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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、新体制
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療養中の一幕

「やあサラちゃん、具合はどうですか」


「あ、ラディスさん……! おかげさまで、もうすっかり!」


「ふふ、それはよかった」


ベッドで休んでいた私の部屋に、ラディスさんがやってきた。


あの戦闘から数日がたった。


ここは"機関"が管理する病院。あの戦闘の後、救助隊の皆さんが私たちをここに運んでくれたらしい。


私以外の二人……特にイブリスさんは怪我が酷かったものの、どちらも命に別状はないそうだ。


ないそうだ……というのも、実際に会っているわけではないため。私は二人と違って物理的な怪我はほとんどなく、脱水が主な症状だったために病室は別なのである。


「ラディスさん、まだ……イブリスさんとフロワちゃんには会えないんでしょうか?」


ラディスさんは私の質問にゆっくり頷いた。


「二人とも意識は戻っていますが、動いて良い状態ではありません。それは君も同じです」


「うう……」


確かにラディスさんの言う通りだ。


今でこそ意識ははっきりしているものの、昨日までは一日のほとんどを眠って過ごすような状態だったのである。


今でもベッドで体を起こすだけが精いっぱいであり、立ち歩くにはもう少し休養が必要だ。


「僕が伝言を伝えるくらいならできますよ。いささか不便なやりとりになるかと思いますが、もう少しの間我慢をお願いします」


「い、いえいえ! むしろわざわざそんなことをしてくれるなんて、申し訳ないです……」


「ふふ、気にしないでください。僕にとっても皆さんは大事な友人ですから」


ラディスさんはそう言ってにっこりと微笑んでくる。


イブリスさんはどうにも好きになれないと言っていたけど、こうしてみてみると普通のいい人にしか見えない。私が信じすぎなのだろうか?


「それじゃあ早速、伝えたいことはありますか?」


「あ、はい、えーっと……」


伝えたいこと……と言えば何だろうか。


お元気ですか……って、いやいや、どうしてそんな改まるのか。かといって軽い挨拶を伝えるのもちょっと違う気がする。


いや、そもそも挨拶なんかどうでもいいのだ。私が確認したいのは二人の無事であって……あれ? 無事ならもう確認できてる……?


あ、頭が混乱してきた。いざ伝言となると何を言えばいいのかごっちゃごちゃになってしまう。


「あはは、そんな考えこまなくていいんですよ。思ったことを言えば良いだけです」


「あ、そ、そうですよね……」


ラディスさんの言う通りだ、落ち着け私。


「なら……無事でよかったと、そう伝えておいてもらえますか?」


「ええ、お安い御用です」


「その必要はねぇぞ」


「……えっ?」


突然会話に割り込んで来た声。聞こえたのは部屋の入り口からだ。私とラディスさん、二人が同時にその方向へ目を向ける。


「よっ、元気そうじゃねぇか」


そこには、包帯だらけの姿で松葉杖をついた、イブリスさんが立っていた。


「ち、ちょっとイブリス!? 何をしてるんです! まだ寝てなければ駄目だと言われたでしょう!?」


「この状況でずっと寝てられっかよ。まだ襲撃の可能性は残ってるんだぞ……サラちゃんを一人にしてられるか」


そう言うイブリスさんはふらふらで、松葉杖が無ければすぐに倒れてしまいそうだ。それでも器用に歩を進めて私たちの近くへと寄ってくる。


「っとと……」


「ああもう危ない……! はやく自分の病室に戻ってください!」


「ここまで来たんだから少しくらい話をさせろよ」


イブリスさんはふらつきながらも私のベッドの隣に進み、近くの椅子に座り込んだ。


「さて……と。久しぶりだな。まだそんなに経ってねぇか?」


「あ……お、お久しぶり、です?」


「意識もはっきりしてるみてぇだな。心配してたんだぞ」


怪我こそ酷いが、イブリスさんも元気そうだ。


途端に大きな安心感が押し寄せてくる。あの戦いであんなにボロボロになっていたのがまるで嘘みたいで……


「……イブリスさぁん……!」


「うお!?」


気が付いた時には、イブリスさんに抱き着いていた。


「よかった……よかったぁ……」


大丈夫だと聞いていたけれど、いざ目の前に現れると安心感が全く違う。自分の目で、元気に動いているイブリスさんを見られたことが嬉しくてたまらない。


「ちょ、痛っ! 痛いってのサラちゃん!怪我が!」


「あっ、す、すみません!」


イブリスさんの苦痛の声が聞こえたので、すぐに身体から離れる。


そうだ、まだ怪我は治ってないんだった。そんなところに抱き着いてしまったら痛いに決まっている。


「はぁ……ま、元気なのは良いことだけどよ……」


「ええ、元気なお姿を見られて、安心しました」


「えへへ……って、あれ?」


「……? サラさん? どうかなされましたか?」


「……うわっ!? ふ、フロワちゃんいつの間に!?」「ぬあ!?」


私とイブリスさんが同時に驚きの声を上げる。フロワちゃんが、いつの間にかイブリスさんの隣に現れていたのだ。


イブリスさんよりはひどくないものの、フロワちゃんも所々に包帯を巻いている。


しかし、イブリスさんと違って松葉杖が必要なほどではないらしい。いつも通りの涼しい顔で椅子に座っている。


「丁度お二人が抱き合っている時……です。夢中になってて気づかなかったようですね」


「全く……フロワもまだ出歩くなと言われているでしょうに」


「申し訳ございません、主様。本当はイブリス様を連れ戻すために来たのですが……もう少し、ここに居ようと思います」


私とラディスさんだけだった病室が、いつの間にか賑やかになってしまった。でも、予定よりも早く二人と顔を合わせられたのは、良かったのかもしれない。


私は今一度二人の顔を見て、心が落ち着くのを感じた。

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