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魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
少女、新たな地へ
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背信者の弧 その2

「ありゃあ……青属性の瞬間移動か! でもこの距離を一瞬だなんて、ラディス並……下手したらそれ以上!?」



突如として部屋内に移動してきたセレナを見上げながら、アリムが叫ぶ。



天井付近、空中で下方へ向けて構えられたセレナの弓は誰を狙うわけでもなく、部屋の中心へと向けて放たれた。



放たれた矢は即座に無数の矢へと拡散し、部屋中を掃射する。



「ッ! 魔力の矢か!」



「ルツァリ。あ、あちら側を、頼む」



ルツァリとミリスは魔法により風を生み出し、防御を図る。



ミリスがルツァリ達戦闘要員側へ降り注ぐ矢を。ルツァリが非戦闘員側へ降り注ぐ矢を。



部屋の内側から外側へと吹く、横殴りの突風だ。魔力により作り出された矢と言えども、風の影響は受けるようで、殆どの矢は壁へと叩きつけられた。風の影響を受けずに着弾した矢も、全てが床や机に刺さっており、その場に居た者に直撃したものはない。



「上へ参りまーす!」



間髪入れずにカイリが地を蹴り、セレナの元へ飛び掛かる。



黒の魔力と跳躍の勢いを乗せたパンチ。自らへ向かってくるカイリに気づいたセレナは手に持った大弓でそれを軽々と受け止めた。



「わお、力も……ちッ!?」



それどころか、カイリを押し返して床へ叩きつけてみせる。



「お、おいおい何だアレは!? どう考えても力が強すぎないか……!?」



机に身を隠しながら戦いの行く末を見守るパイロが困惑の声をあげる。



戦いが始まって間もないが、セレナの動きには異常な点が多い。最初の瞬間移動、今しがた見せた怪力。そして。



「それに……どう見ても、浮いてるだろう。アレ……」



空中から落下する気配のない身体。



「あの力の強さは兎も角、空中浮遊の原理は理解できる。青属性の魔力の得意技は時空間への干渉……それを応用して自らの座標を固定しているのだろう」



同じく机に身を隠しているジェラルがパイロへと説明する。



「それにしたって、あの持続時間は異常だぞ! ラディスですら浮き続けるなんて不可能だったはずだ!」



「わかっている。アリム、君はどう思う……アリム?」



ジェラルが隣に居るはずのアリムに意見を募る。



――が、そこにはアリムは居なかった。



「カイリ! 大丈夫か!?」



一方。



前線では床へと叩きつけられたカイリに、ルツァリが駆け寄っていた。



「ん、あぁ。滅茶苦茶痛いけど大丈夫……おっと」



「ッ!」「ふっ……!」



そんな二人目掛けて、追撃の弓が既に引かれていた。



ルツァリとミリスが風の刃の魔法を放つ。二方向からの迎撃が矢の照準をずらし、カイリ達から逸れた方向へ着弾する。



「おお、間一髪。助かった」



「礼を言う暇があるならさっさと立て!」



ルツァリが魔法による攻撃を繰り返しながら叱咤の声をあげる。



浮かべるのは歯痒そうな表情。ルツァリは剣、ミリスは体術。相手が空中に留まり続けている以上、各々の武器は使えない。最大限のパフォーマンスを発揮できない戦闘に煩わしさを感じずにはいられないのだ。



「……」



セレナはそんなルツァリを表情のない顔で見下ろしながら、指を鳴らした。



「うおっ!?」



立ち上がりかけていたカイリが声をあげる。



セレナの指の音を合図に、部屋中に散らばっていた矢を中心として壁や床が凍り付き始めたのだ。



「た、ただの、魔力の塊ではない、か。魔法そのものを、や、矢の形にして放出していた、わけだな」



ミリスは即座に氷の影響がない机の上に避難し、ルツァリとカイリもそれに続く。非戦闘員側も、とりあえずは影響の少ない場所に避難しているようだ。



「しかし、この力……!」



「ああ、多分無理矢理限界を超えて使わせられてる。このままじゃああの子の身体のほうが持たないぞ? さっさと引きずり降ろしてやらないと」



「そうは言われても、この状況ではな……! 遠距離戦はお前の領分だろう!」



「女の子にあんまりゴツい銃はなー。ほら俺……なんだっけ、ベーシストだから」



じわじわと広がりつつある氷に気を配りつつ、ルツァリとミリスの魔法とカイリのハンドガンが空中のセレナを狙う。



数では明らかにこちらが優勢だが、相手が空中にとどまり続ける限り真の有利には持ち込めない。



無理矢理にでも引きずり降ろしたいところではあるが、相手は花の力で操られているだけのただの受付嬢。この戦い自体、彼女自身を人質に取られているも同じような状況だ。唯一空中への有効な攻撃手段を持つカイリも、かなり控え目な威力の銃を使っている。



