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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、狙われる
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深き森の洞窟へ

「……っえい!」


数分後、クエストに向かう馬車の中。


イブリスの向いに座るサラが、辺りを照らす光球を生み出している。これも魔法の練習の一環だ。


「やった、できた!……って、あれ、消えちゃった」


「集中を切らしたせいだな。嬉しいのはわかるが、もう少し安定してから喜ぶべきだった」


「うう……もう一度」


魔力を球の形に纏めるトレーニング。魔法を操る際のイメージを鍛えるための訓練だ。


魔法を使う際に大切なのは自分の魔力を自在に操るイメージである。こうして魔力を使ってさまざまな形のものを作ることで、魔力の操り方を学ぶのだ。


光って見えるのは、白属性魔力特有の性質である。


「ボールの形をよくイメージして……それを形どるように……って、イブリスさんどうしたんですか?」


「ん?なにがだ?」


「……なんだか、すごく怖い顔してます」


そう言ったサラの声からは、少しだけおびえている様子が感じ取れる。


いけないいけない。思わず顔を強張らせてしまっていたようだ。


「ああ、すまない、少し考え事をしていてな。なんでもないさ」


「そう……ですか?」


サラはその言葉に首を傾げるが、イブリスが微笑みかけてやるともう一度魔力の球を作り出す練習へと戻った。


……イブリスの考え事とは、言うまでもなく先ほどのセレナとの会話である。


三大ギルドの怪しい動き。気になる。気にならないはずがない。セレナの口ぶりからして、少なくともイブリスにかかわることであるのは確かなのであろう。


となると、大体予測はできる。


もしそれが本当なのだとしたら……もしかしたら、しばらくはサラを留守番させたほうがいいかもしれない。


とはいえ、確証のないまま有効かどうかもわからない対策をとっていても仕方がない。まずは相手の出方をうかがった方がいいのかもしれない。


「イブリスさーん?」


……しかし、それでは足元を掬われる可能性も否めないか。となると逆にこちらから動いて三大ギルドへ何らかの接触を図るべきか?


「イーブリースさん」


相手はイブリスを目の敵にしているような連中だ。イブリスが接触しようとしたところで、果たしてまともに取り合ってくれるだろうか?


「イブリスさん!」


「おわっ!」


イブリスは、サラの大声で呼ぶ声でようやく我に帰った。


考えを巡らせるあまり、周りの事が全く見えなくなってしまっていたらしい。何度話しかけても反応のなかったイブリスに腹を立てているのか、サラは頬を膨らませ、怒っているような、またいじけているような顔をしている。


見ると馬車はすでに目的地に到着しており、止まってイブリスたちが動くのを待っていた。


「わ、悪い悪い、もうついてたのか。すぐに出るよ」


「全くもう……何度も呼んだんですからね?」


「悪かったってのに」


”ぷんぷん”という効果音が似合いそうなほど可愛らしく怒るサラと共に馬車を降り、徒歩で目的地を目指す。


今回のクエストは洞窟の奥に巣食うという大蛇の討伐。その洞窟は何の因果かあの悪魔と戦った森の奥にあるということらしい。


「瘴気の影響……まだ残ってるみたいですね」


「……そうだな」


かすかに黒みを帯びた森を進み、洞窟を目指す。


ずっと感じている胸騒ぎは、考えすぎによるものなのだろうか。


* * *


「あ……あれ、ですかね」


しばらく進んでいくと、木々の隙間から岩肌が覗いた。


ひときわ大きな岩にも見えるが、人が2、3人ほど通れそうな穴が開いている。穴は深く、奥は見えない。その暗闇から、かなり深いものだと予想できた。


「……蛇が通った跡がある。間違いないな」


洞窟周辺の土に細長く、曲がりくねった跡がある。それは洞窟の中へと続いていた。


紛れもない、ここに大蛇が生息していると言う証である。跡がまだ新しいところを見ると、さっきまで外に出ていたのかもしれない。


「う、うわぁ……暗いなぁ……」


「さっきの魔力の塊、出してみな」


「あ、なるほど」


サラは精神を集中させ、馬車の中で作っていた光球を作り出す。馬車とは違って揺れがないせいか、はたまた自然の中と言う環境のおかげか、先ほどよりも集中しやすいらしく、案外すんなり出すことができた。


「これで洞窟を照らしていくんですね!」


「ああ、頼んだ。黒属性じゃ光は出せないから今回の視界はサラちゃんが頼りになるぞ」


「えへへ……がんばります」


今二人が居る外は比較的明るいためにわかりにくいのだが、サラの光球が放つ光は普通のものよりも大きいようだ。これも”純粋な白属性”(今だ仮定の域は出ていないが)の恩恵か。


無駄にプレッシャーをかけるようなことを言ってしまったが、視界の確保はそんなに心配することはないだろう。


「よーし!それじゃあ、行きますよー!」


「こらこら……まだ入り口近くに居るかもしれないから慎重にな」


補助魔法と違って目に見える形で役に立てることが嬉しいのか、サラはいつも以上に張り切っている。


イブリスはそんな様子に困った顔をしながらも、洞窟を先導するサラを追いかけた。


「……」


一度振り返り、地面を一瞥してから。


……正確には、大蛇の跡の近くにある、自分たち以外の足跡を。

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