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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
使者、いざない
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現れた使者

「び、尾行……?」


「いつからだ?」


フロワは静かに首を振った。


「わかりません。私も気が付いたのは先ほどの書店です……が、最初から見られていたと考えるのが自然でしょう」


奴さんたちは思っていたよりもせっかちなようだ。恐れを知らないとも言える。


わざわざ尾行するとなれば、まだ情報収集の段階なのだろう。今日襲われることはないと思うが、こそこそと嗅ぎまわられるのは気持ちのいいことではない。


「イブリスさん、どうしましょう……」


「とりあえず人の少ないところへ行くぞ。すぐにとっ捕まえてやりたいところだが、人だかりのなかでそれはまずい」


人ごみのなかで捕り物などやってしまえば、一般人が巻き込まれる可能性がある。それに俺たちが暴れたという報告が"機関"へ行く可能性も出てくる。


「行くぞ。向こうの路地裏だ……できるだけ自然に歩くんだぞ」


俺たち三人は何事もなかったかのようにまた歩き出す。


気づいていることを悟られないよう、できるだけ日常的な会話を交わし、そのまま路地裏へと足を運んでいく。


「フロワ、まだ着いてきてるか?」


「……はい」


日常会話の中にまぎれ、少し小さな声で質問する。どうやら上手い具合に誘導できているらしい。


「そこの角を曲がるんだ」


大通りから道を曲がると、今までの喧騒が嘘のように遠のく。


入ったのは細めの路地裏。人気はなく、居るのは俺たちだけだ。


「ここなら多少騒いでも問題ないだろうが……」


大通りの方向を振り返るが、誰も居ない。


人々はこの路地に目もくれずに通り過ぎていき、こちらの様子を窺うような人物は見当たらなかった。


「逃げちゃった……んですかね?」


「その可能性は高いですが……」


しばらく様子を窺ってみるが、やはり動きはない。流石に動きの不自然さを悟られてしまったか。


「まあ、逃げたなら仕方ない……だがまたしばらく警戒を」


「逃げてなどいませんよ」


「っ!?」


突如として背後から聞こえた声に、俺たちは身構えた。


俺はいつでも銃を抜けるようホルスターに手を置き、サラちゃんも杖を取り出している。


唯一武器を持ってきていないフロワもすぐに動けるように態勢を整えたようだ。


「そう身構えないでください、怪しいものではありません」


男は少しぼろっちいフードで顔を隠している。声色と体格から考える限りまだ若いようだ。


軽装であり、武器を持っている様子は無さそうだが……


「ずっと俺たちを尾行してたやつのどこが怪しくないって?」


「ははは、それを言われてしまっては痛いですね。危害を加えるつもりはない、と言い直しておきましょう」


男は三人を挑発するような態度で自分の発言を訂正する。


「なぜ俺たちを尾けていた? いつからだ!」


「落ち着いてください。まずは自己紹介でもいたしましょう……私はリアスという者です」


俺の質問を受け流すと、リアスと名乗った男はフードを取り、懐から冒険者証を取り出した。自ら身分を明かすことによって警戒を解こうとでも思っているのか?


すぐに動ける体勢を維持しつつも、その冒険者証を見てみる。


名前……リアス・スイープ。とりあえず偽名ではないらしい。


クラスは狩人。こいつは素早い動きやテクニックに長けたクラスだ。流石、ここまで尾行していただけある。


だが、そんなことはどうでもいい。何よりも俺の目を引いたのは、所属ギルドだった。


そこに書かれていたギルド名は……


「アトミス所属……か」


三大ギルドの一つそして俺たちを狙うギルドの一つでもある。


やはり、というべきか。予想よりも早かったが、ステレオンが潰れた今、他のギルドも動き出しているようだ。


「ええ、その通り。私はアトミスからの使者です。どうぞよろしく」


リアスは紳士的にお辞儀をする。


礼儀が正しいだけなのか、はたまた俺たちをおちょくっているのか。


「しかしあんたらも案外馬鹿なんだな。ステレオンが制裁を受けた直後だっつーのに、こんな街中でドンパチやろうなんてね」


「おやおや、まだ勘違いしておられる……危害を加えるつもりはないと言ったでしょう」


「お言葉ですが、私たちはそれを信じられるほどお人好しではありません」


俺に代わってフロワが言葉を返した。リアスは唸りながら参ったように頭をかく。


油断するわけにはいかない。相手は狩人クラス……その動きは素早いはずだ。武器もどこかに隠しているかもしれない。


いつ動いても大丈夫なようにしておかなければ。


「うーん……頑固な人たちだなぁ……」


「あの……」


俺たちの後ろからサラちゃんが恐る恐る声を上げた。


「危害を加えるつもりはない……んですよね?」


「ええ、先ほどからそう言っているでしょう」


「ならどうして、私たちを尾行してたんですか?」


「……ああ、確かにそうだ。戦う気がないなら何が目的なんだ」


サラちゃんの質問は中々に的を射ていた。確かに、相手の目的もわからないままこうしていても仕方がない。


「我がギルドのマスターにですね、貴方たちを連れてくるように頼まれているのですよ」


「捕まえて地下牢にでも入れる気か?」


「ああもう……そんなに信用ないですかねぇ」


リアスは呆れた様子でため息をつくと、言葉を続ける。


「私たちはですね……貴方がたに仲間になっていただけないかと思っているのですよ」


語られた真意は、俺たちの予想とは真逆のものであった。

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