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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
師弟、方針を変える
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ひとつの決着、新たな出会い

「大丈夫ですかサラさん!怪我とかないですか!?」


「だ、大丈夫ですから、落ち着いて……」


馬車へ向かった私を待ち受けていたのは、焦燥した様子のセレナさんだった。


彼女は私の姿を見つけるなりこちらへ駆け寄り、私の身体を見回す。怪我がないか気になって仕方ない様だ。


「ああ、ほら!ローブに血がついてるじゃないですか!」


「セレナちゃん?多分そりゃ俺の血だ」


完全に冷静さを失っている。よほど私たちを心配してくれていたのだろう。少し嬉しい気持ちになる。


「サラちゃんなら心配ない。俺は少し大きめの傷を負ったが……」


「あなたには聞いてません!!」


「ああ、そう……」


イブリスさんが呆れながら二本目の煙草に火をつける。セレナさんは相変わらず落ち着かない様子だ。


「わ、私なら本当に大丈夫ですから!」


「そ、そうですか……よかったぁ……」


「でもなんで受付嬢が”機関”の部隊と一緒に来てるんだ。管轄じゃあないだろう」


「その……お二人が向かった場所に突然フェロヴリード・フォルタが出現したと聞いて、私、居てもたってもいられずに……」


無理矢理ついてきた、という事だろう。


受付嬢が戦えるだけのスキルを持っているのかは知らないが、まあなんとも無茶をするものだ。


……いや、私が言えたことじゃない、か。


しかし冷静さを失うくらいに心配してくれるとは、本当にいい人に出会えたものだ。イブリスさんといい、私は周りの人に恵まれている。


……冒険者になってよかった。


「ところで受付の嬢ちゃん」


「名前で呼んだり役職で呼んだり、忙しい人ですね」


「ほっとけ。俺たちがクエストを受けた時にはボスモンスターが出現する可能性があるなんて聞かなかったぞ。クエスト情報に正確なものを書かないなんて、”機関”の職務怠慢じゃないのか?」


確かに、私たちがこのクエストを受注するときは”小型の鳥型魔物を討伐するだけ”と聞かされた。大型の魔物やボスモンスターが現れる、という会話は一言もかわした覚えがない。


フリークエストの受注板を眺めていたときに気付いたのだが、ボスモンスターが出現する可能性のあるクエストは必ずその旨が書かれていた。


今回たまたま現れたために討伐したものの、最初から現れるとわかっていれば私を連れているイブリスさんはこのクエストを選ばなかっただろう。


「それが……”機関”でもこの出現は予想できていなかったんです。本当に突然現れて……貴方たちを送った御者から救助要請があってから、”機関”内がとてもバタバタしてます」


「出現予測に使っている魔具の故障か?」


「今のところはその可能性が考えられています。ここ最近、魔物が予測とは違う動きをすることが多いんです。今回みたいに予兆なしでボスモンスターが出現するパターンは初めてですが」


「ふむ……」


イブリスさんが顎に手を当てて考え込む。何か思うところがあるらしい。


そういえば昨日のストーンピッグ討伐の時にも魔物が不可解な動きをしていると言っていた。それと今回の事に何か関係があるのだろうか?


「……まあ考えても仕方がない。アヴェントまで乗せてってもらえるか?」


「勿論です」


「あ、戻ったら奴を討伐した分の報酬、ちゃんとくれよ?」


「分かっていますよ、全く……お金に目がくらんでサラさんをあんな危険な敵と戦わせたんですか?」


「……」


イブリスさんは否定しなかった。いや、否定できなかったのだろうか。


「……サラちゃんに少しでも裕福な思いをさせてあげようと」


「言い訳は結構です」


年下の受付嬢に叩かれるイブリスさんは、なんだか少しだけ情けなく見えた。


* * * 


「ついたーっと!」


「こらこら、危ないからゆっくり降りろ」


馬車に揺られること十数分。


一時はどうなることかと思ったが、無事にアヴェントへ帰還することができた。波乱はあったが、あとは”機関”窓口でクエストクリアだ。


「ここ数日の魔物の不審な動きに関しては”機関”で調査を進めておきます。念のため、原因が発覚するまでは入念に注意を払っておいてください」


セレナさんはそれだけ言い残すと、先に”機関”の方向へ走って行ってしまった。


さっき”機関”内がバタバタしていると言っていたし、彼女もあまり長く席を空けるわけにはいかないのだろう。


「俺たちはゆっくり休みながら行くか。疲れただろうから次のクエストは昼食を食べてからにしよう」


「はい」


そういえば時間はまだ昼前だ。あの激しい戦いの間は時間を忘れてしまっていたが、終わってみれば実に短いものだった。


……今日最初のクエストでアレとは、幸先が良いのか悪いのか。


「とりあえず商店街で飲み物のひとつでも買って……」


「お待ちください」


歩き出そうとした私たちを、背後から起伏のない女性の声が引き留めた。


ゆっくり振り返ると、そこには私と同じくらいの年齢に見える、背の低いメイドさんが一人、佇んでいる。


「……お前」


「お知り合い……ですか?」


私の質問に言葉も出さず、前を向いたままで頷くイブリスさん。気のせいか表情が少し強張っている。


それも気にせずにメイドさんは深々とお辞儀をし、告げた。


「黒の魔術師、イブリス・コントラクター様。及びその弟子、サラ・ミディアムス様。主様がお呼びで御座います。至急”機関”本部までお越しください……」

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