「はぁ……"機関"が誇る実力者と元『カルテット』が揃いも揃って腑抜けちゃって。情けない」



そんな三人に不意に呆れた声をあげたのは、隠れていたはずのアリムだった。



いつの間にか前線へ躍り出ていたアリムは、あまりにもわざとらしい動きで頭を抱えている。



「あ、あいつ! いつの間にあんなところに……!」



「アリム様ッ!? 駄目です、今出てきては……!」



パイロとルツァリが同時に声をあげるが、それよりもセレナのほうが反応が早い。すぐさま引き絞られた弓は魔力の矢をアリムの元へ高速で放つ。



足元に氷の床が広がっていく中ではかばいに行くこともできない。なす術もなく、矢はアリムの身体を貫く……かに思えた。



「だーいじょーうぶ」



魔力の矢は突如として消え去り、当のアリムは無傷。



代わりに、その手には銃のような機械が握られていた。やや大きめながら懐には十分隠しておけるほどの大きさだ。



「えー、アリムん? なにそれ?」



「最近作った子でね。見ての通り銃なんだが……」



カイリの質問に答えながら、その引き金がセレナに向けて引かれた。



発射されたのは鉛玉などではなく、青い輝きを纏った魔力の塊。セレナは素早く大弓を盾としてその魔力を受け止める。



だがその判断が間違いだった。魔力の塊を受けた部分から、弓とセレナ自身の手が凍り付き始めたのだ。



「中にまっさらの魔石が組み込まれていてね。魔法を吸収して弾丸として放てるのさ。いやー、試作品なんだけど上手く行って良かった」



「何故そんなものを当然のように持ち歩いているのですか……なら最初から助力を頼んだのに……」



「てか、あんな余裕そうな態度取っといて賭けだったのかよ今の!?」



「い、色々と言いたいことはある。が、カイリは奴をた、頼む」



「おっとそうだった」



自らの氷を返却されてしまったセレナは両手が大弓にはりついてしまっている。まるで巨大な手錠のようだ。



「――! ッ!」



完全に凍り付いてしまっている手をどうにか外そうともがくその顔には、この戦闘が始まってから初めて明確に表情が表れていた。



魔法を維持するための集中力も削がれたようで、床に張り巡らされた氷は消えていき、セレナ自身の高度もゆっくりと下がってきていた。



「下へ参りまーす!」



そこに再びカイリが飛び掛かり、今度こそ地面へと叩きつけた。拘束にはミリスも加わり、男性二人がかりで押さえつけを行う。



「ッ……!」



最後の抵抗。セレナを拘束する二人の周囲に幾つかの氷塊が生まれ、襲い掛かろうとする。だが。



「無駄だ!」



ここは地上。即ち射程圏内だ。ルツァリの剣と魔法による連撃で、氷塊は瞬く間に砕かれていく。



最後にルツァリが剣を向けると、セレナは抵抗することをやめた。



「勝負あったな。色々と吐いてもらうぞ……話せるのならば、だが」



ルツァリがセレナを睨みつけながら威圧する。その視線は鋭いながらも、どこか憐れみの篭ったものだ。



そこからしばし沈黙が続く。セレナは暴れることもなく、かといって何か言葉を口にすることもなく、ただルツァリと目を合わせ続けていた。



「無駄か。仕方ない……彼女を地下牢へ連れて行きます。無論、以前のノゼル・リケイドのようなことが無いよう、片時も監視の目を外さぬようにして。もし正気に戻ることがあったなら、改めて話を聞きましょう」



「……そうだな。苦労をかける」



「ミリス様、カイリ。念のため応援を呼ぶのでもうしばらくそのままで」



「そりゃ良いけどこれ大丈夫? 女の子に男二人が乗っかってるのって絵面的に問題ない?」



「いらん心配をするな!」



相変わらずのカイリの態度に辟易しながらもルツァリは伝達魔法(テレパス)を使い、戦闘部門の人間を何人か呼び出そうとする。



「……?」



だが、その裏でミリスは奇妙な感覚を覚えていた。



「ん? どしたのミっちゃん?」



「お、お前は、へ、変なあだ名でしか、人を呼べないのか?」



「呼びやすいように呼んでるだけだっての。んで、どうした?」



「……ふ、服の中に、み、妙な感覚が、ある」



「えっ? 妙な柔らかい女の子特有の感覚?」



「一緒にするな、助兵衛。そ、それに、むしろこれは、か、硬(・)い(・)」



「硬い?」



カイリがミリスの言う硬い何(・)か(・)を探ってみると、それはすぐに見つかった。



確かに、洋服の中に何か硬い球状のものの感触があるようだ。



そしてそれは……蠢(・)い(・)て(・)い(・)た(・)。まるで、羽化を待つ卵のように。



「――ッ! ヤバッ! 離れろミっちゃん!」



カイリはすぐさまセレナの拘束を解いて退避する。ミリスもほぼ同時に異変に気付いたらしい。カイリが言うよりも早く、セレナの身体から飛びのいていた。



その瞬間だった。セレナの服を突き破って、何本かのツタが生えてきたのだ。



「なっ!? こ、これは!?」



「クソピエロのツタだ! あいつ、種を隠し持ってたのか!」



拘束を解かれて自由になったセレナはすっと立ち上がる。



背中には種から生えたツタが蠢いていたが、すぐに枯れて服の中から割れた種がボトボトと落ちてきた。どうやら種はあくまでも緊急回避用だったらしい。



「……」



両手は相変わらず凍り付いた大弓の手錠をされたまま。流石に分が悪いと判断したかは定かではないが、セレナは皆が呆気に取られている隙に長距離の瞬間移動を繰り返して逃亡していった。



「待つんだ!」



「あんたが待て、ルっちん!」



すぐさま追おうとするルツァリだが、カイリが彼女の腕を掴み、止める。



「あの伝達魔法の魔石を出せ! 剣聖サンたちに連絡を!」



「ラディス様たちに……!? 何故だ?」



「考えてみろ。今このタイミングで襲撃してきて、あっさり逃げて行ったってことはあ(・)の(・)子(・)を(・)こ(・)の(・)場(・)に(・)残(・)し(・)て(・)お(・)く(・)必(・)要(・)が(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)ってことだ! 去る前に、あわよくば俺らのうちひとりでも始末できれば儲けもんってな!」





「――あの子は多分、剣聖サンの所へ行く!」

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