↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術の師匠はフリーター  作者: 五木倉人
少女、新たな地へ
161/169

黒のプロローグ:Ⅱ

かつて、この世界に『色』というものは無かった。



白と黒。それがこの世界を彩る全てのもので、人々はそれを不思議にも思わなかった。今や当たり前となっている様々な魔法も、かつては現在"白属性"と呼ばれているものしか存在しなかったのだ。



では、その『色』は、そして『魔法』は何故生まれたのか?



全ては、悪魔の軍勢が侵攻してきたことが始まりだった……



この世界に悪魔の軍勢が現れたのは、今より遥か昔の事。正に、世界に『色』の存在しなかった時代だ。人類を滅ぼし、世界を取り込まんとする悪魔たちに多くの人が怯え、多くの人が嘆き……そして、多くの人が戦った。



ヴァイス・ミュオソティスという名の青年も、悪魔と戦った"勇者"の1人である。



ヴァイスは親友であったアルプス・マグノリアという少女とコハク・シラサギという少年と共に、悪魔の軍勢から世界を守るべく……悪魔たちの王を討つ旅に出たのだ。



========



「ヴァイス。アルプス。そして、コハク……」


「聞き覚えがあるだろう?」


「『白黒物語』の英雄たち……なら、この物語の魔王っていうのは……!」


「そう。悪魔たちを統率する者……統率者(Conductor)のことだ」



========



人類と悪魔の戦いの勢いはおさまることなく、何年も続いた。その間、ヴァイスたちも旅をしながら、ひたすらに悪魔たちと戦い続けた。



進み、新たな場で戦い、勝利を掴み、そしてまた進む。着実に実力を付けて行ったヴァイスたちは、やがて人類軍の筆頭として統率者(Conductor)に挑むほどの立場になっていた。



――そして、運命の日はやってくる。



それは、ヴァイスたちが決戦に挑んだ日。統率者(Conductor)と対峙した日の事。



統率者(Conductor)の強さは他の悪魔たちと一線を画していた。統率者(Conductor)の指揮下にある悪魔たちの連携、そして統率者(Conductor)本人の強大な黒属性魔法。3人はどうにか渡り合いながらも、苦戦を強いられていた。



やがて皆の体力も尽きかけた時。ヴァイスがアルプスからの強化魔法を受け、統率者(Conductor)からの魔法を迎撃しようとしたその時、"それ"は起きた。



窮地に陥っているが故の馬鹿力であったのか……ヴァイスの魔力が、普段よりも遥かに大きな力を得た。そして、その白の力と統率者(Conductor)の黒の力がぶつかった時、互(・)い(・)の(・)魔(・)力(・)が(・)弾(・)け(・)た(・)の(・)だ(・)。



瞬間、白により中和された黒は様々な『色』となって拡散する。空へ、木々へ、大地へ、海へ、河へ、動物へ、街へ、人々へ。



――世界に『色』が飛び散った。



========



「そうして、世界に色が生まれたのですか?」


「そういう事さ」


「ここまでは、おとぎ話の『白黒物語』と同じですね」


「この後はコハクが『色』の力……今で言う青(・)属(・)性(・)の力を得るのも同じだ。けれど……」


「そこから先は、物語と違う?」


「ああ。物語では、これで魔王を倒してハッピーエンドだ。けれど……」




「……ヴァイスたちは、それでも統率者(Conductor)には勝てなかったんだ」



========



世界に飛び散った『色』の力は、すぐそばに居たコハクにも宿る。それにより、彼の魔力は青く染められた。



おとぎ話として後世に伝わっている話では、これからヴァイスたちの反撃が始まる。――しかし、実際はそうもいかなかった。それどころか、状況はますます悪化していったのである。



コハクに宿った青の力が、そばに居た統率者(Conductor)の影響を受け、暴走を始めてしまったのだ。



青はコハクの得物である刀を媒介として、彼が過去に振るって来た"斬撃"をその場に呼び寄せ、辺り全てを斬り刻み始めたのである。



敵味方など関係が無い。生命か非生命かなど関係が無い。形あるもの全てを斬り裂く斬撃。1秒前に呼び出された斬撃が、その1秒後にまた呼び出される。それらは統率者(Conductor)への攻撃にもなるが、それ以上にヴァイスたち――コハク本人も含めて――へ与える傷のほうがはるかに大きかった。



ヴァイスたちの全滅は時間の問題。だが間もなくして、その状況は打開された。



――アルプスの、命を賭した最後の攻撃によって。



飛び散った『色』の影響を受けていたのはコハクだけではない。『色』が生まれた瞬間、アルプスもほんの少しだけ赤の力をその身に宿したのだ。そしてコハクの青の力と同じく、赤の力は統率者(Conductor)の影響を受け暴走しつつあった。



だが彼女はその暴走を逆手に取ったのだ。赤の属性は力の増幅・強化を得意とする。アルプスはその特性にいち早く気づき、自らの白の魔力を大幅に強化したのだ。



暴走していることによる、通常よりも遥かに強力な強化。更にアルプスは自身の生命力までも糧として、最後にして最も強力な魔法を繰り出したのである。



そうして彼女が放ったのは一筋の光線。細く、一見するとか弱い光に見えたが、その威力は今までに見たこともないほどに強大なものだった。



大きく増幅された白の力を、極限まで細く凝縮した光。それは統率者(Conductor)の身体を貫くと、その身体の内側で強烈な光となって弾け、辺りを白く染める。そして……




――それでもなお、統率者(Conductor)は倒せなかった。――




アルプスの最期の一撃で、確かに統率者(Conductor)の肉体は滅びた。だが……その魂(・)と(・)力(・)は、滅することが叶わなかったのである。



肉体が消え去ったことで統率者(Conductor)の影響も消え、コハクの魔力の暴走もおさまった。しかし、統率者(Conductor)はすぐさま肉体を再生しようとしている。



残されたヴァイスとコハクには統率者(Conductor)の魂と力までを滅ぼすほどの力は残されていない。かろうじて出来たことはそのふたつを白の魔力で閉じ込め、ヴ(・)ァ(・)イ(・)ス(・)自(・)ら(・)の(・)身(・)体(・)に(・)封(・)印(・)す(・)る(・)ことだけだった。



帰還した彼らの活躍は、表向きには統率者(Conductor)を倒したものとして処理された。人類に希望を与えるための、世界を騙す嘘だった。



========



「……以上が、ヴァイスたち3人と統率者(Conductor)との戦いの真実だ」



"彼"はそこまで話すと、少し大きめのため息をついてちょっとばかりの休憩を挟んだ。



沈黙が訪れる。フロワちゃんも私も真剣な表情をひとつも崩さず、けれども口に出す言葉を探すように、ただ"彼"をみつめ続けていた。



そしてしばらくの後、私は心を決め、大きく深呼吸をして口を開く。



「統率者(Conductor)を討伐した。その嘘の記録はすぐに世界に伝わって、その話を元に『白黒物語』というおとぎ話が生まれた。そうですね? ラディスさん……いいえ」




「コハク・シラサギさん」




「……ああ」



私がその名を呼ぶと、ラディスさん……改め、コハクさんは深く、噛みしめるようにしっかりと頷く。



「もう君たちにもわかるだろう。彼が一体何者なのか」



「……はい。にわかには、信じがたいことですが……」



今度は、私たち2人が深く頷く。



「"黒の魔術師"、イブリス・コントラクター。彼は……」





「彼の名は、ヴァイス・ミュオソティス。かつて統率者(Conductor)と戦った、"勇者"だ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。