドに入っていない俺にはまず宿が必要だ。つまりギルドに寝泊りできる奴らと違って宿代がかかる。まずそれが一人分増える。


次に飯代。栄養をきちんと取らなければクエストなど到底遂行できない。腹が減っては何とやらとはよく言ったものだが。それも一人分増える。


では収入を見てみよう。


サラちゃんは新米で魔法も満足に覚えていないと聞いた。となるとクエストの効率アップは望めない。


時にはそんな新米の彼女を魔物や悪魔から守る必要も出てくるだろう。以上のことから効率が上がるどころか下がることが容易に想像できる。


つまり収入は今までと変わらない、もしくは多少下がると考えたほうがいい。


収入は減り、支出は増える。どう考えても俺には損しかない。


よって俺にとって彼女は厄介者以外の何者でもなく、弟子にとる必要など微塵もない。Q.E.D。証明完了。はい解散!


ということでどうにかして彼女をおっぱらうことにしよう。


とはいえ女の子相手に”邪魔にしかならねぇからどっかいけ”というと俺の悪評が更に加速するであろうからここは出来るだけ穏便な方法を取ることとする。


「お金がないってことはな、弟子にもかなりひもじい思いをさせる事になるってこった。何日も食事にありつけないとかは嫌だろ?」


嘘は交えず、サラちゃんが俺の弟子になることを躊躇するようなことを話す。


「大丈夫です!私、強くなるためだったらどんなに辛い境遇でも頑張れます!」


俺が頑張れねぇんだよ。


ううむ、困った。これは思ったよりも強敵かもしれない。


「さ、サラさん!やめたほうがいいですよ!」


と、そういって立ち上がったのはサラちゃんと一緒に来た受付嬢の子だ。


「今言われたようにこの人は万年金欠のプー太郎ですし他の冒険者からの評判もすこぶる悪いんですよ!?絶対に師匠なんかにしちゃ駄目です!」


「ああ、その通り……人に言われるとめちゃくちゃ腹立つなそれ!?」


「それにタバコ臭いですし!この人と一緒にいたら健康に悪いですよ?」


「てめっ……今は吸ってないだろ!これでも気を使ってんだよ!」


「ほら、ちゃんと気を使えるから大丈夫ですよセレナさん。やっぱりいい人じゃないですか」


「あー吸ってやろ!目の前だけど吸ってやろ!副流煙がんがん出してやろ!もし弟子入りしたとしたらそのあとも遠慮なく目の前で吸ってやろ!」


……まあ、どうやらこの受付嬢の子は俺の味方のようだ。


いや、味方ではないのだがサラちゃんを止めようと思っていることは一致している。少々心に傷は負うことになるがこれを利用しない手はあるまい。


「ほらほら、受付嬢の子……あーセレナちゃんって呼ばれてたっけ?セレナちゃんもこういってるから。俺に弟子入りなんてやめとけやめとけ!」


「そうですよ!フリーターでももっといい人はいます!というか新米がギルドに入らないなんて自殺行為ですよ!?」


「嫌です!首を縦に振ってくれるまで退きません!」


喫茶店の一角で繰り広げられる攻防戦。


どうにかして弟子入りを阻止したい俺とセレナちゃん。それに対して一切諦める様子を見せないサラちゃん。一進一退どころか進みも戻りもしない言い合いが繰り広げられる。


流石に周りの客も気になり始めたのか、店内がざわつき始めた。


「じゃああれだ!君を弟子にとってメリットとなることを教えてくれ!それで納得したら弟子にとってやる!」


今のところどう考えてもメリットのない提案だ、少なくとも俺が考えうる範囲では。


だが俺とサラちゃんはさっきのグランドクエストで出会ったばかりだ。つまりサラちゃんは勢いで俺を師匠にするなんて言い出しているということになる。


そんな子に対してメリットの提示を求めれば大抵は口ごもるはずだ。そこを畳み掛ける。


女の子をいじめるようで気分は良くないが仕方が無い。俺の生活のためだ、許せ。


「……イブリスさん、腕見せてください」


「うおっ……」


サラちゃんが俺の腕をつかみ、マントをめくって見せる。


あらわになった腕には少々大きな切り傷。先ほどのグランドクエストで魔物につけられたものだろう。


「この傷、回復できないんですか?」


「……黒属性には回復系統が一切ないんだよ」


そう。黒属性は全ての属性の中で唯一、回復魔法を保有しない属性だ。


回復、サポートが得意な白属性とは双璧をなす存在。同様に黒属性が豊富な攻撃手段を持つのに対し白属性には攻撃魔法らしい攻撃魔法は一種類しか存在しない。


……まあ、その白属性攻撃が悪魔どもにはかなり効果的なのであるが。


「他の冒険者さんがこまめに回復してたのに対して、イブリスさんはそういう素振りを一切見せなかったので……まさかとは思いましたけど、やっぱりそうでしたか。傷を回復するどころか自分で自分の手とか頭とか撃ってましたし」


