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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
使者、いざない
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新たな環境へ

「何ッ!! 本当か!?」


俺が提案を承諾した瞬間、土下座していたレオが勢いよく顔を上げた。


「ここで嘘つくほど意地悪でもねぇよ」


「ぬおおおお!! 助かる!! 助かるぞ黒の魔術師よ!!」


「やめろ!」


レオは感激の声をあげながら俺の手を握りしめてきた。


咄嗟に振り払おうとするが、とてつもなく握力が強く、びくともしない。筋肉隆々の見た目は伊達ではないようだ。


レオはそのまま俺の腕をぶんぶんと上下に振り回した。


「ぬぁ……! お、おい!」


「これで百人力だな!! 争いはあまり好きではないがこれでヒュグロンに負けずに済むだろう!!」


こいつ、俺に期待しすぎじゃないのか?


それよりも振り回しが強すぎて肩が外れそうなのだが……


「い、イブリスさん!」


「レオ、やりすぎだ。いきなり仲間の身体を壊す気か」


「おっと!! すまんすまん!! 気持ちが高ぶってしまった!!」


それだけで身体を危機に曝されてはたまったものじゃないが。


「さて! そうと決まれば早速個室をあてがおう!!」


「何?」


「聞くところによると諸君はギルドに所属しないフリーターらしいな!! 折角協力してくれるのだから部屋の貸し出しくらいはするとも!! 当然金などいらん!!」


そう話すレオの傍らで、リアスがカギを三つ用意している。一部屋ではなく、全員分の部屋を用意してくれるらしい。


突然の提案に、俺たちは顔を見合わせた。


「……ですが」


「何、遠慮するな!!」


「協力に対する対価として当然のものです。空き部屋はまだまだありますからね」


遠慮がちに言葉を発したフロワをレオが遮った。続いて、リアスが俺たちに半ば無理矢理鍵を渡していく。


まあ……確かに宿代が浮くのはありがたい。これは思わぬ収穫だ。


「ギルド内も自由に歩いていだたいて構いませんが、その際はくれぐれもお気を付けを。先ほど言ったように、全員が私たちと同じ考え方をしているわけではありません」


歓迎するばかりではない。俺たちの協力を不安に思う人もいれば、明確に反発する人もいる。


まあそれも当然の話だ。このギルドには多くの冒険者が所属している。その全員が同じ思考を持つなんて天文学的な確率である。


レオ達はヒュグロンを敵対視しているわけではないと言ったが、そのヒュグロンと言い争うメンバーも居るのだ。


「当然!! こちらからメンバーへ声もかけておく!! 反発も多いだろうが、まあ仕方ないだろう!! 馴染むまで苦労をかけるだろうが、すまないが我慢をしてくれ!!」


「ま、俺なんざそう簡単には信用できねぇだろうからな」


「え? そうですか?」


サラちゃん、君は特殊なパターンだ。


「でもでも、これなら色んな冒険者さんと知り合えますね!」


「ええ……とにかく経験が欲しいサラさんにはいい機会でしょう。イブリス様だけでなく、他の冒険者の皆さまにもお話を聞くことができるというのは大きなメリットです」


「イブリスさんの誤解を解くのにもピッタリです! 本当はいい人なんだって皆に知ってもらわなきゃ」


ああ、確かにサラちゃんと俺にとっていい機会なのは間違いない。馴染んでいけば俺の居心地も多少はよくなるだろうし……何よりサラちゃんの成長に大きく貢献してくれるだろう。


最近は修行らしい修行が出来ていない。ここでならプリーストの先輩にも出会えるだろうから、魔法の腕をどんどん伸ばしていけるはずだ。


折角のチャンスだ。しばらく様子を見て、問題がなければアトミスへ加入してもらったほうが……この子の為なのではないだろうか。


「……なあ、サラちゃん」


「イブリスさんの弟子は辞めませんからね?」


「そ、そうか」


提案を先読みで断られてしまった。どうやらこれだけは突き通すつもりらしい。


「がははは!! そんなわけでよろしく頼むぞ黒の魔術師よ!!」


レオが大きな笑い声をあげる。つくづく豪快な男だ。


不安が無いわけではない。だがヒュグロンに対抗する今、協力する価値は十分にある。大きなギルドを相手にするのに俺たち三人だけではあまりにも力不足すぎる。


そう考えるとアトミスと共に戦うのも悪くはない。


「んじゃ、俺らは失礼するぞ」


「ああ、少し待て!! 伝達魔法の周波数を……」


「悪いが誰も使えねぇよ」


伝達魔法は本来無属性であるため、誰でも使えるものなのだが……俺たちは異質なパーティだ。


黒属性の金欠フリーターに、純粋な白属性とかいう特例に、魔術の心得が無い剛腕メイド。"普通"と呼べる要素が何一つ存在しない。まあ、あえて言うならサラちゃんはそこまで異常な存在でもないか。


「な、なにぃ!!」


「仕方ない、伝言は直接伝えるしかなさそうだな……とりあえず今日はこのギルドを見て回ってみるといいでしょう」


「探検ですね! 探検!!」


「あんまりはしゃぎすぎて迷惑かけるなよ」


「私が同行しましょう」


サラちゃんが目を輝かせはじめたので釘をさしておく。この子は本当、冒険やら探索が大好きだな。


まあフロワが一緒なら大丈夫だろう。俺は部屋でゆっくり休みたいところだ。


「……それじゃ、しばらくの間世話になる」


我ながら無愛想な挨拶を残して、二人と共に部屋を後にした。


* * *


「レオ、本当に良かったのか?」


「うむ、奴は重要な戦力だ。近いところに置いておいて損はあるまい」


「ヒュグロン相手に戦力の増強を図るのは良いことだと思うがまさか黒の魔術師を頼ることになるとはな……」


「がははは!! 確かに意外なところをついたと思われるかもしれんな!!」


「意外どころじゃねーっての。アトミスの株が落ちる可能性だってあるんだぞ」


「だが実際話してみたら悪い奴ではなかっただろう?」


「俺らが認めても世間が認めない。そういうことだよ」


「だが手段を選んでいる場合でもないだろう」


「……まあ、な」


「目には目を、だ」




「……悪魔の軍勢が絡んでいるかも知れんときたら、こっちも悪魔と同じ力を借りるしかあるまいよ」

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