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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
使者、いざない
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うるさい

「がははは!! ごきげんよう諸君!!! 俺の名はレオ=マスノ!!! このアトミスのマスターを務めている!! よろしく頼むぞ!!!」


俺たちが状況を把握する前に降ってきた男は自己紹介を始めた。マッスルポーズをとりながら。


かなり騒々しい奴だ。先ほど部屋の中に響いた声が目の前から発せられるとなると、耳にかかる負担がとんでもない。一緒にとるポーズも視覚的な煩さとして精神的威圧に一役買ってくれる。


レオ=マスノ。名前からして東の国の人間だろうか。東の民族といえば物静かで礼儀正しい人柄が多いイメージなのだが、目の前の人間はそのイメージからかけ離れている。


「さあさあ!! そう緊張するな!!! リラックスして楽しく話をしよう!!!」


「お前が驚かせたうえに大きな声で話すからリラックスできねぇんだろうが!」


レオに鋭い突っ込みを入れたのはリアスだ。


「何ぃ!?」


「何が何ぃ!? だ! ここでちゃんと待ってろっつったのになんか天井に隠れてやがるし!!」


リアスが上を指差す。天井は一部分外れて穴が開いていた。この穴を使って天井裏に隠れ、そしてこの穴から降ってきたのだろう。


「ああ、これか!! 面白いだろう? ちょっと部屋を改造してみたのだ!!」


「改造すんな!」


「なにぶん部屋に閉じ込められて退屈だったのでな!! ちょっとした余興だ!!」


「何のために閉じ込めたと思ってんだよ! あれみろ! 仕事が山積みなんだぞ!! お前そうでもしないと仕事やんねぇじゃねえか! 結局やってねぇけど!」


「落ち着け、半分は終わらせたのだぞ」


「は? いやいやどうみても残って……」


「一枚目のな!!」


「一回刺させろ! ってそういや今武器持ってないんだった……クソっ!」


目の前で繰り広げられるコントに俺たちは完全に置いてけぼりだ。歓迎する、とは一体何だったのか。


「はぁ……あんたら二人の話はあとにしてさっさと用件を話しちゃくれねえか」


このままでは話が全く進まない。コントを見るのも面白いっちゃ面白いが今は本来の目的を話してもらうべきだろう。


「ああ、申し訳ありません。皆さんをほったらかしにしてしまいましたね」


リアスがコントを中断し、謝罪する。レオと話していた時とは違う丁寧な口調、客人と身内でしっかり使い分けているようだ。


「んじゃあ早速聞かせてもらうが……俺たちを仲間に引き入れたいってのはどういうことだ?」


「がっはっは!! そのままの意味だ!!」


……会話が終わってしまった。いや、そもそも質問の答えにすらなっていない。


「そうじゃなくてだな……」


「三大ギルドはイブリス様を敵対視していると聞いています。その一つであるアトミスギルドがイブリス様を仲間にしたいと言っていることには違和感を感じざるを得ません」


しばらく黙っていたフロワが口を開いた。俺の言いたいことを見事に代弁してくれた、見事な発言だ。


「なるほど!! そう言う事か!! なに、確かにそういう噂は流れているようだが、俺たちは別に敵対視はしていないぞ!!!」


「ステレオンとヒュグロンはその上昇志向故に貴方が邪魔に思えるのでしょうが、アトミスはあまり上昇志向を持たないギルドです。貴方を狙う理由は特にありません……最も、メンバー全員が同じ思考であるわけではないのですが」


レオが腕組をしながら返答し、リアスがそれに補足をする。


当然、ほいほいと信じる俺ではない。上昇志向を持たないと言われても、グランドクエストの時に他二つのメンバーとアトミスのメンバーが言い争っている場面を見ている俺としてはあまり信じられるものではない。


「で、でも、どうして仲間に入れようとするんです? 敵じゃないってことはわかりましたけど……」


「ああ、確かにな。自分で言うのも何だが俺は悪魔の手先だなんだって疎まれてるんだぞ?」


ご存知の通り、俺に対する世間の評判は芳しくない。最近はそんな俺の周りも賑やかになってきているが、世論が変わったわけではない。


自分が黒属性である理由すらわからないこちらとしてははた迷惑な話だが、正直仕方がないものである。


そんな俺を仲間にするなど、ギルドの評判を落とすだけではないのだろうか。メリットが見当たらない。


「それについては俺から説明しよう!!」


レオが口を開いた。というか叫んだ。


「俺たちが諸君を仲間に入れたい理由には、何を隠そうヒュグロンギルドが関わっている!!」


「ヒュグロンが?」


「その通り!! 実はだな、ヒュグロンが我々アトミスを壊滅に追い込もうと画策しているようなのだ!!」


「……何?」


レオの言葉に、一瞬耳を疑った。


三大ギルドがライバル関係にあることは周知の事実だが、今までは自らのギルドを大きくしていくことによって競っていた。


それも当然で、直接他ギルドに攻撃を仕掛けてしまっては"機関"の制裁の餌食になるからだ。先日のステレオンが見事にそれを立証している。


ヒュグロンも同様。ステレオンやアトミスに負けないよう、メンバーを増やし、クエストで実績を残し、そうして他に対抗していた。


それが何故、今更アトミスを壊滅に追い込もうとするのか。


「まあ話を聞け!! イブリス、お前もヒュグロンに狙われているのは同じだろう!?」


「確かにそうだが……」


「こちらとしても潰されようとしているのに黙ってみているわけにはいかん!! 利害の一致というやつだ、ヒュグロン打倒に協力してくれないだろうか!!」


なるほど、そういうことか。確かに筋は通っている。だが、あまりにも胡散臭い。あと五月蠅い。


……まあ、レオ自身は悪い奴ではなさそうなのだが。


「まあ当然、反発もしました。だからこそ私が尾行をして……」


「俺の人柄を見極めたと?」


「そういうことです。申し訳ないことをしましたね」


リアスの判断は間違っていないだろう。悪魔の手先かもしれない人物をそうやすやすと引き入れるなど普通はあり得ない。


逆に言えば、こうして本部まで招かれたという事はそれなりの信用は得られたと言うわけだ。


「……あまり乗り気ではない顔ですね」


「ま、そう簡単に信じろってのも無理な話だろ。ヒュグロンがあんたらを潰そうって言うのも無理がある」


「……」


ステレオンが潰れ、"機関"がピリピリしているこの時期に他のギルドを潰そうなんて、普通は考えるだろうか?


アトミスが仲間になるといった俺の寝首をかこうとしていると言われた方がよっぽど信憑性が高い。動きの規模が違うからだ。


このままこの話を受けるのはあまりにも危険すぎる。


「でもよ、まだ話はあるんだろう?」


「よくお分かりですね」


「まあな」


だがそれはこのままなら……の話である。


あんな街中で接触するのは危険すぎる。俺が反抗して乱闘にでもなればお互いに制裁の対象になりかねないからだ。それでもこの時期に接触してきたのは、俺を仲間に引き入れられるという確証があるからだ。



「……マシニスト。機巧士と書くようですが……聞いたことはあるでしょうか」



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