「そうしねぇと発動しない魔法があんだよ」


というかこの子、クエストの間ずっと俺のことを観察してたのか?いや、それだけじゃない。他の冒険者もだ。


「イブリスさん、もしかして傷は」


「自然治癒を待つしかねぇよ。こんなんかすり傷だしな」


「でも動けないほどの大怪我を負ったらどうするんですか?」


……まずい、痛いところをつかれた。


「もしそうなれば治癒するまでクエストにはいけないことになりますよね……?その間、宿代とかはどうするつもりだったんですか?」


「大怪我しなけりゃ問題ないだろ」


「大怪我したらの話です」


うーん、参った。


というのもそれは前々から俺にとって大きな課題として立ちふさがっていた問題なのだ。


幸いにも今まで動けないほどの傷を負ったことは無いが、毎日クエストをこなして生きるのが精一杯。もしも大きな怪我をしてクエストができずに長期療養……なんて羽目になったら治療費なんて払えやしないし、収入も途切れるから毎日の宿も飯もとれない。


かといってフリーターに貯金するほどの余裕も無く、せいぜい大型の魔物に踏み潰されないよう祈るしか対策が無かったのだ。


「私は駆け出しですけど、一応白属性のプリーストです。回復魔法さえ覚えられたらその欠点をカバーできると思いますよ?」


「……そうだな」


ぐうの音も出ない。確かにそれはメリットと言えなくも無いことだ。


この子、勢いに任せている割には意外と考えているじゃないか……だが。


「だとしても、だ。回復魔法習得まで金策が辛いのは変わりない。よって却下だ」


「ええー!?」


悪いが断らせてもらう。起こるかどうかわからない将来の出来事よりも今のほうが大事だ。


「イブリスさんメリットが言えたら弟子にしてくれるって言ったじゃないですか嘘つき!」


「はぁー!?俺は納得したらつったんだよ!今のじゃあ納得できねぇな!」


「き、汚い……」


サラちゃんが激昂し、受付の嬢ちゃんが汚物を見るような目でこちらを睨んでくる。


うーん、卑怯な大人を演じるのも疲れるもんだ。これで幻滅して諦めてくれればいいんだが。


「ど、どうかしましたかお客様!」


流石に騒ぎすぎたのか、ついに店の店員さんがこちらに注意をしに来た。


あたりを見渡してみると客の大半がこちらを迷惑そうにちらちら見ていることがわかる。


……しめたぞ。


「あ、ああすまん。ちょっとヒートアップしちまってな……そういうわけだサラちゃん。これ以上は店にも多大な迷惑がかかるからこの話はここまでっつーわけで」


「え、そ、そんな!」


「金は払っとくから二人でゆっくりどのギルドに入るか考えときな!いい師匠に出会えることを祈っとくぜ!」


よし、俺個人の事情ではなく、店や客という第三者を言い訳にすればこの場からうまく逃げられる。


騒ぐ人も消えて店も平和になるからいいことずくめだ。


「そんじゃ」


「うぅ……」


「うっ」


俺が席を立とうとすると、サラちゃんの目がなぜか先ほどよりも輝いて見える。


当然それはいい意味ではなく、彼女の瞳に涙がたまっているということだ。流石に涙まで見せられては少し戸惑ってしまう。


……泣いてしまうほどのレベルで俺に師匠になって欲しかったのか。なにが彼女をそこまで執着させるのだろう。


おっと、ここで情を移してしまっては全てが台無しだ……そう、台無しだ。冷徹になるのだ、俺。


「……影ながら応援してるぜ。いい冒険者になりな……頼むから追ってくるんじゃないぞ」


俺はそれだけ言い残すとそれ以降は決して振り向かず、会計だけ済ませて店を後にした。


……どこか後ろ髪惹かれる思いを感じるのは、気のせいだと思いたい。

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